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終話 宝と成す

 ミノハナの灼夜伝説ブームは、しぶとく生き残り続けた。とあるテロリストの女性が捕まろうと、街外れの廃神社が取り壊されようと、地元民は迫りかけていた危機を知らぬまま平穏を享受し、ミノハナは独自の文化が売りの、人気の観光地であり続けている。


「一年ぶりだってのに、大して変わらないな」


 新たにミノハナへやってきた観光客に混じり、旅慣れた装いにフードを深くかぶった青年が独り言ちる。船を降り立つと、しっかりとした体躯の男が大仰なお辞儀をして迎え入れた。


「お前は以前より身長が伸びたな。身体つきも大人っぽくなった」

「はいはいそれはどうも」


 戯言を適当に流し、ニノは顔を隠すようにフードの端をつまんで下げる。一年ぶりとはいえ、保守派の連中と顔を合わせる可能性を避けたかったが故だ。


 アダカが再び封印され、ニノは保守派に完全にマークされていた。助けるどころか下手に探りを入れる事すら難しく、自分一人で事を成すのは無謀だと、頃合いを見計い大陸で再起を狙い続けていたのだ。


「本当に、随分大人になったものだ。昔のお前なら、俺の手も借りず一人で突入していただろう」

「職業柄、探索前の念入りな事前準備が大事だって身に染みているからな」


 戦力差を理解していたから、貯めた金でエイトを雇った。組織の手を借りるなんて癪だと以前なら意固地になっていただろう。今となっては大分割り切れている。自分は雇用主で、彼を金で雇っているだけの関係だと。


「いい加減、俺を子供扱いするなよ。もうお前らの家族でもないんだし」

「分かっているさ。これは昔の知人……いや、年上の友達のお節介と思ってくれ」

「契約次第で裏切りそうな友達はいらない」

「おや、大きくなっても可愛い事を言うんだな、お前は」


 揶揄い混じりの声を、ため息とともに押し流す。保守派に雇われていた経歴がある彼はこれからの作戦に役立つと判断したが、早くも面倒になってくる。それを我慢できている自分は、やはり大人になったのだろう、と思った。


 自分は今も、アダカの相棒でいられているだろうか。ミノハナを飛び出してから、幾度もそう自分に問いかけた。すぐ助けに行けなかった自分は、嫌いな相手とも手を組むようになった自分は、『清く正しく』を捨て去ってしまった自分はもうアダカの待っていた相棒ではないかもしれないと。思考に囚われそうになるのを、隣の男が軽く肩を叩いて遮った。


「考えすぎていると、深みにはまって時間を食うぞ。この一年でコネを得た研究所へあの子を紹介するなら、早い方がいいのだろう」

「いやなんでそれ知ってんだよ……」

「顧客に裏がないか確認するのも組織の嗜みさ」

「顧客の裏は問わないのが暗黙のルールだろ」


 よく覚えているじゃないかと穏やかに笑われ、げんなりした。家族の縁を切っても、かつて過ごした時間はなくならない。アダカと過ごした時間だってそうだ。どう転ぶか分からなくとも、まずは取り戻なければ始まらない。


「保守派の動きは」

「お前の置き土産を無害化し続けるので忙しそうだ」


 あの日アダカに呪いを押し付けさせた大量の品々は、どれも立派な呪いのアイテムと化したらしい。器としてのアダカがかつて重宝されたのも納得がいく。ともあれ、保守派は自分達の手で鎮めるべく日々尽力しているらしい。


「リーダーが代わった懐古派の方は規模が縮小して、プラカード運動に専念している。漁夫の利は狙えないぞ」


 勝機はあるのかと尋ねられ、頷いてみせる。服の中にしまっている石は、アダカの居場所を今もなお示していた。場所が分かるから、向かうのは簡単だ。封印されてまだ一年程度しか経っていない為、厳重に警戒されていそうなのが問題である。術を扱う人間は厄介であるし、殺さないとすると更に大変だ。『清く正しく』はやめたが、それはそれとして置き土産の尻拭いをさせられている上に、死人を出すなんて問題を増やされたら大変だよなと思うので。


「いっそ逃げずに、保守派の内部に潜り込んで機を窺う方が簡単じゃなかったのか」

「相棒を取り返しに何度も動き回った奴を懐に入れる程間抜けじゃないだろ」

「さて、どうだろうな。あれでハクジは甘い男だったからな。それに最近の購入履歴から推測するに……」


 ニノよりも少し早く現地入りして情報収集を行っていたエイトは、何かを言いかけてやめた。まあ続きは精査してからにしよう、と打ち切られる。


「下準備を終えたら、とうとうあの子を盗み出しに行くんだろう。これを機に怪盗とか盗賊へ転職するのはどうだ」

「ダークサイドの職をさらっと勧めるなっての」


 アダカを確実に取り戻すどころか、下手をすれば指名手配。仮にうまくいっても、アダカの体質をどうにかできる保証はない。だとしても、足掻けるだけ足掻くつもりだ。一番大事なのは諦めない事だと、この職を選んで最初に学んだのだから。


「俺はトレジャーハンターだからな。宝を迎えに行くだけさ」


 古びたマントをはためかせ、ニノは胸を張って宣言した。


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