第19部 町外れの隠れ家と意外な賢者
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「着いたぞ、我が、凡庸なる従者よ。ここが混沌の魔都だ。」
街の入り口である巨大な石門を見上げながら、ゆいはこれ以上ないほど誇らしげに杖を突き立てた。門をくぐれば、そこには村では見たこともないような数の人々と、軒を連ねる商店、そして馬車の車輪が石畳を叩く騒がしい音が溢れている。
「そうだね、やっと見えてきた……」
僕は感心しつつも、まずは肩に食い込むリュックを直した。観光を楽しみたいのは山々だけど、僕たちには大事な使命がある。
「まずは、村長さんの手紙を届けてからだね。えっと……この建物の方かな?」
僕は鞄から村長に預かった手紙を取り出し、そこに書かれた場所を確認した。宛先は、賑やかな中央通りから少し外れた場所にあるらしい。
人混みに圧倒されそうになりながら歩くこと数十分。喧騒が遠のいた街の端に、蔦に覆われた古いレンガ造りの小さな喫茶店が見えてきた。
「ふむ……。混沌の魔都の深淵に、これほど静寂な聖域が隠されていようとはな」
ゆいは周囲を警戒するように杖を構えつつも、店の窓から漏れる温かな光に興味を惹かれているようだ。
「よし、行こう」
カランカラン、と乾いた鐘の音を響かせて扉を開けると、コーヒーの深い香りと、焼きたてのお菓子の匂いが僕たちを包み込んだ。
「いらっしゃい」
奥から出てきたのは、エプロン姿の穏やかな老人だった。
「手紙を預かっているのですが」
僕は大切にしまっていた手紙を差し出した。老人はそれを受け取ると、懐かしそうに目を細めて封を切った。
「ありがとう。……ふむふむ、相変わらず元気そうだな。あいつらしい。……おや、そちらの彼女は?」
「……! 私は『爆炎の魔女』ゆい! この者の護衛として、はるばる未踏の荒野を越えてやってきたのだ!」
ゆいが胸を張って自己紹介する。老人は「ほう、それは頼もしい」と笑った。
「これは私からのサービスだ。長旅の疲れを癒やすがいい」
差し出されたのは、……見たこともないような、真っ黒なコーティングがされた不思議なケーキだった。
「こ、これは……!? 禍々しい闇の力を感じる……!」
「あぁ、それはこの店の名物『漆黒のザッハトルテ』だよ。見た目は怖いが、味は天国だ」
ゆいは「闇の菓子……」と呟きながら、目を輝かせてそのケーキを見つめた。手紙も無事に届いたし、報酬も手に入った。これでようやく、僕たちの「本当の街歩き」が始まる。
「ゆい、半分こして食べるか?」
「……っ! し、仕方ない。毒見をしてやろうではないか!」
僕たちは窓際の席に座り、街外れの静かな時間の中で、初めての街の味を楽しむことにした。
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