第7部 その看病は、恋の副作用
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ローブを脱ぎ、ごく普通の女の子の姿になったゆいは、今や完全に看護師モードに入っていた。しかし、その「看病」は、彼女の「爆発実験」と同じくらいに危険なものだった。
ゆいは、棚から取り出した薬草を小屋の隅の簡素な火で煎じると、木の椀に注ぎ、熱いままタケに差し出した。
「さあ、タケ!飲め!これは『生命の躍動を促す深淵の茶』だ!苦くてマズいが、その苦さこそが、爆発の反動で腐敗した貴様の魂を清めるのだ!」
「うるせぇよ、毒で苦しんでるのに、なんでまたマズいものを飲まなきゃいけないんだよ!」
タケは口を付けた瞬間、またも吐きそうになった。昨日飲まされた泥ジュースを、さらに濃縮したような酷い味だ。
「マズッ!泥水を爆破して煮詰めた味だ!お前の料理は、爆発力以外に何の価値もないのか!」
「煩い!文句を言うな!これは愛の……!……いや、名誉の回復のために必要な儀式だ!」
ゆいは、言葉を間違えそうになって顔を真っ赤にしたが、すぐに「名誉」という単語で自分を取り繕った。
ゆいは次に、タケの額に手を当てて熱を測ろうとした。だが、彼女の行動はあまりに不器用だった。
「えーと、熱の検知は……『魔力の波動』で測る!」
ゆいはそう言いながら、自分の冷たい眼帯の金具を外し、眼帯そのものをタケの額にペタッと貼り付けた。
「ひゃっ!つ、冷たっ!」
「静粛に!これで魔力センサーとして機能する!……フム。まだ熱がある。体内で爆炎がくすぶっている証拠だ!」
眼帯越しでは何も分からない。タケはツッコミたい衝動を必死に抑え、ゆいの方に集中した。
(やばい、近い。さっきから、ゆいが普通の女の子の匂いしかしねぇ……。あのローブ、毎日ちゃんと洗ってたのか……?)
タケはゆいとの距離に心臓がドキドキ鳴っている。
ゆいはさらに、タケの顔を覗き込む。
「まだ熱がある!このままでは、貴様の魂が爆炎の反動で焼き尽くされる!私が魔力を吸い取る!」
「は?ちょ、待て、何をす――」
ゆいは、タケの耳元に顔をグッと寄せた。タケの視界には、彼女の長い睫毛と、焦りで揺れる瞳しか映らない。
(なんだこれ!?何が始まるんだ!?キス!?いや、そんなわけ――)
タケの心臓は、今度こそ本気で爆発するかと思うほど激しく鼓動を打った。
ゆいの吐息が耳にかかった瞬間、ゆいは突然、タケの耳の穴に目線を固定した。
「よし!見つけた!魔力の残留カスだ!」
ゆいはそう叫ぶと、細い指先をタケの耳の穴にツッコんだ。
「いてっ! ゆい!何をやってんだ!?」
「静かに! 貴様の耳の奥で不純な魔力がくすぶっている!それを吸い取らねば!」
ゆいは親指と人差し指で、タケの耳を掴むと、そのまま耳たぶを思い切り引っ張った。
「あががががが! 痛い!やめろ!ただの耳掃除だろ、これ!」
ゆいは、痛みに悶えるタケに全く構わず、真剣な顔で引っ張り続ける。
その時、パンッというごく小さな、乾いた破裂音が、タケの耳の奥から響いた。
ゆいはハッとして手を離し、タケの耳を覗き込む。
「あ!見ろ、タケ!魔力の残留カスがミニ・エクスプロードしたぞ!」
タケの耳の穴から、微かな白煙がフワリと立ち上っていた。
「魔力の残留カスってなんだよ!爆発で煙出てんだろ!しかも耳から!」
タケは怒鳴りながらも、ゆいが自分を心配して痛い看病をしてくれたという事実に、心が温まるのを感じていた。
ゆいは、白煙が収まったのを見て、安堵の表情を見せた。そして、ハッと我に返ったように、いつもの中二病の威厳を取り戻そうとした。
「フフン!見たか、タケ!この程度で済んだのは、全て我が『爆炎の魔女』としての魔力制御のおかげだ!貴様は九死に一生を得たのだ!感謝しろ!」
そう豪語しながらも、ゆいの顔はまだ赤く、ローブを脱いだままであることに気がついていない。
タケは、そんな彼女の不器用で、命懸けな看病を目の当たりにし、深く深いため息をついた。
(耳を爆発させてまで助けようとしてくれるなんて……。もう、笑うしかないだろ)
タケは、ローブを脱いだゆいと、ツッコミの限界を超えた自分の恋心を、諦めることをやめたのだった。
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