第10部 夜の散策とおばちゃんのささやかな魔法
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その日の夜。
タケは、ゆいに*『闇の特製ドリンク』を飲まされたおかげか、夜になっても体が軽く、なかなか寝付けなかった。布団の上で、昨夜ゆいが素直に自分の秘密を打ち明けてくれたこと、そして「俺が、お前の居場所になってやる」と決意したことを反芻する。
タケがそんなことを考えていると、外からかすかな足音が聞こえ、やがてゆいが私服姿で、そっと小屋から出ていく気配がした。
ゆいは、村の境界線を越え、誰もいない丘の上に立っていた。夜空を見上げているゆいは、いつもの『爆炎の魔女』の鎧を脱ぎ捨てた、ごく普通の少女に見えた。
ゆいが、孤独に夜空を見上げていると、背後から親しみやすい、いつものおしゃべりな声が響いた。
「あら、ゆいちゃん。こんな夜遅くに、お散歩かい?」
ゆいが振り返ると、そこには、買い物籠を提げたおばちゃんが立っていた。おばちゃんは、ただの優しい村人の顔で、ゆいを見つめている。
ゆいは、素顔を見られていることに戸惑い、いつもの強気な態度を出すことができない。
「あ、あなたは……。いえ、私は、その、魔力の波動を観察しに……」
おばちゃんは、フフッと微笑んだ。
「ゆいちゃんは、いつも派手なことをしたがるねぇ。でも、時々、静かに空を見てるのが、一番似合うよ。ねぇ、ゆいちゃん。あんたが爆発の魔法を使うのは知ってるよ。とっても強い魔法だ。でも、魔法ってね、強さだけじゃないんだよ」
おばちゃんは、そう言うと、持っていた籠を地面にそっと置き、手を静かに夜空にかざした。
そして、一瞬の静寂の後。
スッ、と。
夜空の、ごく狭い範囲だけが、まるで黒い幕が取り払われたかのように色が変質した。それは、花火のような派手さではなく、蛍の光を何千個も集めたような、淡く、優しく揺らめく光だった。
藤色と銀色の光が混ざり合い、静かで、息をのむほど美しい光景が出現したのだ。それは、ゆいが『破壊』というフィルター越しには見られなかった真の美しさだった。
ゆいは、その光景に呆然とし、持っていた妄想地図を地面に落とした。
「……な……これは……。派手な破壊がないのに……なんで、こんなに……」
「これはね、『夜見草のささやき』だよ。ほんの少し、星の光を強くする魔法。ささやかな魔法だけど、こうして誰かと一緒に見ると、心が温かくなるだろう?」
おばちゃんは、静かに手を下ろした。夜空の異変は、スッと消え、元の闇に戻った。
「ゆいちゃんは、一人で爆発ばかりしたがるけど、本当は誰かと一緒に、静かなものを見たいんじゃないのかい?タケちゃんみたいに、優しくて、全部受け入れてくれる人とね」
ゆいは、何も言えなかった。爆炎こそが力だと信じていた彼女にとって、この静かで、心を掴んで離さない美しさは、新たな価値観に触れたような衝撃だった。
おばちゃんは、そんなゆいの気持ちを見透かすように、優しく微笑み、声を潜めた。
「まあ、そうは言ってもね、ゆいちゃん」
おばちゃんは、ゆいの肩をポンと叩いた。
「爆発も、悪くないよ。私も、爆発大好きじゃぞ! ドーンと弾けて、スカッとするのも、立派な魔法だ。あんたの爆発は、あんたが頑張って生きてきた証だからね。それを否定しなくていい」
「……え?」
「でも、その爆発を、タケちゃんと二人で笑って見られるようになったら、あんたの魔法はもっと強くなるよ。『愛』の力でね」
ゆいは、爆発を肯定してくれた初めての言葉と、静かな魔法の美しさに挟まれ、頭が混乱していた。
「この魔法が、タケの優しさみたいに、静かに、貴女の心に深く残るといいね。さあ、夜は冷えるよ。早く戻って、タケちゃんにあったかいお茶でも淹れてあげな」
おばちゃんは、ゆいの背中を優しく押し、買い物籠を持って、夜の闇に消えていった。
ゆいは、美しさという新たな魔法と、タケの優しさを胸に、静かに小屋へと戻っていった。
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