第3部 タケは闇の教団に入信したらしい
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あの爆発から半日後、タケは村の端にある、少し古びた石の壁の前にいた。昨夜、ゆいが「闇の神殿の結界を破る実験」と称して爆破した跡の、すすと焦げ跡を消す作業をしているのだ。
「ちくしょう、本当に爆発力だけは無駄にあるんだよな、あいつの魔法は……」
タケは濡れた雑巾でゴシゴシと壁を擦る。ゆいは『聖衣』の汚れを気にし、こんな地味な作業は絶対にやらない。結局、後始末は全て『凡庸なる従者』であるタケの仕事だった。
「なんで俺がこんな地味な爆発処理班みたいなことやってんだ……」
ため息をつきながら、タケがふと顔を上げたとき、数メートル先に村のおしゃべり好きで有名な、おばちゃんが立っているのに気がついた。
おばちゃんは、タケの手に持たれた焦げた鉄屑(エサ皿の残骸)と、彼が擦っている壁の黒い焦げ跡、そして何よりタケの暗い顔を交互に見つめていた。
おばちゃんの目が、ゆっくりと大きくなる。
「あら、タケちゃん。あんた、そんなところで何してるんだい?」
タケは焦りながら、とっさに言葉を探した。ゆいの魔法のことは絶対に秘密だ。もしゆいが魔法使いだとバレたら、村で大騒ぎになる。
「え、あ、おばちゃん。これはその、ええと……」
タケは焦げたエサ皿の残骸を咄嗟に隠そうとしたが、時すでに遅し。おばちゃんの推理力は、ゆいの爆発魔法よりも強力だった。
「あらまぁ、大変だねぇ。それ、やっぱり……」
「やっぱり?」
「闇の魔導教団の儀式の痕跡を消してるんだねぇ」
「……は?」タケは素っ頓狂な声を上げた。
おばちゃんは声をひそめ、さらにタケの耳元に囁くように言った。
「あんた、最近、あの黒いローブの怪しい子と、コソコソやってるの、みんな知ってるんだよ。夜な夜な森の奥で、大声を上げて火を吹いてるって。あれはきっと、生贄の儀式か、魔導の契約だよ」
「ち、違いますって!あれはただの……」
タケが口ごもると、おばちゃんはタケの背中を、同情するようにポンポンと叩いた。
「大丈夫だよ、タケちゃん。今の世の中、みんな悩みがあるからね。教団に入るのも仕方ない。でもね、あんな黒焦げになるまで熱心に『入信の儀』をやるなんて、本当に真面目な子だねぇ、あんたは」
「入信してないです!俺はどこにでもいる村人です!」
「あんなすごい火を、手から出してたんだろ?タケちゃんも、もう幹部クラスなんだね。村人代表の顔が汚れるって、心配しなくていいんだよ。おばちゃんは、秘密にしとくから!」
おばちゃんは、そう言って一方的に納得し、ニッコリ笑って踵を返した。タケが何を言おうと、もうおばちゃんの頭の中では『タケ=闇の魔導教団の幹部』で話は完結しているようだった。
「タケちゃん、体、大事にね!魔力は体に毒だからね!」
そう言い残して去っていくおばちゃんの背中に、タケは絶望的な気持ちになった。
(なんだこれ……。なんでエサ皿の残骸一つで、俺のキャリアが闇の宗教家に変わるんだよ……)
その瞬間、遠くの茂みから、ゆいの得意げな声が聞こえてきた。
「フフフフ……タケよ!我が闇の力が、ついに俗世の住人に誤解を与え始めたようだな!これも終焉への序曲!」
タケは、焦げた鉄屑を握りしめ、叫んだ。
「ゆい!出てこい!てめぇのせいで俺の村での信用が、闇の教団レベルに落ちたぞ!」
今日も、村人タケの平穏は、爆発魔法使いゆいによって見事に爆散していた。
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