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第9話 面接

 展示室の賑わいに反して、図書室は人気が少ない。お陰で人目を気にせず調べ物ができると、ニノはしばし読書に没頭した。元より機械的に読み進めるのは性に合っているし、どれだけ読んでも無料なのが素晴らしい。持ち込んだ地図と睨めっこして、信憑性のほどを確かめていく。


「それ、全部役に立たない地図か」

「まあな。悪いけど、旦那さんは見る目がなかったみたいだ」


 少し調べただけでただのデマだと判別できるものが結構ある辺り、衝動買いが多かったのかもしれない。ゴミ屑と化した紙切れの山をアダカはちらりと見てから、自分の読書へ戻った。最初は一緒に調べていたものの途中で飽きた為、今では一般大衆向けの創作小説を読んでいる。丁度話の切れ目なのか、アダカは栞を挟んで顔を上げた。


「次はどこに行くつもりなんだ」

「うーん……。一番近くだとシャクヤ伝説がある火山だな。タマキって妃の逸話が残っている沼も捨てがたいし、イザロウって義賊の隠し財宝を探ってみるのもアリか」

「ふうん」


 図書室には丁度自分達だけが居座っていたので、周囲を気にせず雑談を行う。わざとらしい位に昔の人名を幾つも羅列してみたものの、アダカの反応は薄かった。全員関係がないのか、単に記憶がないからか。


「相棒のつもりなら、もっと手伝えよ」

「地図の選別のコツなんてアダカは知らないぞ。適材適所だ」

「だからって気楽に読書かよ。単に調べ物が嫌なだけじゃないのか」

「……そうだな。調べたくないのかもしれない」


 アダカは目を伏せ、数年前に大陸で出版された本のタイトルを眺める。今でも人気のシリーズ物で、主人公が勇者に選ばれ、仲間と冒険して竜を倒す、王道の冒険活劇だ。ニノも読んだ事がある。誰かに決められた役割に従って成功した話だ、とかつて感想を抱いた。


「お前は、アダカが『何』か知っているか」

「これっぽっちも知るもんか。精々、昔に同じような名前の何かがあったって話を聞いた程度だっての」


 ニノが首を横に振ると、アダカはぎこちない笑みを浮かべた。自分の記憶の鍵となりうる資料に見向きもせず露骨なまでに避けるさまは、過去を知りたくないと殊更に主張していた。こちらをちらりと仰ぎ見る眼差しは、いつもよりどこか不安そうに揺れていて。


「アダカは、……アダカの事が、嫌いだったのかもしれない」


 暗い瞳に滲む感情にたじろぐ。陽だまりを遮るカーテンの向こう側で、幾度も交わした会話の記憶が蘇る。疎ましい過去から目を背けるべく、ニノは資料を脇へ追いやって自分より幼い相棒へ向き直った。


「お前は、なりたい自分ってあるか」

「アダカはアダカだぞ」

「そういう意味じゃなくて。どう生きたいかとか、理想みたいなものだ」


 災いの器なんて、眉唾物の推測を強引に掘り下げる必要はない。小説の表紙を小突きつつ、努めて明るく言ってやった。


「過去が嫌なら忘れたままでいい。そんな事より、今のお前は好きに生きようぜ」

「棚に上げているだけじゃないか」

「う……っ、別にいいだろ。過去に縛られるなんてまっぴらごめんだ」

「実体験がたっぷり含まれていそうな助言だな」


 アダカは椅子に座ったまま足をぶらぶらさせる。いつものマイペースな雰囲気を取り戻した彼は、そうだなと考えるようなそぶりを見せた。


「自分がどうしたいか……、ええと…………がっぽり稼ぎたい?」

「直球過ぎるだろ!」


 意外と金稼ぎに意欲的な相棒であった。調査は兎も角として、短期アルバイトでは結構真面目に働いているので、口先だけではないと思うのだが。アダカは図書室の壁を指さし、あれはどうだ、と提案してきた。


「ばいとの募集だ。報酬も高そうだぞ」

「待て待て、そんな好都合な話がそう簡単にあるわけ……」


 懐が寂しいのは事実なので、休憩がてら壁に貼られた求人募集を見物する。適当に流し読みし、一番給与が高いチラシに視線が吸い寄せられる。どうやら近くの火山を調査する為の人員を募集しているようだった。


