第9部 夜の帳と爆炎魔女の懺悔
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ゆいが慌てて小屋から飛び出してから数時間が経った。タケは、もはや体調の不調は完全に消え、ベッドに横になりながら、先ほどゆいがローブを脱いで見せた普通の私服姿を思い出していた。
夜も深くなった頃、小屋の戸がギイと小さな音を立てて開いた。
ゆいが、ローブを脱いだままの私服姿で、そっと小屋に入ってきた。手にはロウソクを持っているが、その光は微かだ。ゆいはタケの方を見ず、隅にある棚に向かって歩く。
「ゆい……どうした?もう大丈夫なのに」
タケが声をかけると、ゆいの肩がビクリと跳ねた。
ゆいはロウソクの光の中で、眼帯をそっと外した。彼女の瞳は、焦燥と、何かを恐れるような不安の色を湛えていた。
「タケ……本当に大丈夫なの?吐き気は?まだ耳は痛い?」
ゆいは、中二病の鎧を完全に脱ぎ捨てた、ごく普通の少女の顔でタケを見つめた。タケの頬を優しく撫でるその手は、冷たかった。
「ああ、大丈夫だ。むしろ、元気になりすぎた。お前の毒薬のおかげでな」
ゆいは深いため息をついた。
「よかった……。私ね、本気で怖かったの。私が本当に、タケを殺してしまうんじゃないかって」
ゆいは俯いたまま、小声で、まるで懺悔のように話し始めた。
「……タケ。私のこと、『厨二病の爆発魔女』だと思ってるだろ?まあ、そうなんだけど。でもね、半分は、本気なの」
タケは黙って、ゆいの次の言葉を待った。
「私、……この世界に来る前は、爆発なんて魔法、使えなかった。ただの、普通の中学生だった。もちろん、黒ローブを着て、『エクスプロージョン!』って叫んでたけど、それはただの妄想……」
ゆいは、声を震わせながら、最も辛い過去を語った。
「元の世界では、みんなに変わってるって思われてた。私が『終焉の爆炎』とか言っても、誰も笑ってくれなかったし、むしろ避けられてた。学校にも、クラスにも、私の居場所なんてなかったの……。だから、せめて、妄想の中だけでも、特別な自分でいたかった」
ゆいは、タケが知る『爆炎の魔女』からは想像もできないほど、孤独で傷ついた少女だった。
「でも、目が覚めたら、本当に魔法が使えるようになっていたの。そして、この村も、『我が魔導の理想郷』って、ずっと妄想してた舞台にそっくりだった。だからね、タケ」
ゆいは、涙の滲んだ瞳でタケを見つめた。
「私が、普通の女の子じゃなくて、『爆炎の魔女』のふりをしているのは……この爆発魔法が、『私にも居場所がある』って証明してくれる、唯一の証拠だからなの」
タケは、その涙を見て、自分の恋心が単なる憧れやドタバタではないことを理解した。ゆいが、この世界でたった一人、素の自分を見せられる相手が、自分なのだ。
タケは、静かにゆいの手を取り、優しく言った。
「そうか。お前は『爆炎の魔女』のフリをしてるのか」
「……うん」
「わかったよ」タケは微笑んだ。「じゃあ、俺は『爆炎魔女の唯一の従者』として、お前がこの世界に居場所があるって証明できるまで、全力でツッコミを入れ続けてやる」
ゆいは、タケの言葉の意味を理解できず、顔を上げた。
「……ツッコミ?」
「ああ。お前が爆発で村をぶっ壊そうとするたび、俺が『ここは本物だ』って、現実に戻してやる。お前が一人で寂しくならないようにな」
タケは、ゆいの頬に触れ、優しく眼帯をそっと直してやった。
「だから、もう二度と、一人で毒薬なんか作るな。お前が作る毒薬は、俺の体じゃなくて、俺の心に効きすぎるんだよ、ゆい」
タケの真剣な言葉に、ゆいの顔は再び爆炎のように真っ赤になった。彼女の瞳は、驚きと、タケの優しさに対する感動で潤んでいた。
「な、何を、何を言っている!貴様は本当に凡庸な従者だな!わ、わかった!そのツッコミ、受け入れてやる!……さあ、寝ろ!もう夜だ!『闇の結界』は張ってあるから、絶対に私に触れるな!」
ゆいは慌ててタケのベッドから立ち上がると、急いでロウソクを吹き消した。
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