第4部 深夜の侵入者と、意識の境界線
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その夜――。
タケは、日中の後始末と、おばちゃんの誤解からくる疲労で泥のように眠りについていた。
(闇の教団幹部ってなんだよ……。ただでさえ、ゆいのせいで魔力が体に毒だなんて思われてるのに……)
そんな悪夢のような現実の反芻は、突然の物理的な重みと冷たい感触によって破られた。
「グッ!?」
タケは飛び起きた。布団の上から、何か重くて冷たい塊がのし掛かっている。そして、鼻腔をくすぐる、腐った草のような、生臭い奇妙な匂い。
暗闇の中、タケはそれが誰であるかをすぐに察した。
「ゆ、ゆいか!夜中の二時に何やってんだ、お前!」
黒いローブ姿のゆいは、タケの腹の上に乗ったまま、顔を近づけた。暗闇でも眼帯の金具だけがギラリと光っている。
「静粛に、凡庸なる従者よ……。これより、我が究極の爆炎魔法に必要な、秘密の儀式を執り行う」
「やめろ、儀式とか言うな!お前、人の布団に許可なく侵入してるだろ!常識を身につけろ!」
タケが怒鳴ると、ゆいはわずかに身じろぎをした。その瞬間、タケは、ゆいの細い体のラインが、厚いローブ越しにわずかに触れているのを感じた。
(うわ、近い、近いな……)
いつもは「爆炎の魔女」としてしか見ていなかったが、暗闇の中でこんなに密着していると、彼女が同い年の女の子であることをタケは急に意識させられた。心臓が、少しだけうるさく鼓動を打つ。
ゆいはタケの内心など露知らず、ローブの懐から、怪しすぎる液体が入った試験管のようなものを取り出した。
「見よ、タケ!これは我が魂の深淵から編み出し……『爆炎の魔力源』だ!」
「絶対飲むか! 匂いがヤバいって!ていうか、早く降りろよ!」
タケは抵抗しようとするが、ゆいは試験管の蓋を外し、さらに強烈な匂いがタケの顔面を襲った。
「抵抗するな、タケ!この魔力源を摂取することで、貴様の体内に眠る『終焉の爆発の器』が開かれ……」
ゆいは真剣な顔で、試験管の先をタケの口元に突きつける。
「さあ、飲め!これが魔導の洗礼だ!」
押し問答の末、タケの頬に液体が数滴垂れた。その瞬間、ジュワッという小さな音とともに、タケの頬の皮膚がチリチリと熱を持つ。
「熱っ!? 熱いって!」
タケは恐怖でパニックになるが、ゆいは力任せに、ついにその液体をタケの口の中に数滴流し込んだ。
「ゴフッ! うえぇ!マズい!ゴムと泥とカビが混ざったような味だ!」
「フハハハハ!見事、魔力の儀式は成功!」
ゆいは満足した様子でスッとタケの上から降りた。タケは急に失われた重みと、残されたわずかな温もりに戸惑う。
「では、タケ。明日、貴様の体内に満ちた魔力の検証をさせてもらうぞ。この儀式は秘密だ。口外すれば、この村どころか、貴様の家のヤギまで一瞬で爆散させる!」
ゆいはそう言い残すと、来た時と同じように、タケの家の窓から静かに(そして大袈裟なポーズで)夜の闇に消えていった。
タケは、熱を持っている頬を触りながら、布団の中で身動きが取れなかった。
(くそ、最悪だ……。でも……)
タケは、頬に触れた指先から、口の中の酷い味とは別の、妙な熱が体に残っているのを感じた。
それは、ゆいの『魔力源』のせいか、それとも、真夜中に女の子が自分の布団に侵入したという、ただそれだけの事実のせいなのか。
タケは、寝ぼけた頭で、ローブの冷たい布地と、その下にわずかに感じたゆいの体温を思い出していた。
「……なんで、こんな時に、ヤギのエサ皿じゃなくて、あいつの顔を思い出すんだよ……」
タケは、爆発よりも厄介な感情の違和感を抱え、朝を待つことになった。
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