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センタクノトキ・5



 僕の生き方は、守られる。だった。

 守られて、守る。

 緑兎が僕を懸命に守ってくれて、僕はそれに守られながらも決して緑兎の手は離さない。


 僕は緑兎の弟で、守るべき対象。


 緑兎が、僕を守る事で生きていこうとしていた事を知ってる。

 僕だけは裏切らないという事を理解していた事をわかってる。


 けれど、ずっとずっと思ってたんだ。

 僕だって守りたい。共にいるよ、という心の約束だけじゃなく、緑兎を傷つける全てから守りたかったんだ。

 そして願ってた。

 他力本願だったけれど、この異能を抱え込めるような人が現れる事を――…ずっと願ってたんだ。

 緑兎は自分の異能が嫌いで、でも切り離せないものだって理解してた。だからこそ、それさえも包み込めるような存在が欲しかった。


 勿論、緑兎だけの為じゃなくて……僕も、僕の能力を陵駕出来る存在を求めてたんだ。


 だからこそ姫様に出会えた時は、柄にも無く神様というヤツを信じる気になった。

 僕よりも小さな手を伸ばして、綺麗な微笑を浮かべる。


「貴方たちの力は私に比べたら微弱だよ。どこか、異常なの?」


 あっさりと言われた言葉は、僕たちが求めていたもの。


 普通じゃない。

 化け物だ。

 殺される。

 

 いつでも畏怖の対象であり、僕たちは恐怖だった。



 その僕たちを上回る絶対的な存在。



 姫様は、僕が求め続けた存在だったんだ。







「緑兎ー」


 結論なんて出てるけど、一応珍しく緑兎と距離を置いてみた。僕の答えは迷う事無く決まっているけれど、緑兎はこんがらがってたし。

 いつも一緒にいる僕たちだけど、少しぐらいは一人の時間を作ってもいいかもね。なんて思っててたから丁度良いきっかけだったんだよね。

 けれど石に話しかけても無反応。これは部屋にいないんだろうなって思うけど、多分行き先は白兎の部屋。

 なんだかんだといって、白兎の所に集まるから。

 影たちの長であり、姫様がいなくても僕たちの力を制御出来る白兎。姫様という刻の賢者から与えられた力の差か。それとも素質の差か。

 白兎にとっては有り難くはないんだろうけど、力を使い磨いていた白兎の能力は影たちの中でも一線を賀している。

 黒兎は声を出さないようにしていたし、緑兎や僕だってなるべく人と接しないように生きてきた。だからこそ僕たちの力は、身体の中で今にも破裂しそうだった。その力の塊を姫様が昇華してくれたからこうして生きているんだけどね。


「白兎ー」


 僕は呼びかける石を変えて白兎へと声をかける。

 白兎の部屋に集まっているならもう答えは出ているんだろうけど…。大体予想はつくよね。誰がどう思っているかなんて。

 そんな事を考えてたら口から笑みが漏れてた。久しぶりに浮かんだ嫌な笑み。緑兎と遊んでて、姫様のいる場所が分かっている時は絶対こんな気持ちにはならないのにね。姫様がいないと不安定になる。

 それはきっと、僕だけじゃないはずだけど。

「黄兎か。こっちに来るだろ?」

 これで勢ぞろいだ。なんて声が聞こえて、やっぱり、なんて笑っちゃった。

 なんだかんだといって、僕たちは一緒に居るのが好きなんだ。

「じゃ、遠慮なく」

 お邪魔しまーす。と、現れた扉に手をかけて一人分の隙間を開けると、そこから見えたのは緑兎の姿。何処か気まずそうに右手を上げちゃってるから、別の意味で笑いが込み上げてくるんだけど…。

「何笑ってるんだよ」

 面白くなさそうに眉間に皺を寄せる緑兎に、僕は軽く手を振ってみせる。

「深い意味はないんだけど、緑兎が気まずそうだから面白くって」

 気にしなくていいのに、って言えば、そうじゃないんだ。なんて歯切れ悪く言葉を漏らす。本当に僕と違って真っ直ぐな緑兎は眩しいね。

「浮気がばれた男みたいだよ」

 もごもごと口篭るんだけど、それもまた面白くてからかう様に言えば、次の瞬間には顔を真っ赤にさせて立ち上がる緑兎。

「なっ。浮気って別に浮気なんかしてないだろ! 彼女なんていないし姫様大好きだし!」

「別に緑兎の熱烈な告白には興味が無いんだけど。僕も姫様が大好きだし。それぐらい皆知ってるよ」

 僕の言葉に、緑兎は尚更顔を真っ赤にさせて口をパクパクとさせてる。ご飯を強請ってる池の鯉みたいだね、とは言わないでおく。

 これ以上からかったら、緑兎の事だから部屋に戻っちゃうだろうし。それに…。


「黄兎ー。そろそろな。で、茶でも飲むか」

 やっぱり白兎からストップが入った。止めた白兎自身がニヤケ面で説得力の欠片もないんだけど、それも今更なんだよね。

「黒兎力作のお菓子? 珍しいね。姫様がいないのに出すなんて」

 大体、というよりいつも姫様が一番。当たり前だけど。

「……」

「美味しいうちに食べた方が姫さんも喜ぶ。だってさ」

「そうだね。姫様は…うん。僕たちの事が大好きだもんね」

 いつも通りの白兎の翻訳。僕たちも大体はわかるんだけど、白兎程正確にはわからない。

「じゃ、食べよっか? 僕はもうお腹ぺこぺこ」

 別に今回の事で悩んだわけじゃないから頭は使ってないんだけど、昔を思い出してたら妙にお腹がすいたし。

「いただきます」

 両手を合わせて、ぺこん、と頭を軽く下げる。



 お菓子を咀嚼しながらも考える事は姫様の事。

 姫様。何処にいるのかな。

 身の安全は保障されてるだろうけど。寧ろ姫様が害されるなんて思ってないけれど。

 でも。やっぱり居所がわからないのは寂しいよ。


 黒兎の美味しいはずの力作のお菓子。姫様がいないと味がよくわからないって言えばきっと、姫様の事だからギュッとしてくれるかな…。


 


「うん。そうだ。今度は僕から姫様に抱きついてちゃんと意思表示しないと」

「ん?」

 何の脈絡もなく僕が言った言葉に、緑兎から不思議そうな言葉が返ってくる。声に出さないだけで、白兎と黒兎の反応も似たようなもの。

「だって、姫様わかってないんだもん。

 僕達がどれだけ姫様が好きで、大切で、離れられないって事。未だに影だから、って思ってるんじゃない?」

 姫様って、そういう所鈍くてちょっとお馬鹿だよね。

 いつもは姫様の事をそんな風に言えば白兎に不気味で怖い笑顔を向けられるんだけど、今回だけは何も言われず無反応。頬が少しだけ引きつってたけど。


「だから、一段落ついたら僕は抱きつくんだ」


 抱きしめられるのも好きだけどね。

 ギュッとしてほしいけどね。


 姫様が大好きって事だけは本当だから、珍しく僕からギュッとしたい。

 そう言って笑えば、緑兎の困ったような視線とかち合った。

 ……。

 うん。緑兎なら、そういう答えだと思ってたよ。


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