久しぶりの邂逅・4
4人がいる部屋から、黄兎と緑兎に連れてこられた場所は私の研究所。どうやらここなら暇を潰せるだろうという気遣いに、大人になったね――なんて私は2人の頭を撫でた。
やっぱり人間不信というか、すれていた時代を知ってるから感慨深いというかね。2人はソレに気づいたのか、何処となく頬を膨らませながら少しいじけてる。
白兎や黒兎よりはどうしても幼さが目立つ2人。2人は気にしているらしいけど、それで十分だと私は思う。寧ろ、あの2人のような成長は遂げなくていいわけよ。個性万歳って感じでね。
「いじけなーい。拗ねないの。黄兎と緑兎の好きな所の一つだよ?」
って言ったら、途端に2人の表情が崩れた。
勿論、笑みで。
「姫様が僕たちを好きっていうのは知ってるよ? 知ってるんだけど…さ」
「何かがあれば白兎や黒兎の方が頼りになるから…うん。なんていうかさぁ」
言いよどむ2人を、ギュッと抱きしめた。
あー可愛い。
やっぱ私の影が一番可愛い。
私情丸出しの結論を私が出した頃、抱きしめられていた緑兎が控えめに私の背中を叩く。
「嬉しいけど…この体勢だと姫様が頑張っちゃうだろ」
確かに、今の私は背伸びをして一生懸命短い手を伸ばして2人を抱きしめてる。つま先に全体重を掛けている所為か、プルプルと足が震えてきたりもするんだけどね。なんか可愛いからギュッとしたかったというかね。
「頑張らなくていいよ。俺たちが抱きしめるから」
「そうそう。僕たちがギュッとするからさ。お願い。ギュッとさせて?」
身長差で私を見下ろす形になっている2人に懇願され、私はコクリ、と1回頷く。寧ろ影たちに抱きしめられるのに依存なんかあるわけがなく、断りをいれる必要もないなんて思っているんだけど…。
「姫様は無防備すぎ。白兎に怒られちゃうよ?」
「俺たちが一緒に謝るからいいけどな」
相変わらずの2人。
影たちの中でもこの2人は一緒に行動する事が多い。仲良しさんで互いが互いを心配しちゃうから、引き離す気も無いんだけど…やっぱり時々私に餓えるらしい。
白兎の今回の配置も多分、2人のこの発作のような餓えを見越しての事なんだろうと思う。でなければ、黒兎が私と一緒にいるはずだから。
私も他の影も大好きだけど、大体は2人で世界を巡ってる。土産話しを聞くのは私のちょっとした楽しみで、嬉しい事の一つ。
でもやっぱり、こうして一緒に居てくれる瞬間も嬉しくて、私は勢い良く2人の言葉に頷いた。
「そうだね。3人で謝ろっか」
既に怒られる事前提なの!? なんて白兎の驚く声が聞こえてきそうだけど。実際言いそうだけど。
まぁ、仕方ない。
悪巧みを企んでしまう様な3人を、お目付け役がいない状態で放置する方も悪い。って開き直って笑ってみた。
すると、黄兎が頷き、緑兎もそれに続くように頷く。
どうやら私の思考がわかったらしい。
「とりあえず姫様さ。暇つぶしに何か作らない??」
「そうだよね。姫様が大好きな癖にほっといてるあの4人……にさ、悪戯出来る物造ろうよ!」
ナイスアイディアとばかりに瞳を輝かせる黄兎。
悪戯道具には賛成なのか、隣で緑兎の瞳が面白そうに細められた。
最近、こんな表情をするようになってきた。
ちょっと前までは輝かせるだけだったんだけどね。今ではいかにも悪巧みしてますって顔をするようになった。白兎に比べれば全然なんだけどさ。
まぁ、これも成長かな? なんて他の人が聞いたら首を横に振りそうな事を考えながら、私は研究所に置いてある材料を眺めた。
ここ暫く研究所に篭るような事はしてない。
つまり、そんな面白いモノを作れる材料があるかな? なんて色々と見て回れば、明らかに自分が置いたモノ以外の何かが積み重ねられていた。
チラリ、と2人を伺うと。
「お土産だよ」
「そうそう。土産。この辺りじゃ見かけない材料だったから」
横目で伺っただけの材料の山。
でも、貴重なモノが沢山あったのはわかった。
世界巡り旅行の最中に、本当に色々な場所に立ち寄ったのは知ってたんだけど、ちゃんと採取もしてたのね、って関心しながら私はその内の一つを手に取った。
「それねー。今では失われた技術で作ったんだって。誰も使えないから、壊れてるって言われたんだよ」
「見た目が面白いからって他のオマケで貰ってきた」
「誰も使えないから――ね。溜める魔力が足りないだけなのに」
輝きを失った元宝石らしき玉が埋め込まれている筒状のモノ。一見すると笛のように思えるが、笛の必需品の穴は横に何も開いていない。
息を吹き込んだとしても、空気が通り抜けるだけの筒に見えるモノ。
今とは違い、純度の高すぎた魔石は力を失い、透明の石のようになっている。これに魔力を注ぎ込めば、色とりどりな光を放つ事を私は知っているけど、今の人たちは知らないんだろうね。
「魔力を注いでもいいんだけど、それだと破壊に特化しちゃうから…薬品でも作っちゃう?」
これの使い方は至って単純。魔力を注いで溜めておいて使用するか。薬品を球体にしたものを筒に押し込み、少量の魔力を注ぎ込む。すると、逆側から飛び出た球体は弾け、空気を伝い対象者に触れる。すると、薬品の効果通りの症状が現れる。
応用が利いちゃうコレは、使い方さえ知っていれば重宝するんだけど、知らなきゃガラクタだよね、ってしみじみと手のひらの道具を見つめてた。
「姫様。僕、あの薬作りたい!」
「俺はアレ、かな? 二つの薬を一つに纏めちゃえばいっか」
さらり、と悪戯の域を軽く越えた発言をする2人の言葉に頷きながら、私は黄兎と緑兎に必要な材料名を告げて準備してもらう。
その間に私は機材の準備をして、準備が整い次第作れるように場所を整えておく。
それと同時に、用心の為というかなんというか、強制解除用の薬品の準備を始めた。
やっぱ薬品の効果は薬品で消した方が無難だし。
「姫様ー。材料揃ったよ」
「俺も揃った」
小さめの笊の上に山盛りにされた材料たち。これを煮詰めて効果をつけて…
「あ、魔力石忘れてた」
久しぶり過ぎて肝心のモノを忘れてたと、私は棚からケースを取り出し、純度の高いものを選んだ後、壷の中へと投げ入れた。
瞬間、ボワン、と煙をあげながら魔力石が水へと溶け込む。
これも不純物のない水なんだけどね、今は魔力石が溶けて色が少しついてる。綺麗な空色。
魔力石が青だったから、その影響。
「後はそっちの壷に入れてくれる?」
魔力石を溶け込ませた壷を確認しながら、2人の姿を確認せずにお願いをする。
「「わかったー」」
機嫌がよさそうだなって思ったけど、それは悪戯の準備をしているからだろうって思ってた。
ただ、その悪戯の対象はあの4人だけじゃなくて。
2人が企んでいる可愛い悪戯の内容には気づかず、私は薬品作りを完全に任せきっていた。
まぁ、やっぱり可愛いからいっか――っていうのは私の超がつく本音なんだけどね。