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センタクノトキ・1




 とりあえず定期購入の話をしてから、私と兄様は男の元を離れた。


 男の名前は、ピーコック。堂々と偽名と言い切る辺りがなんとも言えないんだけど、兄様は突っ込まなかった。既にその気力がなかったのかもしれない。

 珍しく、というより普段では考えられない沈黙。

 私を守る影たちからも何もなく、守られている感じはするもののただそれだけ。今の出来事の疑問などを口にする事なく、ただ空気になっていますと言わんばかりの態度。

 聞きたい。気になると言われるよりもチクチクと説明を請求されている気がして、普段とはかわって繋いでいない右手に視線を落とした。

 いつも繋いでいる手は珍しく自由で、それが手持ち無沙汰だと思えば自分の浸りっぷりに笑いたくなるけれど。

 なるけど、笑いを零せる状況でもなく、口を固く閉ざしたままひたすら兄様の少し後ろを歩き続ける。


 ちょっと、じゃなくてこの空気はかなり嫌かも。


 なんて言おうものなら、じゃあ…と話しが続くのは目に見えている。

 ある程度は話す気ではいても、話しすぎる必要はないと思っている私のルーツ。地層のように積み重ねられた私の記憶。知識について共有している影といえども、今回の件に関わる記憶の最下層についてはやっぱり、層が多すぎてたどり着けなかった事が判明。

 初めて影を持って共有したから気づかなかったけど、私ではないから共有に限度があるらしいとわかったのは今後役にたつのかどうなのか。


 そんな、普段は兄様の前では考えないような事を考えてはみたものの、やっぱり手持ち無沙汰なのはかわらない。

 そう考えると、私が多少は規格外ではあってもまだ人間だった頃の話が出来る可能性があるピーコックという存在は、過去を懐かしむつもりがあるのなら重宝すべき人になるのかもしれないけれど、やはり戸惑いの感情が先に表に出てくる。


「(後回し後回し)」


 まだレイ。兄様に手を繋がれている、レイ。


 自身に言い聞かせるように、音には出さずに言葉を紡ぐ。


 今のレイに過去を懐かしむ気はさらさらないのだ。

 が、ピーコックが話した内容で聞き流せないものがあったのも事実。それについては後回しにすれば自分が手痛い目に遭いそうな気もするのだが、別の意味で捉えれば楽しみだといえるのかもしれない。


 気づかれない程度に兄様を見て、視線をぐるっと一周させ影たちを見る。

 

 内へと隠そうとしているものの、非常に素直な反応に私の口からは漸く私らしい笑みが漏れた。


 必要以上に緊張していたのね。


 肉体に引っ張られるからか。それとも刻の賢者なんて大それた名前が薄れてきているからなのか。

 魂に促されるままに英知を極めた私だけれども、この場所で子供として過ごすのは存外気分がいい。

 迷子防止の為に手を繋ぎ、影に見守られながら兄様と歩いてく。


 右手は今、お休み中だけど。


 でもきっと、明日になれば元通り。

 

 それは私の願いに他ならないんだけどね。







 そうは思いながらもやっぱりこの沈黙の中歩き続けるのはちょっとキツイと、前置きもなく足を止めてみた。

 いつもよりも私に対する集中が薄いのか、兄様も影も数秒は気付かずに歩き続けてる。だけど私の気配が離れていく事に気付いたのか、兄様が足を止めて驚いたように目を見開いて後を振り返った。

 影たちも私を凝視するように見つめてるのがわかった。

 普段は消している姿。でも、今は空気が揺らいでる。相当動揺したのか、消せるはずの姿も消せないってどんな心境だったんだろう。足を止めただけなのに。

 物言いたげな表情は私に向けるんだけど、口を開く気はないみたいで相変わらず口を噤んだ状態。

 どうやって言葉を発するか。

 発した瞬間は雪崩のように言葉があふれ出すんじゃないかっていう気持ちから、多分言葉自体を発する事が出来なくなっちゃっただけだとは思うんだけどね。



 沈黙ばっかりじゃちょっとイヤだなって思う私がいる。

 そんなに知りたいんだねと、複雑な眼差しを向ける私もいる。



 今回の件に限りじゃないけど、刻の賢者については話す必要性を一切感じていない私と、知りたい兄様と影たち。

 真っ向から対立所の話じゃなくて、完全な平行線。


 私の願いはきっと、私自身の手によって叶えられないんだなって物悲しくなりながら、ここで私は一つの覚悟を決めた。




「ねぇ、兄様。私は、まだ、レイで居たいって思ってるんだけど、それには私の過去は今はあえて不要だと思ってるのね。

 でも、兄様たちはそれを知りたいって思ってる。

 私は話す気がないから。話す必要性を感じてないから口を閉ざしてる」


 ここで一回言葉をきって、スゥと酸素を取り込んで次の言葉に備えた。



「でもね、仮に話したとしたら――話せる程記憶の細部を思い出したとしたら」



 言葉にする事によってあやふやだったものが、明確な形を持つような気がするのね。私の中でだけど。



「私はきっと、私が刻の賢者である事を完全に思い出すと思う」


 私の言葉を聞いた面々に困惑の色が浮かぶ。

 きっと、意味がわからないんだよね。


 私自身ちょっとあやふやなんだけど。ここ一世紀といわず二世紀…三世紀ぐらいかな? 多少記憶を呼び起こす事はあったとしても、明確に言葉に出した事なんて殆ど無かったのね。

 自分が刻の賢者だって自覚は勿論あるんだけど、肉体に引っ張られて魂の本来の姿が薄くなって。という感じで、今のレイみたいな状態になってたんだけど。

 まぁ、ここまで魔力を蓄えられる身体は久しぶりだから、この前や更に前と比べるのはちょっと違うかもしれないけどさ。


 けれどこの肉体だからこそね。


 話し出したら思い出せちゃうと思うんだ。


 今まで以上に。



 だから、私はあえてこの言葉を告げようと、重たくなってしまった口を開いた。


 平然なフリをして、微笑さえ浮かべて。



 言葉を紡ぐ。







「そうなったらきっと、今のレイではなくなるかもしれない、ね?」


「「「――ッ!?」」」



 私の言葉は、兄様や影たちの表情を一変させた。

 うん。そうならなかったら、ちょっとへこむんだけどね。驚愕に見開かれた後、歪められる表情。

 人間らしい葛藤の表情。

 今の私を、レイを惜しんでくれてるって事だと解釈して…それはちょっと嬉しいねと微笑む。




「私にとっては特に問題視するような過去ではないと思うけど――聞きたいなら聞きたいって言って。

 そしたら話すから。思い出せる範囲で包み隠さず、ね」



 呼吸をする事を忘れてしまったかのように、兄様と影たちは動かない。


 ううん。動けないんだと思う。



「取りあえず、今日から暫く距離は取るね。

 今は……私も距離をおきたい心境だし」




 だから選んでいてね。

 

 と、最後に言葉を残して私は転移を発動させた。




 私の影にも追えない様に完璧に気配を消してね。



 またね。



 と、音にならない声で呟きながら。










 消えた。






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