ちょっと隣国まで小旅行
今の格好といえば、普通の格好。淡い水色のスカートに、髪は帽子の中へと納め兄に手を引かれながら歩いている。
顔を見られちゃばれそうだから、当然帽子を深く被って顔を隠す事も忘れない。
そして歩いている場所といえば、隣国エアル。
ちなみに、自国とは敵対国に認定されてる。隣国なのにね。
そこを護衛も付けずに第一王位継承者の兄と、姫が一人だという事で身内から溺愛されまくっている自分という重要人物が、手を繋いで歩いているのだから無防備もいい所。
なんていうか、溺愛だけど放任主義の両親。
これで私に何かあろうものなら、即滅ぼすんだろうなぁ。エアルを。
エアルは元々平和国家だったのよね。水の国って言われた癒し系。一回目に生まれた時は隣国とも仲良くやってたはずなんだけどさー。
なんて思って事情を調べたら、その時の宰相が乗っ取っちゃったらしい・・・
あぁ。やっぱり私の子孫はのんびり屋さん。
そしてやっぱりか。腹黒宰相。
仕事は出来る家系だから性質が悪いねっ。
んで、自分の目で直接確認したくなって兄様に相談したら、二人で旅行という運びになりました。
兄様は強いから、下手な護衛よりも性質が悪いんだけどさ。
いざって時は私もいるし。
魔力は隠してあるからばれてはないけど、何かがあった時は秘密裏に生まれてきた事を軽く後悔させられる自信はあったりするわけね。
その気になったら滅ぼせちゃうわけよ。大国といってもたかが一国。バランスが崩れるからやらないけどね。面倒だし。
その辺りはさておき、私と2人っきりでのんびり?と出来る旅行はいたく兄の機嫌を良くさせた。
ちらり、と視線を流してみると、殺人的な満面の笑みが、寧ろ神々しささえ感じてしまう。
殺人的といっても、美形故の、かな。
鮮やかな金糸に切れ長の瞳。
知性を称えた瞳は落ち着きを感じさせる深い藍。
感情によって藍が朱にかわるのは、血筋かな。私の場合は魂の力が強すぎて、その遺伝は出なかった。
「兄様」
つながれた手をちょっとだけ引っ張る。
このまま散歩気分で歩くのもいいんだけど、やっぱり情報収集は必須だよねー・・・なんて思ったけど、そこではたっと気づく。
「どうしたの?」
穏やかに声を降らせる兄様。
「どうやって情報収集しよう?? 私がいたら…出来ないよね?」
10歳だしね。情報を得られるような場所に入れるはずもなければ、怪しさ満載。寧ろ目を付けられて厄介事に巻き込まれるよね。
そんな当たり前の疑問を投げかけた私に、兄様はやっぱり笑みを崩さない。
「影に探らせてるから、大丈夫だよ。僕たちはゆっくりと市井見物でもしよ」
ね。と、数多の女性を勘違いさせてしまいそうな、蕩けそうな微笑を浮かべる兄様に、とりあえず頷いておく。
兄様の影を使うぐらいなら、自分の影を使った方が早いんじゃないかな?っていうのは愚問だ。
私の頼み事や私と過ごす時間以外に、王族のみが持てるという影を使ったのを見た事はないという宝の持ち腐れ。
そんな上司?は嫌じゃないかと、今度機会があったら聞いてみよう。
「レイ。これはどうかな??」
足を止めて兄様が手に取ったのは銀と藍の宝石がついたペンダント。可愛らしいデザインの、丁度今の私ぐらいの年齢に合いそうな感じの装飾品。
「可愛い」
それは本音。
自分が身に付けるのは別として。
「じゃ、これね」
ゼロは多目の装飾品をあっさりと購入。
おそらく、この店ではただ一つの本物。値段の桁も違うけど。
袋には入れて貰わずに、私の首へとかけてくれる。
今の質素な装いだと、ちょっと浮くかも。
「似合うね。うん。可愛い」
レイの為に作られた装飾品だね。
職人さん、引き抜こっか。
なんて本気で言う兄様に、それはいいよ、と控えめに断ると、
「可愛いのあったら、兄様がつけてくれるでしょ?
その方が嬉しいな」
つまり、お抱えの職人さんがいた場合、兄様を通さないので自力でつける。
こうやってその都度購入する場合は、兄様を通すのでつけてもらう。
まぁ、そんな意味を含ませたら、嬉しさの余り震える声をおさえつけ、そうだね、と小さくこたえた。
しかし、さほど金銭感覚の発達していない私たちは気づかなかった。
あっさりと買ってしまった装飾品が、厄介な人間を呼び寄せるなんて事に。
明らかに、子供2人が買うには不似合いな値段。お供もいない事も手伝いカモ認定。
そしてそれは突然だった。
多分カモ認定をした直後に動き出したんだと思うけどね。
行動が早かったのよ。考えナシに。
「!」
後ろから走ってきた男は、私を抱え込むように身体を持ち上げて連れ去って。
痛さに顔を歪めたけれど、その際見えた兄様の表情が怖くて痛みを忘れた。
潜在能力は大人を軽く凌駕しても、身体はまだ成長しきっていない子供のもの。大人の男に抱え込まれたら、抵抗さえも難しくされるがまま。
「(なんて命知らずな・・・)」
兄様の影が、私たちを取り巻くように動いている。
邪魔をしないように、私の影には待機命令。
何処に連れ込もうと、既に追跡者がいるのだから筒抜けで・・・あぁ、お馬鹿。
「(折角ののんびり隣国見学だったのに・・・)」
そんな事は後の祭りで、これから起こるであろう惨劇をどうやって防ごうか。
私の頭はそればっか考えてた。