第5部 その動揺は、爆発よりも強力
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朝日が昇り、タケはなんとか眠りから覚めた。
口の中はまだカビと泥と生臭い何かの混合物の味が残っており、頬に触れると昨夜の火傷がヒリヒリと痛む。
(くそ、ゆいめ……。本当に、ちょっとだけ手のひらから火花が出たんだ……。あれはやっぱり魔力だったのか?)
タケが混乱していると、家の裏から聞き慣れた声が聞こえてきた。しかし、その声はいつもの大仰な、芝居がかったトーンではない。
「タケ!タケ、大丈夫なの!?」
タケが庭に出ると、そこには黒ローブのゆいが立っていた。しかし、彼女の態度は完全にパニック状態だ。
「よ、ゆい……?なんだ、その顔。今日は『終焉の魔導師』の顔じゃないな」
ゆいはタケのツッコミを聞く余裕もない。大慌てでタケに駆け寄ると、タケの顔を両手で掴み、焦げ付いた頬を心配そうに覗き込んだ。
「そんなことどうでもいい!顔色悪いよ!しかも、その火傷……!昨日、私が『爆炎の魔力源』って言って飲ませたもの、もしかしたら本当に『闇の毒薬』だったのかもしれない!」
「あ、いや、毒は毒だろうけど……」
タケは、ゆいが至近距離で自分の顔を見つめていることに、急に緊張した。ゆいがローブを着ていなかったら、完全にただのデートの距離感だ。
「どうしよう!私が作ったものよ!魔導書には『魂の覚醒を促す』って書いてあったけど、『副作用:猛毒』って、もしかしたら隠し文字で書いてあったのかもしれない!」
ゆいは、いつもの大仰なポーズも呪文も完全に忘れ、タケの手を掴んだ。その手のひらは、ローブの袖から覗く白くて小さな、ごく普通の女の子の手だった。
「どこか痛いところはない!?お腹は?吐き気は?もしかして、力が制御できなくなって爆発しそうとか!?」
「あ、いや、爆発はしてないけど……さっきから、お前の素の声が可愛すぎて、俺の心臓が爆発しそうだ」
タケは、つい本音を漏らしてしまい、慌てて口を塞いだ。
ゆいはその言葉を聞き逃したが、タケの頬を触る手が熱を持つのを感じ、さらにパニックになった。
「熱がある! やっぱり毒よ!タケ、どうしよう、私は悪の組織どころか、ただの殺人者になっちゃう!」
ゆいは泣きそうな顔になり、次の瞬間、ハッと何かを思いついたようにタケの手を引いた。
「ダメだ!こんな村じゃ解毒できない!私についてきて!タケ、絶対安静よ!私が作ったんだから、私が責任を持つ!」
ゆいは普段の『終焉の爆炎』の時よりも真剣な、切実な表情をしていた。ローブの隙間から覗く彼女の顔には、いつもの隈取ったような芝居がかった化粧は無く、ただの可愛らしい同い年の女子の顔がそこにあった。
タケは、その心配しきった瞳と、握られた手の温かい感触に、心臓がバクバク鳴るのを感じていた。
(なんだこれ……。こいつ、マジで俺のこと、心から心配してるのか?……うわ、やばい。めちゃくちゃ可愛い……)
いつものゆいなら、タケの体調不良すらも「我が魔力による究極の試練!」と豪語しそうなものなのに。
ゆいは、タケの返事を待たずに、彼の服の裾を掴んで走り出した。
「行くわよ、タケ!村の裏手にある隠れ家へ!そこなら、誰も来ない!絶対に安全よ!」
「ちょ、待てって!ゆい!俺、パジャマなんだぞ!ってか、隠れ家ってなんだよ!」
タケのツッコミは続くが、彼の足は、心配でいっぱいの親友(女の子)に引かれるまま、村の裏手の森へと向かっていった。タケの意識は、毒への不安よりも、ゆいの素の態度と、初めて握られた手の温もりでいっぱいだった。
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