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ある意味運命の相手・1




 知識はあってもね、全能な存在じゃない。


 それぐらいは自覚してる。


 だって、知識だけあってもそれらが人に当てはまるわけじゃないから。

 生きてきた年数だけは長いけど、生き続けてしまえるから、どっか、人とは距離を置いたりなんかしてね。

 本当は影という存在だって、作ろうと思えば作れたし。


 それなのに、今までは王族に生まれなかったから契約なんかしなかった。


 でも、レイとして産まれて。


 なんとなく。


 影を探した。


 このままだと兄様が勝手に探して影にしちゃう可能性もあったんだけど、そんな相手とは魂の契約なんかしないから、私の素性がばれるという事はない。

 けど。


 うん。


 手放せなくなりそうでね。


 ちょっと怖い。



 白兎たちがいる生活にすっかりと慣れちゃった私は、この身体を返して生まれ変わった後の心配までしちゃってね。


 そうなったら、流石に契約は切らなきゃダメだろうし。


 私自身、何処に生まれ変わるか――なんてわからないし。




 そんな事を考えてたら、妙な圧迫感を感じて顔を上げてみた。



「…………」


 黒兎の痛いぐらいの眼差し。とりあえず笑みを浮かべてみる。

 白兎相手だと、こんな表情を浮かべたら迷わず小突きにいくんだけど、流石に私にそれはやらない。


 ん。


 でも撫で回し攻撃がきた。


 そうくるようにしたのね。


 いつもは優しく優しく撫でるというより触れるんだけど、結構グリグリとした感じ。


 わかったわかった。こんな愛想笑いなんて浮かべないから、と私はいつもの表情に戻した。

 黒兎は手を離したけど、何処か名残惜しそうな視線を向けてくる。


 …気に入ったの?と思ったけど、それは聞かずに本題へと移る。




「ねぇ、黒兎。白兎は何処に行ったの?


 んーん。黒兎で不満なわけじゃないの。ただ、エアルの王子様がなーんか企んでる最中にね、白兎が私の傍から離れる事が疑問なだけ」




 白兎は、私馬鹿だと思う。

 契約したての頃は考えられなかったけど、何かが吹っ切れた後は見事に私を猫可愛がりするようになった。

 それは、気のせいじゃないはず。

 その白兎が今の状況でいないのが、不自然に感じちゃうだけ。



「・・・・・」


 首を傾げた後、にっこりと笑みを浮かべる黒兎。


「言う気がまったくないのね。黒兎……貴方も、気に入らなかったの?」


 シーファの事。


 尋ねてみたら、迷わず頷かれた。


 しかも、姫様、何を今更言ってるんですか?愚問ですよ。と、目で語られた。


「声を出しても大丈夫よ」


 今は、私しか居ないし。


「………」


 黒兎は困ったように視線をさ迷わせたけど、その後は私をじっとみたまま、滅多に発しない音を出した。



「姫様。俺たちの、姫様。俺たち、アレは、いらないですよ」



 わーい。

 シーファの事がアレ扱いになっちゃった。


 まぁ、気にしないけど。




「その辺りは国の関係だからなんとも言えないけど。声、少し掠れてる。後で薬湯を作るから飲んでね。

 あ、先に喉飴ね。はい、口開けて」



 結婚とか、そんな事はあんまり重点置いてないから、興味ないのよね。


 だから黒兎が気にするほど、私には重要な問題じゃないけど……うん。言わないでおこうと決めた私は、素直に口を開けた黒兎に、喉飴を贈呈する。

 舌の上に置くように飴を口の中へと放り込むと、黒兎の顔が綻んだ。


「うん。ミントの味」


 ミントが好きな黒兎専用喉飴。

 袋を渡すと、お礼を言って受け取る。


「私に黒兎の声は効かないから、遠慮しないでね」


 その際、お願いも忘れない。


 黒兎は声の事で色々あったから、滅多な事では声を出さなくなっちゃってる。

 前に怖いって言ってたけど、今では筆談で慣れちゃったのかも。

 無理強いはしたくないから、あくまでお願いだけどね。


「……大丈夫。姫様と話すのは好きだ」


「うん。ありがと」


 黒兎と出会って4年。白兎と同じく随分慣れてくれた感じ。

 

