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センタクノトキ・2

主人公の葛藤編。


「それはレイ様が意地悪だよ」


 と、にこやかに言ってのけたのは、ついさっき別れたばかりのピーコック。


「ちょっとはね、自覚はあるんだけどね」


 そう私が言ってみれば、ピーコックは首を横へと振るとやっぱり笑顔を浮かべたまま1回縦に首を振る。この場合は自分の意見を確認。で、やっぱりこっちの意見が正解だねっていう首振りなのかなと思わなくもないけれど。



「ちょっと? かなり、の間違いだよ。だってレイ様は、生まれながらに刻の賢者だからね。例え記憶が甦ったとしても、違いは多少で済むだろうに」



 改めて言われて、私はそう?なんて目線を泳がせながら首をちょっとだけ傾げる。



「この身体の資質は近いっていうのは認めるんだけどね」


 それはね。認めるよ。というより、認めざるを得ないから認めちゃうんだけどさ。さっきから言い訳じみた言葉を口にしてる私は、気まずさを誤魔化すように両手を組んでみたり指先を絡めてみたりしてみた。

 それにピーコックは何も言わず、私の前に置かれたのはココア。甘い、飲み物。


「単に、口に出せば自覚が生まれます。生まれたらきっと、レイ様は刻の賢者としてやるべき事をやると思うよ。

 それを、遅らせてあの兄君たちの近くでのんびりと過ごしたいんだよね。」


 遠慮がないというか容赦がないというか、ピーコックは私の反応など意に介した素振りは一切見せずにぶった切る。この性格でよく兄様と会話が出来たなって思うけど、やっぱり猫を被っていたんだよね。

 

「良い傾向なんじゃない? レイ様が、甘える、って事を選択してるんだし」


「……基本的に、盾と矛は私に甘いと思うのよね」


 ピーコックの言葉に、私は脱力を覚えながら顔を机に突っ伏した状態で言葉を吐き出す。レイになってから始めての喧嘩で、正直さっきからものすごく落ち着かないんだけどね。

 もう一度溜息を落としてから、指先を動かした時にあたる感触。結構熱いそれは、ピーコックが煎れてくれたココア。

 糖分をとって落ち着けという事なのか、それとも子供は甘いものが好きだよねと思っているのか。判断に迷うので考えずにとりあえずココアをいただく事に決めた。


 コクン。と喉を動かす度にココアの甘みが吸収されていく気がする。


「美味しい」


 私好みの甘さ。ミルクの量。


「盾ですから」


 私の言葉に、あっさりと言うピーコックに逆に私が動きを鈍くさせた。それを言ってしまうと全てがそれで済んでしまいそうな気がするから、私自身はあえてはそこは触れずに済ませておく。

 さっき、その盾と刻の賢者の件であんなに気まずくなったばっかなのに、こうして本人と会って話すのはどうなんだろうと思わなくもないけれど。


「今回は影を作ったんだね。初めから俺たちを呼べば良かったのに」


 ピーコックは遠慮なく、私にとってどうしようもない言葉の数々を降らせてくる。この場合はもう少しオブラートに包んでというべきか、呼んでも無駄とはっきり伝えるべきか。どうなんだろう。

 悩んでも結局良い言葉は思い浮かばず、私はココアを飲みきった。



「矛と盾の記憶は受け継がれる。それは刻の賢者であるレイ様を護れる様に。ただ、自身の魂で生まれ変わるレイ様とは違って、矛と盾はその星で相応しい魂が存在しなければ生まれないから呼ばないのもわかるけど」


「うん」


「力を行使する事を嫌うのも、今の俺には理解できますけどね。王族に生まれて、自分と共に生きてくれる存在と契約を結んだ理由も、わかりますけどね――でも、今回は意地悪をやっちゃいましたね」


 にこやかに、本当ににこやかに話すピーコックを、何故か実力行使で黙らせたくなったのはどうしてだろう。


 多分、言ってる事は殆ど正解。

 それは私にもわかる。けど、自覚が生まれたら兄様の妹としてのんびり過ごす事なんて出来なくなるもの。

 そうなった私と、一般人である兄様の時間が噛み合うとも思えない。


 そこまで考えて、私は両手で顔を抑え付けた。




「影たちには刻の賢者である私を選んでも不思議じゃないと思うのね。だって、刻の賢者の私だから契約を結べたんだし」


 普通の姫君だったら、兄様が選んだ人物と影の契約を結んでた。


「でも…」


 言葉を詰まらせる私の頭を、優しく撫でてくれる。



「言わなくていいですよ。俺は、盾ですから」


 役割を思い出して自覚した俺には――言わなくても伝わります。


 頭を撫でながら穏やかに言葉を紡ぐピーコックに、私は無言のまま顔を伏せた。






 

 

 本当の意味で選択を迫られているのは私自身だと、気付いてはいたのにそっぽを向いて困らせた。

 

 そんな事は、今更言われるまでもなく自覚はしているんだけど…。




 兄様にはレイを選んで欲しいと、もう少し甘えたい私の本音。



 それを口に出せたらこんなふうに困らなかったのかなと、器用そうに見えて実際はただの不器用だった私というモノを自覚しながら、目を伏せると同時に溜息を落とす。


 





「貴方は、何処までいっても刻の賢者でしか在り得ないですよ」



 私の葛藤を他所に、ピーコックは選択した言葉を紡ぐ。

 刻の賢者の盾としての言葉に、私はそうだろうね――なんて態と、他人事のように言葉を返した。





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