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桃太郎、鬼に告白される

作者: 越智夜明

おとぎ話BL

男前な鬼×ツンデレ?美少年桃太郎

 

鬼ヶ島遠征から一年後。

色々あったけれど平和になった世界線の話です。


鬼退治から、一年。

 村の英雄となった桃太郎は、ある一通の文を手に縁側で深く思い悩んでいた。

『節分の日酉の刻、貴殿の家へ伺う。伝えたいことがある』

 荒々しい筆跡。差出人は鬼ヶ島の鬼の頭領である。

「……果たし合い、だろうか」

 色白の端正な顔が曇った。

 あの戦いの日、桃太郎は自分に立ち向かってきた鬼の頭領に、あろうことか一目惚れしてしまったのだ。荒々しく金棒を振るう姿のなんと猛々しく美しいことか。

 懲らしめて宝を持ち帰ったものの、あの日から心はずっと鬼ヶ島に置き去りだ。

「もう傷つけたくない。けれど、無防備に迎えるわけにも……」

 悩み抜いた末、桃太郎が用意したのは、刀ではなく升に入った福豆だった。

 鬼が指定した日は奇しくも二月の節分の日。

(せめてこれを使って大きな怪我をさせずに追い返す……あるいは隙を見て逃げよう)

 そんな悲しい決意を胸に、彼は大豆を煎って福豆を準備した。

 そして迎えた節分の日。

 約束の酉の刻(夕方六時頃)になると、

 どしん!どしん!

 地響きのような足音が近づき、家の戸が激しく叩かれた。

「桃太郎いるか! 約束通り参ったぞ!」

 意を決して戸を開けると、そこには一年前と変わらぬ、筋骨隆々の恐ろしいほどに立派な鬼が立っていた。夕闇の中で黄金の瞳がギラリと光り、桃太郎の心臓は跳ね上がる。

(ああ、やはり美しい……) 

 その瞳を遠い思い出のように見つめて、桃太郎はわずかに声を弾ませた。

「……来たのですね」

「ああ、久しぶりだな」

「ええ……」 

 桃太郎は緊張のあまり指が白くなるほど升を握りしめ、対する鬼はなぜか心配そうに瞳を揺らした。

「……お前、少し痩せたか?」

「えっ?」

「目の下にくまもできているな」

 予想外の気遣いに戸惑う桃太郎。

 鬼はさらに一歩踏み込んだ。

「お前をそんなに悩ませているのは誰なんだ?」

「な、何を唐突に。どうだっていいくせに」

「良くない」

「突然来て何なんですっ。あなたには関係ありませんよ!」

「いや関係ある」

「なぜですかっ」 

 久しぶりに近くで見る鬼の男ぶりの良さときたら。桃太郎の胸が高鳴る。

(私はもうこの方を傷つけたくない……!)

 桃太郎は、渾身の想いを込めて豆を投げつけた。

「お、鬼は外っ!鬼は外です!」

「おっ!?」

 バラバラバラッ! と、乾いた音を立てて豆が鬼の厚い胸板に当たる。当たっては弾け、弾けては転がる。もちろん鬼はビクともしない。

「鬼は外鬼は外鬼は外ーーっ!!」

 傷つかないとわかっていたって、好きな相手に豆を投げつけるのはつらい。会いたくてたまらなかったのに、追い返すしかできないことが悲しい。

 桃太郎の瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれた。

「来るな!来ないで!あなたの屈辱はわかります!けれどもう傷つけたくないんです!」

 桃太郎が豆を振りかぶったとき、鬼が呆然と呟いた。

「ひょっとしてお前、それで豆で追い払おうとしてるのか?」

「……っ」

 桃太郎の豆を握りしめる手が震えている。

 鬼はずずいと近寄って、その手を掴んだ。桃太郎を見つめる目が切なく揺れる。

「……桃太郎。俺はお前に倒されたあの日以来、飯を食っても酒を飲んでも味がしない。人間と鬼の和平が結ばれたのに、俺の世界は色を失ってしまった。月を眺めては返り血を浴びたお前のぞっとするような白皙を思い出して胸が苦しい……」 

「えっ」

「強く清らかで残酷な……、お前の美しさに俺は惚れてしまったのだ。どうか恋人になってくれ!」

「…………ええええっ!?」

 あまりの衝撃に桃太郎の頭は真っ白になった。果たし合いどころか、愛の告白とは。嬉しさと、驚きと、じわじわとこみ上げる恥ずかしさ。

 どうしていいか分からなくなった桃太郎は、手に持っていた豆を勢いよく相手に投げつけた。

「私も好きです!えいっ!」

「待て、桃太郎! 痛くはないが、これでは話が……!」

「ええい鬼め!嬉しい!節分のばか!鬼は内っ!」

 桃太郎の「好きだ」という叫びに代わった豆投げは止まらない。

 鬼は豆を浴びながらしばし考えていたが、突然、飛んでくる豆を取っては食い、取っては食い始めた。ひょいパク、ひょいパク、ボリボリ。

「……ほう、香ばしくていくらでもイケるな。酒にもあいそうだ」

「……なんで食べちゃうんですか」

「愛しい桃太郎が投げた豆だ。一粒も無駄にはせん」

 鬼は最後の一粒まで器用に食べると、桃太郎をひょいと抱き上げた。

「お前の投げた〝福〟豆は、みな鬼の腹の中だ。これで俺を追い払えまい」

「……降参です。もう豆もありませんし……」

 桃太郎は嬉しそうに鬼の腕の中におさまった。

 そんな二人をずっと囲炉裏端で見守っていたお爺さんお婆さんをはじめ、猿雉犬も拍手をして祝福したんだとさ。めでたし、めでたし。

 

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