トラブルの後には四面楚歌
そろそろほんとーに身体が痛くなってきたんだよね~。
だって、子供の身体だし。
無造作に抱え込まれて連れ去られたら、そりゃ痛いよね。
・・・・・その光景を兄様の影が逐一報告してるっぽいのがね、逆に怖いんだけどさ。
さてはて。私は基本は争いはNGな感じなんだよね。
だって、面倒だし。
隣の国に来てまで喧嘩なんかしたくないし。
って、隣国だからいいのか。闇に葬れば。
・・・・・・・・・しまった。本音が出た。
今回は穏やかに平和に暮らすが目標だから、その考え方はポイッとしてね。
平和的に平和的に平和的に。
呪文のようにそれを繰り返す。
兄様が平和的に解決してくれなさそうだから、とりあえずそれを食い止めなきゃいけない。
あぁ、眉間にこれでもかって程皺を寄せている
これぐらいの透視はばれずに出来ちゃうけれども、そんなものは透視をしなくても予想範囲内だ。
平和的に平和的に平和的に・・・・・・・・どうやって??
寧ろやるき満々の兄様をどう止めろと?
私が止めたら、
レイは優しいね。とか。
そんな優しいレイにこんな仕打ちをするなんて・・・生きる価値ないよね。
なんて事を、これ以上ない程極上の笑みを浮かべて、淡々と死刑宣告の言葉を紡ぎそう。
平然と、さも当然とばかりに。
んな相手をどうやって止めろと?
というか頭は良い家系なんだからさー。
こういうゴロツキはなんとかしといてよ馬鹿宰相。
そんな私の本音が聞こえたかどうかは知らないけれど。
目前に立ちふさがる、影、一つ。
ちなみに、兄様の影じゃない。
兄様だったら立ちふさがる前に、私を取り戻してお姫様抱っこなんかを堪能してる。
まぁ、王家の影ならわかるんだけどね。自分のじゃなくても。
なのでただの黒づくめの男だったりするわけだけれど・・・誰?
随分とひょろっとした体型だけど・・・・・邪魔っ!
進路に塞ぐように立った黒づくめは、人質である私の事なんかこれっぽっちも考慮せずに魔法を使ったのよ。
しかも防壁魔法。
巨大な壁を出現させた所を見ると、魔力はまぁまぁ。人にしては才能はあるんじゃない?って思うけどさ。
そこに追突したら、私も怪我するでしょ!?
考えろばぁぁぁぁぁぁぁかぁぁぁぁぁあ。
念を込めてたら、黒づくめの肩が揺れた。
ひょっとして、届いた?
無意識に魔力を放ってたかなぁ。
まっ、いっか。
怖い何かに心臓を掴まれたのは黒づくめであって、私じゃない。
「レイ」
防壁に追突する瞬間、兄様の腕が私を優しく包み込む。
ちなみに、兄様の着地先は、私を抱えていた男の後頭部。
それと同時に魔法を駆使して私を浮遊させ、優しく抱きとめるのとは反比例するかのように、男に対しては容赦のない一撃だった。
あ・・防壁と兄様の足の裏に挟まれた。
ご臨終??
そう思って見てたら、指先がピクリ、と動いた。
動けるなら大丈夫かな。
見た所、治癒術者もいるみたいだし。
誘拐なんてするぐらいだから信仰心なんて薄そうなのに、よくその魔力を纏えるなぁ、なんてある意味関心してしまう。
誘拐犯を凝視していたら、兄様がそっと頬に手を触れ、優しく壊れ物を扱うかのように私の視線を上へと向けさせる。
「ごめんね。助けるのが遅くなって」
「ううん。ありがとうライ兄様。目立つのはイヤだったから、すごく嬉しい」
ぎゅっと、兄様の胸の辺りの衣を掴んで、身体を摺り寄せる。
「兄様・・・行こ? ね。兄様と歩きたいな。時間の許す限りになっちゃうけど…」
つまり、こんなボケナス・・・もとい、誘拐犯は無視して、二人の時間を楽しみましょうって事ね。
「そうだね。
じゃ、行こうか」
黒づくめはスルー。
余計な防壁を張っちゃった黒づくめの存在は、私からも兄様からも存在を抹消されていた。
だって、ねぇ。
人質の安否を考えない魔法の使い方で、命の恩人様、なんて思わないし。
「ちょっと待てーーー!!!」
無視したら、黒づくめが後ろの方で叫んでる。
男の子の声。
兄様と同じぐらい??
「兄様」
「どうしたの?」
「ん」
「大丈夫だよ。僕がいるからね」
何が大丈夫なんだろう。
そして、やっぱりスルーしたいのね。
待てと言われても無視し続けたら、黒づくめが回り込んできた。
「命のお・・」
「レイが怪我する所だったよ。あんな幼稚な防壁で恩人扱いはしたくないね」
兄様が男の言葉を遮り、言い切る。
まぁ、あんな力技でいいなら、兄様は瞬時に私を取り戻せてるね。
「対象者指定して、捕縛系の魔法の方がまだ使えるね。というわけで」
何がというわけなんだろう?
心の中で突っ込みを入れてみる。
「もう話しかけないでね。さぁ、行こう」
無駄な時間を過ごしちゃったね。
と、爽やか過ぎる笑みを浮かべるお兄様・・・。
既に、眼中から外された男の拳は固く握り締められ、震えている。
怒っちゃったかな?
「じゃー恩人じゃなくていいから、名前を名乗れ!
ちなみに・・・俺はこの国の王子、シーファルールガス・ラザメント・デーダ・ラーディアシィーズだ」
・・・・・先手を打ってきた。
しかもしぶとい。
名乗れ、で名乗るわけがない兄様と私。
ちなみに、なんて言葉を付け足して、自分から名乗っちゃいましたよ。
王子。そう。王子ね。
腹黒宰相の子孫なわけね。
瞳の色がダークブルー。宰相と同じだわ。
ちらり、と兄様を見てみると、面倒だなぁ、なんていう表情をしてる。
疑ってないんだね。
目の前の男の子が王子様って事を。
「王子様がたかが通りすがりの観光客を気にする必要はないよ。じゃ、僕たちはこれでさようなら」
名乗る気はないみたい。
話しながらも私に癒しを施しながら、影に退路を確保させてる。
やっぱ・・面倒だよね。
私も同感よ。実際面倒だし。
そんな事を考えてたら・・・
ふいに、昔の事を思い出した。
ダークブルーの眼差しを真っ直ぐに向けてきた、宰相の事。
──アナタヲサガシダシテミセル。
身体を、星に返す時・・・傍目から見れば死ぬ間際の時。
そんな事を言われた。
もう死ぬんだよ?なんて思いながら、私はそれを軽く流した。
魂が離れる時で、その言葉の意味を考える余裕もなかったけどね。
ちょびっとだけ、背筋が寒くなる。
昔の事を思い出したからかな?
今更その言葉の意味が気になったからかな?
私は兄様の胸に顔を埋めたまま、この状況をやり過ごす事だけに集中するのだった。