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ツナガルモノ・4~エピローグ

「色々……いろっいろと考えてたのに!」


 隠す事無く不満を口にする黄兎。その隣りで、緑兎は困ったように頬を掻きながら、黄兎と私を見比べてる。


「僕達が姫様を大好きだって、いまいち信じてないみたいだから、僕からギュッとしようと思ってたんだよ。それなのに姫さんは顔面強打するし、黒兎はあっさり言っちゃうし」

「それはいいから」

 顔面強打の事、これからも要所要所で言われそう。流石にそれはちょっと、とストップをかけてみるけど、黄兎は止まらない。


「僕は……僕も刻の賢者の姫様が好きだよ。正直、姫様は姫様だからね。自由に生きていいと思うし、大変だったら手伝うし甘えて貰いたいし。でも、何も知らないレイ様じゃ僕は救われなかったし」


「……」


「僕達影に答えを求めちゃ駄目なんだって。僕達にとって姫様は姫様で、刻の賢者である人外の力を持った姫様と出会って過ごしたんだから」


「……そうだね」


 影達は知ってたよね。

 刻の賢者なんていう存在は知らなくても、私が人外の存在だって事は知ってたよね。黒兎と黄兎の告白のような言葉。その告白に、緑兎と白兎は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべてる。

 相変わらず沈黙を守ってる兄様と、白兎と緑兎。

 それに、黒兎と黄兎が刻の賢者である私を選ぶっていうのは、何となく想像がついてたから驚かない。

 二人は、自分達の力に押し潰されそうだったから。それを抑えてしまえる刻の賢者の存在はきっと、唯一無二の存在に思えたはず。


「……気分は抜け駆けされたっていう感じですけどね。姫さん、黒兎のケーキでも食べましょうか? 折角いれた紅茶も冷めれば勿体無い」

 目の前に差し出されるのは、いつのまにかカットしたケーキ。私の好きなフルーツタルトにカスタードが挟んである。珍しいフルーツに、カスタード。その中にはフルーツのクリームが入ってるのかな。

 すごく美味しそう。

 感情が高ぶった黄兎は、緑兎が後ろから抱え込むようにして落ち着かせてる。黒兎がケーキ皿を持ち、一口サイズにケーキを切ったらそれを、黄兎の口の中に放り込んでいく。

 とりあえず食べさせて落ち着かせようっていう魂胆みたい。


「白兎。ここまできたら俺から先に言うよ?

