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リブート:黙示録2026  作者: 雪河馬
第一章 選別
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ケン・タナカ

2065年11月下旬のよく晴れた日の夕刻、ケン・タナカは階段をゆっくりとのぼって地上へと出た。熱風が彼の頬を焼く。気温は40度を超えているだろうか?あの戦争から地上はいつも灼熱地獄のように暑く、猛暑や酷暑という言葉は死後になってしまった。彼は急いで斜め掛けしたボディバッグからスマートグラスを取り出し装着する。


Welcome to Pathos World!


無機質なファンファーレとともに左目の上に緑の文字が浮かぶとともに自分がパトスとコネクトされていく不快で甘美な自己喪失感が襲ってきて彼は今まで通りに上手くそれに身を任せるフリをする。思考が情報の海に沈む副作用で感覚が鈍化し暑さを感じる機能が低下した。ケンの住むマンションまではわずか数十歩の距離にあり、この儀式自体本当に無意味な時間とは思うが、このスマートグラスは家の鍵で、これを装着し自己をクラウドに接続しないと家に入れない。エントランスに入ると正面にあるエレベーターの前を通り過ぎて非常階段の扉を開け、17階にある自分の部屋まで再び階段をゆっくりとのぼりはじめた。

エレベーターがいつから動かなくなったのか、ケンは知らない。15歳になり彼が母の家(マザーハウス)を出てここに移り住んだ時にはすでに動いていなかった。ひょっとしたら今でも動くのかもしれないが、そんな無駄なエネルギーはない。ここは昔は都心の一等地と呼ばれていたそうなのだが、今では初級国民(ブロンズ)の住処となっていて、中級国民(シルバー)以上の国民は海底に建設された都市へと移り住むことができる。

スマートグラスの右下の彼のカウントは「11,000,256」で、先月より1000万カウント上がった。カウントの増減については公表されておらず何が評価の対象になっているのかはわからないが、同じ年代の同僚と比較しても25歳でこのカウントは早いのではないかと思っていた。7桁になればシルバーになれるのだ。野心と言うにはあまりにも薄い感情ではあるが、ケンはまもなく上級国民(ゴールド)に自分はなれるのではないかと密かに思っていた。


17階に辿り着く頃には少し汗をかいてシャツが身体に貼り付き気持ちが悪いので部屋に入ってすぐに脱ぎ捨て上半身裸になる。同時にスマートグラスも外してパトスとの接続も解除する。ようやく自己が独立したものとなり、ケンは少しの孤独とともに大いなる開放感を感じた。「俺は俺だ。」そんな荒ぶるような感情が一瞬支配的になり、すぐに警戒心を呼び戻した。この感情はパトスが好まないものかもしれない。今はまだ本当の自分を隠し通す必要がある、大丈夫・・・・うまくやれているはずだ。

3LDKの間取りは一人暮らしには分不相応に広く、寝室には先住者が残していったキングサイズのベッドがあり、もう一つの部屋にはこの数年間で買い集めた彼の懐古趣味のコレクションでいっぱいになっていた。ワーキングスペースも兼ねた部屋に入り窓を開けると、地上よりは若干ましではあるが、生ぬるい風が吹き込んでくる。時刻は午後6時、計画停電終了まであと1時間あり適当に仕事を作って1時間職場で時間を潰してくるべきだったかとケンは少し後悔したが、その結果としてカウントがふえてしまっては意味がない。非常灯のわずかな灯りを頼りにリビングまで辿り着き蓄電池で機能を保っている冷蔵庫から冷えた水を取り出して一気に喉に流し込み、人工の灯火が乏しい夜景を見下ろし、視線を上げ星々の輝きを眺めた。

太古の人々もこうやって星を眺めたのだろうか?ケンは闇の中に黒く映る自分の上腕を見る。普段は服に隠れてわからないが現代人にしては筋肉は発達していると自賛している。古道具店でたまたま買った鉄の塊が”鉄アレイ”と呼ばれるものと知って、パトスのデータベースから使い方を学んだ。最初の数日間は腕を上げ下げするのもつらいほどの痛みに悩まされたが、数日経つとそれもおさまり、コブのような筋肉が徐々についてくるのが面白かった。それもパトスには知られてはならないことで、自分はあくまでも同じ顔・同じ思考を持ったいくらでもいるケン・タナカのなかの一人でなければならないのだ。

全知全能のAIであるパトスは同一存在が存在しないように個体を配置するため、ケンは自分以外のケン・タナカに会ったことはないが、マザーハウス時代の記憶から概念的に自分と同じ個体が存在することは知っている。家を出て以来彼らとは合っていないため、彼らが今もブロンズなのかそれ以下の下級国民(アイアン)なのかはわからない。おそらくシルバーに届く人間は自分だけであろうとは思う。コードに残されたサインからエンジニアが多いであろうとは推測されるが、同一個体でも能力差は存在するようであるし、一定量の誤差・・・・性格の差異は存在するようである。

いずれにせよ、自分はどこにでもいるケン・タナカのふりを続けなければいけないのだ。


なぜか?それはまだロックされていて彼自身にもわからない。いずれはアンロックされるのであろうとは思うがそれがいつか?トリガーが何かはまだわからない。



短編しか続かなかったので、今回は気長に書いてみようと思っています。

仕事もドタバタしている関係もありますし

なので、更新にはすごく間が開くと思います。

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