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ゆたかの怪奇列島第六章「正義のかたち」  作者: こうた


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第2話「疑うことの罪」

朝。

前夜の静けさが、まだ現場に残っている。

だが——

何かが違う。

「……視線、増えてへんか」

ゆたかが呟く。

工事現場の作業員たちが、ちらちらとこちらを見ている。

さっきまでは、安心した顔だった。

だが今は違う。

疑い。

警戒。

「昨日のあれ……」

誰かが小さく言う。

「鬼、止めたんやろ?」

別の声が続く。

「でも、なんでそんな近くにおったんや」

空気が、少しずつ歪む。

「鬼と関わっとるんちゃうか」

ななが眉をひそめる。

「は? なんやそれ」

だが、言葉は止まらない。

疑いは、連鎖する。

見えないものが、広がっていく。

そのとき。

現場の端で、足音。

一定のリズム。

迷いのない歩き方。

「来てます」

神父が静かに言う。

ゆたかが顔を上げる。

そこに——

現れる。

白装束の男。

桃太郎

昨日と同じ。

完璧な姿。

だが今日は、少しだけ違う。

周囲の視線を、確かに感じている。

それでも——

歩みは変わらない。

「昨夜、異常な兆候が確認されました」

穏やかな声。

だが、その中に“断定”がある。

「この地域には、未処理の鬼の気配があります」

ざわめき。

「まだおるんか……」

「やっぱ危険なんや」

桃太郎は続ける。

「疑わしい対象がいれば、早期に対応する必要があります」

その言葉に——

空気が変わる。

ゆたかが一歩前に出る。

「待てや」

視線が集まる。

桃太郎が、静かに見る。

「なんですか」

ゆたかは、はっきり言う。

「昨日の鬼」

一拍。

「なんもしてへんかった」

静寂。

一瞬、時間が止まる。

桃太郎の目が、わずかに細くなる。

だが——

感情は見えない。

「……見えなかっただけです」

落ち着いた声。

「鬼は、本質的に危険です」

ななが口を開く。

「それ、誰が決めたん?」

周囲がざわつく。

「は?」「何言うてんねん」

桃太郎は、すぐには答えない。

少しの沈黙。

そして——

「決めたのは」

一拍。

「この世界です」

その言葉。

重い。

否定できない“正しさ”。

ゆたかは息を吐く。

「ちゃうな」

一歩、前へ。

「それは——」

「お前や」

空気が凍る。

作業員たちの視線が、一気に厳しくなる。

「何を言っているんですか」

桃太郎は、静かに返す。

怒りはない。

ただ、正しいと信じている。

そのまま。

「あなたは今、何を守ろうとしていますか」

ゆたかは即答する。

「人や」

桃太郎は、少しだけ間を置く。

「ならば——」

静かに言う。

「鬼は、人ではありません」

論理。

完全な筋。

周囲が頷く。

だが——

ななは、小さく言う。

「ほんまにそうなん?」

誰も答えない。

風が吹く。

工事現場の旗が揺れる。

そのとき。

たぬきの声が、低く響く。

「ええか」

一拍。

「疑うっちゅうのはな」

「“世界を壊す”行為や」

ゆたかが振り返る。

たぬきは、目を細める。

「でもな」

「“壊さんと見えへんもん”もある」

静寂。

桃太郎は、その言葉を受け止める。

少しだけ、沈黙。

そして——

「疑う自由はあります」

静かに言う。

「ですが、その結果に責任を持つ必要があります」

その瞬間。

視線が、ゆたかに集まる。

周囲が、無言で圧をかける。

疑った者が、責められる空気。

ゆたかは——

それでも目を逸らさない。

「なら聞くわ」

一歩。

「お前は」

「ほんまに“人を守っとる”んか」

沈黙。

桃太郎は答えない。

その代わりに——

静かに刀の柄に手を置く。

それは威嚇ではない。

“準備”。

疑いを消すための準備。

その姿を見て——

ゆたかは、確信する。

(こいつは)

(止まらん)

空気が、さらに張り詰める。

その奥。

見えない何かが、微かに動く。

誰も気づかない。

だが——

「……来るで」

ななが呟く。

ゆたかが頷く。

桃太郎は、静かに空を見る。

「準備を」

その一言で。

現場は、戦場に変わる。

■ 第6章 第2話 終

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