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番外編~静かなる攻防


 地雷。


 爆弾。


 超高性能魔道具。


 人類全滅級魔法。寧ろ神の領域。


 例えるならば、そんな感じ。




 その日は、朝から晴天だった。

 久しぶりに空は青色を覗かせ、気持ちの良い陽射しが窓から差し込んでくる。

 洗濯物干し日和だとか、森林浴には持って来いだとか。

 兎に角、気持ちの良い陽射しから始まった1日だった。

 だが、もし仮に、晴天ではなく暗雲だったのならば、納得していただろう。今日は朝からこんな天気で、こんな事が起こっても不思議ではないかもしれない。

 そう思えていただろう。

 だがしかし、今日は晴天だった。

 気持ちが良かった。

 気分も晴れ晴れだった。


 なのに、何故こんな目に合うのだろうかと、城で勤めているものならば全員が全員思っていただろう。

 ちなみに、普段は快適すぎる職場だったりもする。勿論そんな城勤めは国で一番の人気の職業。コネ、よりも性格と能力重視を前面に押し出す陛下。天才児と名高い時期陛下である殿下。性格も温厚。ある一点だけ過ぎた所もあるが、それはあの姫君ならば仕方ないだろうという事で黙認されている。

 殿下も姫も、性格は穏やか。身分を笠にきて、などという事は一度も見た事のない人格者。他国の支配者の話を聞くだけで、心底この国に生まれて良かったと思えてしまう。

 おまけに、見目は大変麗しい血筋。話して良し。見て良し。住んで良し。という文句の付け場所がわからない国の王宮なのだが、この時ばかりは例外だった。



 だがしかし、女官や騎士はまだマシだった。

 女官は早々に避難し、騎士も警護を除いてその場所から離れられたからだ。一部の騎士については不運としか言いようがないのだが、後々同僚から労いの会が行われる予定だ。

 この状況において、誰一人として逃げられない者たちがいたのだから、殆どが逃げられた騎士などはものすごくマシ、というレベルなのだろう。

 逃げ遅れではなく、逃げられなかった者たち。つまり、ライの影である。レイの影は当事者として前面に押し出ている為、カウントしなくても良いだろう。

 王家に伝わる秘術で、普通の人間よりも強くて回復力も高くて魔力も相当なライの影たちだが、あくまでも人間よりも、という範囲なのだ。

 レイの人外と同列で考えるという哀れな事はやめてほしいと、嘆願書が出された程だ。

 その影たちだが、元々人間の中でも強い者たちであったが為に影になれたわけだが、勿論主はライだ。ライの傍を離れるわけにはいかない。

 身を盾に、刃にかえてライを護る事を誓った影たちが、逃げれるはずがない。例えライが当事者であり、レイの影と並ぶ位置にいようとも、すぐさま盾になれる場所に控えていなければならないのだ。


 ピリピリ、と空気が凍りつく。

 比喩でもその状況を表しただけの言葉ではなく、実際に凍り付いていた。

 気分そのままに、魔力を具現させたら空間が凍りだしたのだろう。ライは高い魔力を誇る為、この程度の現象ならば髪の毛一つも凍りつかない。

 それはレイも、レイの影たちも、これを引き起こした客人もそうだった。

 

 レイの過去の旦那。リーウェル。その片腕の子孫であるシーファ。シーファは二歩程下がった場所に陣取り、様子見を決め込んでいるが、リーウェルはそうはいかなかった。

 勿論最前線でレイの影たちと当たり前のように睨み合うように視線を合わせ、口元には余裕の笑みを浮かべている。

 影たちもライもリーウェルもシーファも、現時点での年齢は同じ17だが、リーウェルの場合はそれに過去がつく。

 一つの国を栄えさせ、賢王と呼ばれた実績を持つのだ。同時に、狸という意味合いも含みそうな気がするが、気のせいではないのだろう。

 時期に目から光線が飛び出るんじゃないかと思える程の鋭い眼差し。

 実際、魔力が具現化してる時点で被害は増大されているのだが、その辺りはレイの匙加減で中和していたりもする。



「また来たんだね。同盟だかなんだか知らないけど、ロリコンは見たくないんだよね。帰ってくれない? 同盟なら結んであげてるよね?」


 にっこりと微笑を浮かべながら、凍えそうな冷気を漂わせてライが言い切る。口調は穏やかなのに、何故こんなにも背筋が寒くなるのだろうか。


「いつでも人間っていうのは、自分の事が一番わからないものなんだな」


 それに人好きのする笑顔を浮かべ対応するリーウェル。


「そろそろ妹離れをしたらどうだい? 時期国王殿」


 つまり、ライの場合は世継ぎを産んでくれる女性が必要だろう? 迷わず妹離れをしやがれと二重音声で伝える。

 瞬間、更に気温が下がった気がした。


「姫さんの兄の妹離れ云々よりも、変態がこの国に入れる事の方が問題だろ?」


 そこに白兎が上から見下ろすように言葉をつけたし。


「小姑も多いんだな」


 と、観戦していたはずのシーファがあっさりと会話に入り込む。

 当初の予定通り、泥沼である。

 これ以上ない程の泥沼でしかない。


 ライの影の一人と言わず全員がこっそりと泣いているのだが、誰一人それには気付かない。仮に気付いたとしても、さらりと流していただろう。

 そんな事は些細な問題にもならないのだ。この現象を引き起こしている人物たちにとっては、だが。


「あは。身の程を知らない人間ってイヤだよね。ねー、緑兎」


「確かに。空気が読めないって辛いよな」


 密かに、黄兎と緑兎が援護射撃に入る。援護、という割りに直接的なのは今更だろう。

 二人の参戦で、ライの影全員が胃の辺りを押さえつけたのだが、やはり、この場にそれを気にしてくれるような存在はいなかった。


「空気が読めていたらここまでこれるわけがないしね」


 にっこりと、極上の蕩けそうな笑みを浮かべ、ライが黄兎と緑兎を見ないまま言葉を紡ぐ。ライの言葉を受け、確かにー、何てあっさりと言ってのける二人なのだが、そのまま白兎が外套を翻し。


