ある意味運命の相手・3
「母様。母様。大好き」
「私も大好き」
「僕もだよー。大好き!」
子に恵まれ、沢山の子供に囲まれながら一緒に生きてきた。
乳母に任せるなんて事はせず、全部自分で育てた。
フォローは沢山してもらったけど、それでも子供を手放す気なんて全然なくて、それは当時の旦那も協力してくれた。
その子たちの子孫。が、まだ生きている。
宰相は殺さずに生かしておいたらしい。
「死んでるとは思ってなかったけどね。だって、あれでも一応血に忠誠を誓ってたから」
「ふぅん。でもさー。国を乗っ取っちゃったんでしょ? それなのに殺さないの?」
黄兎の言葉に、私は黒兎に調べてもらった資料の一文を指差し、
「これ、血なまぐさい事が一切ないの。多分裏で何かあったと思うのね」
死亡者0名も文字を改めて見る。
調べれば調べる程、どうして子孫が国を手放したのかがわからない。そして血に忠誠を誓っていたはずの宰相が、何故乗っ取りを計ったのかも解らない。
寧ろそろそろ面倒だから、力ずくでやっちゃいたいなぁ、なんて下から皆を見上げてみると、迷わず頷かれた。
気持ちは、私と大差ないみたい。
「姫様。黄兎と俺の封印の一部解いちゃって。そうすればこの星全体を覆う事が出来るし。いっきに探査かけてやった方が楽だろ」
「そうだねー。僕と緑兎の魔法の方が適してるよ。黒兎には補佐してもらうけど…白兎は姫様から離さない方がいいかも。所構わず衝撃波を放ちそうな感じだよ?」
緑兎と黄兎のアドバイスに、私は悩みつつも頷いた。
だって、本当に撃ちそうなんだもの。見つけるまではおとなしくしてもらって…後は兄様たちに私の説明をして。
って事を考えてたら気が重くなって、つい溜息なんかをもらしちゃったら影たちが一斉に私に視線を浴びせた。
あ…うん。心配かけるよね。この状況で溜息は。
悪気はないんだけれど。でもね。ちょっと面倒だなって思う私がいるのも事実で。
今すぐ旅立ってしまおうかな?
なんて、少しだけ考えてた。
「姫様。俺たちは、姫様とずっと一緒」
「そうそう。魂の絆だよ?」
「離してあげないよー」
私の思考に反応して、三人が次々に言葉を紡ぐ。
それは、私が不安に思っていた事の一つ。
例え、この器でなかったとしても、ずっと一緒。
不老を受け入れるって事。
口で言う程簡単ではない事実だったけど、私は嬉しくて無意識に笑みを浮かべていた。
それが、レイの笑みなのか、私本来の笑みなのかわからないけど、嬉しかった事だけは本当。
「とりあえずはアレをなんとかして、穏便には済ますよ。
姫様、レイ様の兄様を気に入っているでしょ? だから、面倒がらないで。まだ…ね」
黄兎の笑みに、私は頷いて見せた。
そうだね。私もそう思う。
私は、兄様の事が結構好き。シスコンだなぁって思うけど、それが原因で行き遅れたって私は気にしないもの。
「白兎ー。シーファは客室に放り込んで、兄様と来てくれる?」
思い立ったらすぐ行動。このままで行くと遅かれ早かれ兄様たちに私の魂の正体はばれるだろうから、シーファから言われる前に報告ね。
白兎に繋がった状態で、兄様やシーファの状況を確認する。
うん。シーファは問答無用で客室へ。ベットの上に転移しただけでも今の白兎にとっては良心的って言えるかもしれない。そしてそのまま兄様の足元に陣を出現させ、向かう場所はこの部屋。
私の目の前のソファー。
白兎の視界がぼやけ、目を瞬いてみると目の前には私の顔。ここで視界を自分のものへとなおし、改めて兄様と向き直る。
何か色々と思うところがあるような表情。どこから説明しようかなって思っていたら、ソファーに深めに身体を預けた兄様が先に口を開いた。
「レイはさ…前世の記憶とかある?」
戸惑いながら、でも確信に満ちた表情と声。白兎に確認してみるけど、シーファからはそんな話は一切出てないみたい。
兄様が自力で考えたんだろうけど……さすが兄様。
「うん。ある」
嘘はつかずに、素直に言葉を紡ぐ。
本当は前世なんて可愛い記憶じゃないけれど、その辺りはどうやって説明しようかまだ迷ってる。
「そっか。その前世関係者なんだね。あの王子様は。今のレイには関係がないのに、何をどうやって引きずって、しかも人質までとったのかなぁ……本当に性質が悪いね」
「…あれ?」
なんかあっさりし過ぎてる兄様に、逆に私が戸惑う。
だって、これって結構普通の人間にとって衝撃なんじゃないのかな?
私の影を見てたらわかるでしょ? 影が人外なら、主はそれ以上だって。そんな前世を持つ存在を不気味に思わないのかな? なんて疑問がたくさん浮かぶ。
「俺の大好きなレイはレイだよ。見た目も中身も大好きなんだから、前世の記憶があろうとその前が何であろうと桁外れの力であろうとも、そんな事は些細だよ」
「……」
兄様ってすごい。些細な事で済ませちゃった。
ちょっと見縊っていたのかな?
シスコンだから私が好きだったんじゃなかったのね。
「所で、名前とかある? レイの魂の」
「うん。あるよ。刻の賢者って呼ばれてる」
ここまできたら、包み隠さずご報告。
やっぱり、兄様の表情は変わらない所か、今まで以上に愛しそうな眼差しを向けられた。
なんだろう? このかなり度を越えた眼差しは…?
兄妹愛が振り切っちゃったのかな?
振り切った先に何があるのかなんて知らないけど。
「流石俺のレイ。かっこいいね」
「ん。ありがと」
褒められたと思った私は、お礼の言葉を口にしたけど――影たちが凄く微妙な表情をしたのを見逃さなかった。なんとも形容しがたい、なんとも言い難い表情。
何?って問いかけようとしたら、それより先に兄様に抱きしめられる。
「レイ。早く解決して、また、いつもの日常に戻ろうね」
相変わらず兄様は微笑んで、やっぱり私の影たちは無言のまま姿を消した。