第6部 爆炎魔女の素顔と、一番安全な場所
最後まで読んでくださると嬉しいです!
ゆいに手を引かれて連れてこられたのは、村の裏手の、ほとんど人が踏み入れない森の奥。
そこに隠されていたのは、古びた、しかし手入れされた小さな石造りの小屋だった。ゆいはこれを「我が魔力の深淵たる、秘密の隠れ家」と呼んでいる。
小屋の中は、意外にも整然としていた。中央に古びたベッド、隅に薬草のようなものが並べられた棚、そして壁には手描きの爆発の図や、大仰な呪文のメモが所狭しと貼られている。
「さあ、タケ!ここで絶対に安静にしていろ!」
ゆいはタケをベッドに座らせると、タケの顔を覗き込んだ。ローブ姿だが、昨夜のパニックから抜け出せず、中二病的な威厳は完全に消え失せている。
「あの……ゆい?本当に大丈夫だって。ちょっと気持ち悪いだけだし、火傷も大したことない」
タケは動揺しながら言うが、ゆいは真剣な顔のままだ。
「黙れ!この体調不良は、私の過失よ!この世で最も純粋な爆炎を愛する私が、毒を作ってしまったなんて……。もしタケに何かあったら、私は……!」
ゆいはそこで言葉に詰まり、唇を噛んだ。
その時、ゆいは急にローブの首元が暑苦しくなったのか、迷うようにローブのフードに手をかけ、サッとそれを脱いだ。
「えっ……」
タケは思わず息を飲んだ。
黒ローブの下から現れたのは、白いブラウスに地味な灰色のスカートという、ごく普通の村の女の子の服装だった。眼帯はそのままだったが、無造作に結ばれた髪、いつもローブに隠されていた華奢な肩。そして、焦燥で少し赤くなった頬。
普段のゆいが纏っている「爆炎の魔女」の鎧を剥ぎ取った、素の「ゆい」がそこにいた。
「う、動揺するな、タケ!これは緊急事態よ!魔力の制御が乱れると困るから、封印を解いただけだ!」
ゆいは照れ隠しのように大声で叫ぶが、その声はいつもの響きがない。
タケは、彼女の普通の女の子としての姿を見て、頭の中が白い煙に包まれたようだった。心臓はドンドコと激しく鳴っている。
(なんだ、これ。……めちゃくちゃ、普通の可愛い子じゃねぇか。いつもなんであんなごついローブ着てんだよ!)
ゆいは、棚から薬草を取り出すと、慣れない手つきでそれをすりつぶし始めた。
「これ……『生命の躍動を促す薬草』よ。本当は爆炎魔法の補助用だけど、毒にも効くかもしれない。すぐにお茶にして煎じるからね」
ゆいは真剣に作業に集中している。普段は「究極の爆発」のためだけに存在している彼女の手元が、今はタケのために一生懸命動いている。
タケは、そんなゆいの姿をじっと見つめていた。
「おい、ゆい……」
「何よ!今は話しかけないで!集中してるんだから!」ゆいはピシャリと言う。
「いや、違う。お前さ……」
タケは一呼吸おいて、自分の本心を口にした。
「お前がこんなに心配してるの、初めて見た。その……俺のために、素っ裸(ローブを脱いだ姿)になってまで、焦ってくれてるんだろ?」
ゆいは、薬草をすりつぶす手をピタッと止めた。
「そ、そそそ、素っ裸じゃないわよ!これは俗世の服装だ!勘違いするな!」
ゆいの顔が、耳まで真っ赤に染まる。タケの直接的な言葉に、彼女の中二病の防御壁が崩壊していた。
「あー……そうかよ。でもさ、お前が『私を殺しちゃう』ってくらい、俺のことを大事に思ってくれてるってのは、よーく分かった」
タケは優しく微笑んだ。
「ありがとう、ゆい。俺にとって、お前が一番安全な場所だよ」
タケの優しく、まっすぐな言葉に、ゆいは完全に固まった。彼女の顔は、彼女の魔法の炎よりも熱く、彼女がこの世の何よりも愛する爆発よりも強力な衝撃を、彼女の心に与えていた。
ゆいは、顔を赤くしたまま、どもりながら言った。
「ば、ばば馬鹿なことを言うな!わ、私はただ!私の名誉が!爆炎の魔女の名誉が傷つくのが嫌なだけであって!」
その後のゆいのツッコミは、いつもより一オクターブ高い、震えた声になっていた。
タケは確信した。
(あ、ダメだ。もう、ただの親友の枠には戻れない。こいつのこと、好きだ)
最後まで読んでくださりありがとうございました!
また別の作品も読んでくれると嬉しいです!




