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嵐の前の静けさ




 転移という呪文でエアルを脱出してから一週間。

 とりあえず現在は平和を満喫してたりするんだけど、どうにもこうにも嫌な予感の消えない私は、周りに誰もいない事を確認してからソファーへと身体を深く沈ませ、



「白兎」



 私の影の名を呼んだ。


 音も無く、気配もなく現れる白兎。


「どうしました?」


 私だけの場に立つ場合、私の影は黒の色彩を脱ぎ捨てる。

 影は魔法で黒く見せているだけなのでその魔法を解くだけなんだけど、私の影は素顔を見せたがらないのだ。私以外には、だけどね。


黒兎コクトから連絡あった?」

 エアルで情報収集をしてもらう為にもう一度旅立ってもらったんだけど、ある程度纏めるまで私の耳には入ってこない。

 だから、聞いてみるんだけどね。

「ありましたよ。姫さんへの手紙も預かってるけど、それは黒兎への褒美条件が整ったら渡しますね」

「褒美条件って…」

「有意義な情報を一つ得る毎に、一通姫さんに渡してあげる、という条件です」

 あっさりと言われてしまった言葉に、私の口からは苦笑が漏れる。

「相変わらずかわった条件だね」

 いつもそう。私の影たちは、任務にこんな条件をつけるのだ。

 前は私の声を魔石に録音してた。のを、褒美にしてた気がする。回収しようとしたら、頑張ったのに!褒美なのに!と泣かれて諦めたんだけど……そんなものを褒美にされたこっちも実は泣きたいんだけどさ。


「で、姫さんの知りたがってる情報といえば……エアルの王子がなーんか企んでますねー。姫さんに一目惚れしてるっぽいんで、頑張ってるみたいですよ」

「頑張らなくていいのに」

「そうそう。うちの国は絶対政略結婚なんかさせるはずない変わり国なのに、未だにそれを理解出来てないみたいですね。まぁ、無駄な足掻きはさせとけばいいんじゃないですか? いざって時は叩けばいいし」

「・・・・・」


 私の影は、実力行使が好き。


 うん。手っ取り早いのはいいよね。ムダがなくて。


「で、その為に緑兎リョクト黄兎キトが動いてるんで、姫さんは大船に乗ったつもりで安心しちゃって下さいね」



 私と契約関係にある私の影の知識は相当なもので、すごく強い。のは知ってる。

 これでも刻の賢者と呼ばれた私の力とリンクしてるもの。

 だから弱いはずはないんだけどね。



「緑兎と黄兎が動いてるって事は…エアルを陣で覆ったの?」

 2人は連携が得意だから、よく一緒に行動はしてるんだけどさ。

 それ、初耳だよ?とちょっと批難じみた視線を送ってみるけど、軽く流された。


 白兎は、ものすごく良い性格をしてる。


 出会った時はそうでもなかったんだけど、影になってから段々とこんな感じになってきた。

 ・・・・・素質はあったのかも。元々。




「だって、俺らの主になーに失礼な事してやがんだこの野郎?って感じで、即死魔方陣を使わないだけでも俺たちって良心的だなぁ、なんて思っちゃったりしてるんですけどね。そう思いません?」


 私に聞くな。


 と、今度は有無を言わさない視線を向けてみた。

 すると、白兎は蕩けそうな笑みを浮かべ、私に包みを渡してくる。



「?」


「俺たちからのです。

 姫さんは沢山持ってて、欲しい物は大体手に入っちゃうんで迷ったんですけど…

 お守りが必要だなって思ったんで、持ってて下さい」


 感触からして石。

 お守りって事は護符なのかな?


「開けてもいい?」


 目の前に立っている白兎に聞いてみると、白兎は勿論と言わんばかりに頷く。


 じゃあ、開けるね。

 と、リボンを解いて包みをあけてみる。

 折角もらった包みだから、綺麗に綺麗に折りたたんでテーブルの上へと置くと、やっぱり嬉しそうに笑う白兎が見えた。


「護符石…」


 ペンダントになったやつ。

 結構精巧な出来だけど、市販品じゃまず無理な印が彫られてる。


「手作り?」


 右手の平に乗せたまま尋ねてみると、頷かれた。

 これ、結構大変なんじゃないかなぁ。

 石も貴重品みたいだし。買えば高いし、採りに行くのには命の危険がある場所だし、時間も掛かる。


「先日のアレは、やっぱ面白くなかったんですよ。だから、持ってて下さい」


 どちらかというと命令形?

 有無を言わない口調に、私の口からは苦笑が漏れていた。


「兄様がやいちゃうからここでは付けれないけど……持ち歩くね」


 それで十分なのか、白兎は静かに頷いた。かと思うと、直ぐに顔を上げて懐から手紙を取り出し、それを私へと手渡す。


「黒兎から?」


 姫様へ。と、黒兎らしく几帳面な文字で書かれた手紙。

 私に送る事を考え、真っ白な便箋ではなく、風景が書かれたお手紙セット。

 ちなみに、黒兎の手作り。


「ご褒美じゃなかったの?」


 手紙を渡すという事は、有力な情報を得たのね。


 影同士は特殊な通信方法を使えるようにしてるから、場所も距離も関係なくリアルタイムで情報の受け渡しが出来る。

 ちなみに、私の影は映像まで受け渡し可能という何でも有り。諜報専門じゃないけれど、多分どこの国でも欲しがってる人材だと思う。

 教えてないから、誰も知らないけど。


「有力な情報を受け取ったので、ご褒美です。黒兎のヤツが紙から手作りをした力作なので、手触りから堪能してやって下さい」



「紙からなんだ」


 堪能って・・・確かに手触りはいいけれど。

 和紙まで手作り出来るんだ。

 器用だなぁ、なんて思ったけれど、手紙は後回し。

 情報は?と聞いてみると、白兎は笑顔のまま眉間に皺を寄せるという器用な事をやってみせた。


「姫さん。座りっぱなしは疲れるでしょ?

 飲み物入れてくるので、ちょっと身体をほぐしといて下さいね」


 そう言うと、白兎は真っ黒に姿を変えて、この部屋から消える。

 厨房に飲み物を取りに行ったんだろうけど…


 白兎の眉間の皺を思い出し、私自身も眉間に皺を寄せた。

 

 あれは、面倒な情報が入ったに違いない。


 感情を表に出している印象を受ける白兎だけど、実際は素直じゃない性格で重要な事は表には出さないんだけど、今のは不快な皺の刻み方をしてた。


 で、多分そういう不快さを露にするって事は、探ってた情報と照らしあわなくても一つしかなくて。



「私関連かぁ」




 そう。

 私の影はやっぱり私の影だけあって、私に害が及んだ瞬間は剣呑さを隠そうとはせずに、しっかりと相手を敵と認識する。


 前回のプロポーズから相当溜まってるとは思ってたんだけど、気をつけないと攻めちゃうかも。と危惧しながらも、私は言われた通りに身体を動かしながら白兎を待ってたの。



 自分の影たちは独断行動が好きっていうのをすっかりと失念していた私。


 裏でちゃっかりと兄様と提携を結んでいたなんて、今の私は知るはずもなく。




「姫さんが困るような事はしないから、俺たちを信じて? ね」


 と、飲み物を渡すと同時にそんな事を言って、情報は渡さなかった白兎。



「無理はしないようにね」



 なんだかんだ言って影に甘い私は、まぁいっか。でその情報を受け取らなかったんだけどね。





 数日後、私はそれをちょっとだけ後悔する事になるけど。


 それは、後の話し。





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