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番外編~刻の賢者とシロウサギ・3

1・2程暗くはないです。

物騒な言葉は出ますが、別の意味でほのぼのしてきました。





 目を開けたら、見知らぬ場所にいた。


 見知らぬ場所ならまだ可愛いのかもしれない。




 一面真っ白の世界。


 正常な人間なら、気が狂うだろう。それ程に視界には白色しか入ってこない。



 色の無い世界。






「・・・・・」


 分かりやすい気配を感じ、俺はそちらに視線を向けた。

 ひょこひょこと何かを頭にかぶせて、匍匐前進をする少女。



 本当に、イミガワカラナイ。




「・・・・・・・・」


 何をやっている?と、反射的に言葉を紡ぎそうになるが、俺は何も言わずにただ押し黙った。

 勝ち負けなんて関係ないのに、聞いたら負けるような気がした。ただ、それだけ。



「・・・・・・・・・・?」


 匍匐前進をする少女の横で、同じく匍匐前進らしきものをする白い塊。



「……あ。おはよー」


 小声で話す少女に視線を向けたが、すぐに逸らした。

 返事を返す理由は無い。



「………うさちゃん。行ってきてー」


「!?」



 少女の隣で匍匐前進らしきものを披露していた白い塊。それは、兎の形をしていた。


 サイズは規格外。


 飛び掛られて分かったが、山の奥地に生息する親熊ぐらいのサイズはあるんじゃないだろうか。


《挨拶ー!!》


 俺の目の前で兎らしき形をしたモノは、器用にくるっと一回転したかと思うと前足を地面へとつけ、その勢いのまま俺目掛けて砂をかけるかのように後足を放つ。


「!?」



 鋭すぎる一撃に、俺は無様に避け、地面へと腰をついた。


 ツゥ、と頬から流れる赤。


《薄皮ー!!》




「・・・・・・・・・」


 頬に触れると、薄皮1枚。

 本当に紙一重で避けれたらしい。が、目の前の兎もどきはそれが不満そうに牙を露にする。


 その牙、兎じゃないだろう。

 海の生物みたいに尖りすぎた歯は、陸の生き物では考えられない。




「仲良くなれたみたいで良かった」



 何処をどう見たら、仲がよく見える?

 

 その目は節穴か?




「このうさちゃんは、貴方の魔力が結晶化した存在なの。

 だから、これは貴方自身といっても過言じゃないの。

 とりあえず私との契約は成されたから、暫くはうさちゃんと一緒に自身の中にある契約の証の魔力と向き合って。

 そうすれば答えは用意されてるから。

 料理はうさちゃんが出来るから、しっかりと食べるように」



「お前は何を言っている?」




 意識を失う前に言っていた実力行使。本当にしたらしい。

 ある意味宣言通りなのだが、それよりも気になる言葉を言われた気がする。



 この目の前の、胸を張っている、凶暴な兎っぽい形をしたまったく別の生物が、俺自身?


 ふわっとした毛並みを惜しむ事無く披露し、上から俺を見下ろすコレが……


 俺自身だと!?



 一言文句を言おうと顔を上げるが、そこに、少女の姿はなかった。




 白い空間に、俺と、兎……





 いつものように殺そう。


 それが、いい。




 俺の前に、魔力の渦が出来る。


 この空間が壊れようが、どうでもいい。


 俺が死のうが、どうでもいい。




 意味がわからない。



 壊してしまえ。





 兎らしき生物は、赤色だった目を翠へと変化させると、俺が放った魔力を――――喰った。


 キュッポン。と音をたて、ゲプ…という音を残して。



 喰らった……



 そうしたら、俺でも気付く変化があった。


 綺麗な毛並みが、更に光り輝くように艶を増した。



《俺はシロウサギ》


 すると、唐突に目の前に何かが名乗りだした。


 兎?


 俺にコレを兎扱いしろ?と??



《寂しがりやなシロウサギ》




 ………。



《弱いお前が俺のご主人候補というのは非常に不満だが、仕方ない。試してやろう》










 殺す。


 絶対に殺す。


 こいつを殺して、あの少女も殺す。




 俺が死ぬまで、街中の人間も殺してやる。



 わけのわからない鬱々とする感情を全て、殺す事だけに集中させた。


 エモノはない、が関係ない。


 俺の中にあるらしい魔力で作ればいい。



 俺に与えた力で、お前を殺す。




「はは…」




 そうすれば、俺は解放されるはずだ。






 この、わけのわからない感情からッッ!!!





《こーのたわけーーー!!》


 目の前の兎もどきから、拳が飛んできた。


 光速の拳に殴られ、俺の身体は宙を舞う、


 放物線を描きながら、俺の身体は地面へと叩きつけられた。




 ぐしゃ、と、嫌な音が耳に入ってくる。








《主様が顔を出す前に、指導してやろう。

 そのたわけが少しでも治るようにな》








 意識を失う直前、俺の耳には兎もどきの戯言が聞こえたような気がした。
















が、それは俺の気のせいではなかったという事が、起きた瞬間に理解出来た。


 俺の目の前に置かれたソレ。


 情操教育と書かれた本と、絵本が山積みにされている。


 文字なんか読めなかったはずの俺。それなのに、当たり前のように俺の頭の中には文字に関する知識が存在している。


 これが、契約か。


《主様の頭脳明晰さを理解させるのも、お前をそれ相当のレベルまで引き上げなきゃならん。面倒だが、叩き込む。

 お前がこの空間を自力で破れるようになるまで続くからな。覚悟しとけ》




 これは、あの少女の目の前にいた兎もどきと同じ生物か?


 まったく違う生き物に見えるのは俺だけか?


 これが俺だと?


 本当に冗談じゃない!!!


《お前の顔ほど冗談じゃない》



 テメェ…やっぱりすぐ死ね!!!


 ナイフを作り出し、俺は目の前に白い塊へと容赦な放つ――が、喰われた。


 ・・・・・刃物まで喰うのかコイツはっっ!!!





《その理由は自身と向き合えばわかるだろう。しかしやっぱり面倒だな。

 眠らせて睡眠学習で叩き込むか》



「この・・・・・兎野郎が……」


 全部丸ごと聞こえてるんだよッッ。




 その日俺は、意識を保っていられなくなる程魔力を使い、力の限り兎もどきを仕留めようとした。


 だが、それは兎もどきの毛艶を輝かせるだけだと理解できたのは、パンを口に詰め込まれ意識を取り戻した時だった。


「………」


《柔らかいだろう。美味いだろう。お前の臓物は契約の成立で正常以上になった。温かなご飯を食える事を感謝しながら役に立て》



「死ね」



 これ程までに何かの死を願ったのは初めてだった。





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