 白兎はいいじゃん。俺たちよりも姫様にべったりだから、今更改めて言わなくても」

 黄兎の後ろから出てきて、私の右斜め前へと立つ緑兎。ケーキを食べだした私の前で白兎と応酬を繰り広げる。

「あのなぁ。俺も考えた言葉を姫さんに伝えたいわけだ。どうして緑兎に譲らないといけない?」

「白兎の後は嫌だね。全部言われそうだ」

「奇遇だな。俺もお前に言い尽くされそうな感じがするんだけどな」

 火花が散りそうな程互いを睨みつけてるんだけど、煎れたての紅茶とケーキが目に入ってないみたい。甘いものが好きな二人には珍しいんだけどね。

 黒兎は黄兎にケーキを食べさせてるし。

 けれど次の瞬間には、黄兎がお皿をぶんどって自分で食べだした。それを見届けた黒兎も自分の皿を持ち、ケーキを口に運び始める。

 未だに撃沈している兄様をほっておいていいか解らないんだけどね。

 チラリ、と視線を流そうとすれば、気付いた白兎に視界を覆いつくすように隠される。どうして兄様を見るのをそんなに嫌がるんだろう。


「姫様。俺は、レイ様のままでいいと思うよ。刻の賢者の仕事がわかれば、代わりに俺たちが出来る事は俺たちがするし」

「…つまり、刻の賢者が嫌なら、別に刻の賢者になる必要はないよ。姫さんが一番だから、ね…」


 どうやら、二人の意見は同じみたい。

 私が刻の賢者であろうとも無力な人間だったとしても、白兎と緑兎には関係ないのか、黒兎や黄兎とは違った笑みを浮かべて私を見る。



 白兎と緑兎は、自分たちの力を抑えられる人間よりも、心の拠り所が欲しかった。


 黒兎と黄兎は、自分たちの力を圧倒的な力で抑え付ける存在が欲しかった。




 今回の答えは、きっとその差。

 黒兎や黄兎に言わされたとばかりに憮然とした表情を浮かべるんだけど、その瞳の奥には私を心配する色が宿ってた。

 私とピーコックの会話とか、集めた情報とかで刻の賢者が想像以上に特異だという事に気付いたのか、初めて見る類の心配の表情。

 心配で心配でたまらない。

 そんな感情を一切隠さず、私へと向けてくる。



「ありがとう。皆がいてくれて、本当に良かった」



 ピーコックは、影を作るぐらいなら盾を欲しがればいいのにって言ってた。けど。


 探して良かったと、心底思う。




 影は、私が生きてる限り死ねないから。


 解放を望むなら解放するけど。


 望まない限り、ずっと一緒にいるから。









 大切な人が死ぬって、本当に…言葉じゃ言い表せないぐらい…怖いもの。










「なんていうかさ……僕も考えたんだけど。いや、考えるまでも無かったのかな。ただ自分に自信がなかっただけで。

 けれど、白兎たちに殆ど言い尽くされたような気がするよ」


 後ろからそっと私を抱きしめてくれるのは兄様。その声音は困ったような響きを持っていて、思わず私の口から笑いが零れた。

 白兎や緑兎ですら困ってたもんね。黄兎や黒兎に先に言われたって。


「でも…さ。レイは、僕の答えを一番欲しがってたって――自惚れてもいい?

 僕の可愛い妹。僕の、大切な家族」


 自信がないっていう兄様。

 それはきっと、私も同じ。

 だからこそ、ちょっとの事で直ぐ揺れて、自信がなくなって空回る。


「私も同じ。兄様は大事な家族。今の私の帰る家」


 拒絶されるのが怖かったといえば、兄様が私を抱きしめてる腕に力を込めた。


 

 勝手に勘違いして空回ってた私と、私が妹という存在からかけ離れる事が怖くて、刻の賢者を見ているようで見ていなかった兄様。





「これって…結局は大団円なのかな?」

 なんていうか、結果さえ出てしまえば収まる所に収まっただけっていう感じもするんだけど。

「実際は何も解決されてないですけどね。まぁ…俺は姫さんが近くにいればいいけど」

 確かに、と頷く事しか出来ない白兎の言葉。刻の賢者の事も話してないし。星の事も話してない。

 離れる時に言った教えるって事も、なんだかんだといって言うタイミングを逃したような気もするし。



 17の意味は、私とピーコックだけが知ってる事実。



「レイは…これからきっと僕の想像がつかないような大変な目に合うかもしれない。

 でも、僕は王になって支えるよ。

 邪魔者もきっと、捨石になってくれるだろうし。遠慮なく使おうね」


 結局は有耶無耶になった私の辿った道筋。

 でも、それよりもたった今兄様が言った言葉がこの上なく物騒な気がして、聞いた方がいいのか聞かない方がいいのか。 

 判断に迷っていると、久しぶりに兄様が蕩けそうな笑みを浮かべ、私の頭を撫でてくれる。

 つまりは、聞かなくていいよって事。

「僕も少しずつ教えるよ。レイがいなかった間の事。だからってわけじゃないけど、焦らずにゆっくりと……レイの事を沢山教えてね」


 すごく甘やかされているんだと思う。

 でも、それが心地よくて、私は小さく頷く。


 

 やっぱり、ライ兄様に甘やかされるのはすごく好き。





 ライ兄様に甘やかされる事。


 大好きな理由。


 あの懐かしい日々と重ね合わせてないか?


 そう問われたらきっと私は否定は出来ない。





 だって。


 彼と彼女は、私の始まりで、私の全てだったから。
























「本来ならば在り得ない事。それは、レイ様にとっては日常。だからこそ気がつかない」




 廻る廻る。


 

 歯車が廻る。




「それでも、今回の在り得ない事はいつもと違う」




 巡る巡る。



 刻が巡る。




「そうだね……本来なら貴方は、力と記憶だけなのに」


 何とも言い難い表情を浮かべ、目の前の靄を見つめる。



「そうだな。俺は、受け継ぐ存在を見つけては漂うだけ。でも、考えてみればわかるだろ?

 記憶と、力の両方をいつまでも引き継げるか。色あせる事なく、レイと同じ時間を漂い続けられるか」



 失われたはずの男が笑う。



「俺はまだ眠るよ。彼女がまだ、眠っているから、ね」


「レイ様が落ち着いたから、の間違いでしょう?」


「それも、正解」


 男が、笑った。


「慌てるなよ、ピーコック。今回の件は、星の親馬鹿が発揮されただけ。でも、そのおかげで刻の賢者としての居場所も手に入れた。なら、俺が今すぐやる事なんてないだろ?」



 笑ったまま、靄だった男の姿は空気に溶け込むように消えていく。



 誰にもいえない秘密だけを押し付けて。



 静かに眠る。




 夢から覚めるその日まで。




 彼が目を開けることは――…無い。





界渡りの自由人~碧い星の物語り~本編はこれで終了になります。

読んでくださった方、ありがとうございました。

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