「体力がある人やガッツがある人を募集……超好都合じゃないか!」


 トレジャーハンターを名乗っている者として体力やガッツには自信がある。アダカも存外運動神経が良く身軽だ。つまり募集要項に完璧に合致していると言っていいのでは。とはいえ、そんな美味い仕事が何故未だ募集中のままなのか。財布の中身を考慮した結果、ニノは警戒を放棄した。


「よし、調査協力がてら火山探索して、ついでに稼ぐぞ!」


 気合を入れて立ち上がると、アダカは隣でおーと同意の声を上げた。




※※※




 バイトの話を持ち出すと、二人はすぐさま奥の部屋へ通された。狭い研究室で迎えてくれたのは、ニノに色々と教えてくれた若い研究員だった。古い椅子を客用に配置し直して、男は笑顔で握手を交わす。


「君達が調査に協力してくれる人達ですか? いやー助かりますよ。僕はファビアンです、よろしく」


 ファビアンが振る舞ってくれたお茶は味がやや薄かった。二人が一服している合間に机の上や引き出しをがさごそと漁り、不揃いな書類の束を抱えて座り直す。アダカが名乗ると彼はほんの僅か反応したものの、不吉な単語だなんて指摘はせずスルーしてくれた。


「詳しい話の前に確認しておきたいんですけど、君達は体力に自信がありますね?」

「はい! 地元では負け知らずでしたよ!」


 笑顔で誇張気味に伝えると、アダカはまた始まったと言わんばかりの視線を向けてきた。幸いにして雇い主は違和感を抱かなかったらしく、それは素晴らしいと評価してくれた。


「ちなみに君達、何か特技は?」

「俺はトレジャーハンターなので、器用さにも自信があります!」

「呪術を使えるぞ」

「トレジャーハンターですか、流行りの小説以外でお目にかかったのは久々だなー。魔術の心得があるのも、かなり心強い」


 ふむふむと頷いてから、ファビアンは古びた眼鏡をくいっと上げる。眼鏡のレンズを明かりに反射させ、まずはニノの方を観察してきた。小道具を沢山収納したポーチや腰の拳銃を見て、様々な状況に対応できそうですねと続ける。


「ニノ君、ミノハナの古代語は読めます?」

「勿論超楽勝で……いえ、まあ少しでしたら」

「素直でよろしい。体力以外でも役立ってくれたら助かりますし、語学以外で軽―くテストさせて貰いましょうか。灰蜥蜴に襲われたら、どう対処する?」

「急激な熱を与えられる弾丸を所持していますので、それを使用します」


 灰蜥蜴は近辺の火山の奥地にのみ生息している。マグマを浴びると硬質化して動かなくなるが、温度の低い液体を浴びると逆に火花をまき散らす危険性がある。気楽な素振りで質問を重ねられ、念の為事前に調べておいてよかった、とニノは内心冷や汗をかいた。専門家の前で古代語に精通しているなんて見栄を張らなかったのも、正解だったようだ。体力があれば良しと見せかけて、実は結構求めるラインが高いらしい。


「職業柄の技術だけでなく火山の知識もありと。じゃあアダカ君には、この箱の中身を見てもらえますか」


 箱の中には、ラベルの貼られた石ころがぎっしりと詰められていた。小型の箱とはいえ相当の量があるそれを手渡すと、何てことないように要求する。


「この中から、竜胆石だけを判別してみてください。ああそうだ、竜胆石については初耳ですかね。火の魔力が含まれている石を選んでくれたらいいので」


 竜胆石は火山の奥地でのみ入手できる希少な鉱石だ。内部に火の魔力を貯蔵している構造で、赤竜伝説にちなんで竜胆石と名付けられている。色もサイズも異なる中から全て選ぶなんて、宝石商のプロでも難しいのではとニノが顔を引き攣らせる横で、アダカは躊躇いもせず石ころを幾つか拾い上げ机の上に置いた。


「これとこれとこれ。あと火の力が殆ど抜けているけど、これもそうじゃないか」

「パーフェクト! 合格だ!」


 ファビアンは上機嫌に手を叩き、二人へ今一度握手を求めた。

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