第18部 呼び捨ての魔法と、見えてきた町の影
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「なぁ」
「どうした、我が、凡庸なる従者よ」
ゆいはいつも通り厨二病全開で、誇らしげに杖を振り回しながら僕に返事をした。朝の恥ずかしさを完全に「無かったこと」にしようとしているのが見え見えで、ちょっと面白い。
「あと、どんぐらいで着くんだっけ? 町まで」
僕が聞くと、ゆいは待ってましたと言わんばかりに立ち止まり、懐から「地図(自称・古の予言書)」を取り出した。
「凡庸なる従者よ、君は、やはり私のような優秀な魔法使いがいないとダメなようだね」
勝ち誇ったように笑うゆい。でも、今回ばかりは言い返せない。なぜなら地図を持っているのは彼女だからだ。そりゃあ地図を見ずに、あとどのくらいで着くのかなんて考えられるわけがない。
(……と自分にもツッコミを入れつつ)
「そうですね、ありがとうございます」
ここは、意地を張らずに素直に言っておくことにした。すると、ゆいは予想外の僕の素直さに気分を良くしたのか、
「ふふーん!」
と鼻を鳴らし、ニヤリとこちらを見てまた前へと歩き出した。
「いや、答えて(笑)」
「あぁ、あともうちょっとで着くようだぞ」
「もうちょっとって、どのくらい?」
「今日寝てた時間くらい」
「それは、『もうちょっと』に入るのだろうか……」
僕が苦笑いしながら言うと、ゆいは地図を真剣に睨み直し、少し言いよどんでから答えた。
「……今日中には、着く」
「ありがとう! ゆい!」
「……っ」
僕が自然に、名前を呼び捨てにしてお礼を言うと、ゆいはピタリと足を止めた。
そのまま無言だったけれど、耳の先まで真っ赤なのが後ろからでもわかる。肩が少し震えていて、にやけているというか、照れているというか、とにかく言葉にならない感情が溢れ出している感じだ。
そういえば、名前を呼び捨てで呼んだこと、今まで無かったっけ……?
いつも「ゆいちゃん」とか「君」とか、どこか一線を引いていた気がする。でも、今の彼女の反応を見ると、呼び捨ての効果は爆発魔法並みだったらしい。
(まぁ、可愛いから良し!)
「お、おい! 貴様! 今さらさらっと真名を呼ぶなど……不敬、不敬であるぞ! 契約の呪印が刻まれても知らんからな!」
ゆいは振り返らず、早歩きで先を行く。でも、その歩幅はさっきよりずっと弾んでいるように見えた。
やがて、緩やかな丘を登り切ったとき、視界がぱっと開けた。
遠くの平原に、石造りの建物がひしめき合い、活気を感じさせる大きな街の影が見えた。
「あ……」
「……着いた。あれが、『混沌の魔都』だ」
ゆいが杖を掲げる。
いよいよ、僕たちの2泊3日の旅、最大の目的地が見えてきた。
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