「とりあえず強制退去でいいんじゃないですか?」


 と、やる気満々の態度を隠すこともせず、口元に弧を描かせる。

 だがしかし、目はまったく笑っていないのが怖いのだが、白兎の笑みを怖がるような神経の細い人間がこの場に立てるわけがなく。


「強制退去ねぇ。いーんじゃない? 君に出来るなら。出来ないと思うけどねー」


「へぇ。すごい自信だよなぁ」


「こっちも色々と裏技があるからねー。そりゃ、君たちみたいな強さはないけどね。強かさはあるんだよ?」


 リーウェルの表情から真意を読む事は出来ないが、はったりとも思えずに判断に迷う。確かに、リーウェルがこうして転生した事を考えれば、何かしら手持ちのカードはあるような気もするし、あっても不思議ではないのだ。

 だが、白兎はソレには怯まずに、あっさりと呪文を発動させた。

 空気を切り裂くような音と、上からの重みに身体に負荷がかかる。念入りな準備はなし。相手の事を気遣うつもりもない。

 その状況で発動した転移の呪文。

 寧ろちょっと潰れてろ、と言わんばかりに放たれた。


 レイの影の長である白兎の呪文。

 本来ならば、防げるのは主であるレイか、白兎以上の力を持つ者だけ。リーウェルもシーファも弱くはないが、白兎を上回る事は生涯ないだろう。言い切れてしまう程の実力の差。

 だからこそ、防げるはずのない力の奔流。


 しかし、現実は違った。


 リーウェルに届く前に力の塊は霧散し、残りとして身体に掛かる負荷をほんの少しだけ感じる程度。


「……」

 

 思わず口を噤む白兎と、相変わらずの笑みを浮かべるリーウェル。

 状況を把握しようと、全員が全員破壊された呪文の痕跡を辿ろうとした瞬間、自分が起こした本来ならばありえない現象などまったく興味のきの字もないリーウェルが肩を竦め、遠慮なく場の雰囲気を凍らせた。



「わかった? コレが俺の、奥さんを想う愛の力だって」



「「「………」」」


 

 色々と、何かを含んだ沈黙が重なり合う。

 しいて何か言葉を当てはめるというならば、嵐の前の静けさ、というヤツだろう。



「アンタホントに馬鹿だろう!」


「これが俺の先祖が使えてた賢王かよ嘘だろ!」


「ぅわ。ウザ」


「わー。消えてくれないかなぁ」


「っつーか、痕跡も残さず消えろ、だよな」


「………」


「あ? 消滅させよう? 勿論賛成に決まってるだろ」


 

 と、全員が全員、同時に口を開く。

 リーウェルサイドだったはずのシーファまであの言葉を境に、ライと影たちの横に立っていたのだが、それらを全て向けられてもなお、リーウェルの表情は変わらない。


「奥さん。待っててねー」


 それ所か、ライたちの後にいるレイに、暢気に手を振り出す。

 煽るという意図はなく、リーウェルの素だったりもする。そんなリーウェルの性格をわかっているレイはそっと溜息を落とし、既にノンストップ状態に突入した兄と影たちを見ながら、この惨状をどうしたものかと密かに頭を悩ませる。

 はっきり言って堂々巡りでしかない。

 これに突入するとなると、流石のレイでも無理だろう。力ずくならば問題なくあっさりと解決出来るが、その都度力技で解決するのかな、と思うと多少面倒だったりもする。


「(うん。放置しとこ。それより…)」


 ちらり、とライの影を見つめ、レイは人差し指で円を描いたまま共に戦線離脱を試みる。


「兄様。白兎。後はお願いね」


 一応離脱する直前に、ライと白兎の名前だけは出す。

 白兎は影長で、ライはレイの兄だ。この際、リーウェルとシーファの名前は呼ばなくてもいいだろう。


「勿論だよ。レイはゆっくりと休んでていいからね」


「勿論ですよ姫さん。害虫駆除が済んだら迎えに行くんで、休んでて下さいね」


「まぁ…程ほどにね?」


 後の方で、酷いな奥さんー、なんてリーウェルが笑っているのだが、この際無視していても問題はないだろう。





「(とりあえず、今の兄様は護らなくていいから。私の影たちに任せておいて)」


 その場から離れた後、こっそりとライの影たちに伝え、一般人の枠から超える事は出来ないであろう神経を持つライの影たちを、本当にこっそりと労う。

 咽び泣くように崩れ落ちた影たちに、もう少し早く助けてあげれば良かったかも、なんて思ったりもしたのだが、まだ精神は壊れてないから大丈夫だろう。

 そんな事を思う辺り、レイの神経も一般人の枠組みからは外れていたりもするのだが、その事には誰も突っ込まず、やはり気にする人間はいなかった。


 後日。


 レイは天使のように優しく慈悲深いなどと噂が流れたのだが、それを流したのは……言うまでもないだろう。




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