 ・・・・・って、白兎の行方を聞いたのに脱線しちゃった。

 でも答えなさそうだよね。


 どうしようかと頭を悩ませたけど、ちょっとセコイ聞き方をする事に決めた。


「白兎は、今この国にいる?」


 それに対しては、頷く黒兎。


「じゃぁ…シーファは自分の国にいる?」


「…………」


 無言。


 あぁ、いないんだね。


 私に嘘はつかない私の影たち。



 先日から感じてる嫌な予感と、白兎が言ってた言葉。



 そこから何となく。なんとなくね。ふと思っちゃった言葉を口にしてみた。




「ねぇ、黒兎。白兎が私の影武者をやっちゃったりしてないよね?」




 目を細めて、微笑まれた。


「流石は俺たちの姫様」


 言葉のおまけ付きで。




 何やっちゃってるのかな。

 怒らないけど、そんな面白い事は教えてよ。

 そんな批難めいた眼差しを向けてみたけど、黒兎はまったく効果がなく、寧ろ笑みを濃くされた。


「姫様。アレとは、会わなくていい」


「んー。壁に激突しそうになった事、怒ってる? それとも抱き上げられた事? 告白された事? 断ったら強く腕を回された事?」


「全部。姫様じゃなくて、アレに」


 あー。全部なんだ。そっか。



 相変わらず、私の影たちは過保護だと思いつつ、しょうがないからおとなしく黒兎の煎れてくれた紅茶で喉を潤す。


 苺の紅茶。

 甘酸っぱい感じが、好き。


「ねぇ、黒兎。黄兎と緑兎は?」


 一応確認の意味も込めて聞いてみた。


「陣を組んでる」




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



 それはちょっと、と、表情が強張る。

 あの2人の陣は、効果は様々あるけれど。

 小さな効果で良いなら一人の方が効率がいい。

 2人が陣を作成するっていうと、大掛かりなものが多いのよ。


 私が言うのもなんだけど、結構破壊的な陣も多くてね。

 それは私の得意とする攻撃系魔方陣の影響を受けたからなんだけど。


 強張った私の頬に、黒兎が優しく手をあてゆっくりと撫でる。


「姫様は、何も心配しなくていい。俺たちが、勝手にやってる。やりたいんだ」



 心配は別の意味の心配でね。


 行動を束縛するつもりもないんだけどさ。



「姫様がアレを好きなら、止めるけど。アレより俺たちの方が大事だったら、止めない。止めたくない」



 あ。


 と、声にならない声をあげた。


 こうなった黒兎は、止まらない。

 私が本当に止めない限り、止まる気は無い。




「怪我はさせないでね。精神的にも負わせちゃダメだからね。それを踏まえた上の程ほどだったら……いいよ」


 うん。勿論シーファより、皆の方が大事だよ。

 だから、皆もムリしちゃダメだよ、と言葉を紡いだけど。


 けどね。


 この段階になって、私は漸く白兎の思惑に気付いた。

 遅いって反省したくなったけど、まぁ、仕方ないかと切り替える。



 黒兎のこれに、私はある意味弱い。

 

 今回の場合、白兎の姫さん大好き攻撃や、黄兎の甘えん坊攻撃や、緑兎の引っ張り攻撃よりも、黒兎のコレの方が効果がある気がする。

 だって、言葉に詰まるもの。

 黒兎はそんな思惑なんかなくて、白兎のチョイスだというのは知ってるけど。


 やられた感じがする。



 そんな中、突然大きな音が鳴り響いた。


 耳がキーンとなる程の大きな、音。


 大きすぎて、それが声だとわかったのは耳の痛さが収まり始めた頃。







 俺は、レイフィニア・エレント・アニスメイル・キアレントゥライド・ファーサナリーを嫁にするっっ!!!

 惚れたから、結婚を申し込む!!!

 影武者なんかで、俺が諦めると思うなよっっっ!!!!!






「邪魔な、執念だな。白兎の影武者がばれるなんて」


 上の方で舌打ちが聞こえたけど、とりあえずそれはスルー。



 でもね。執念っていうのはちょっと同感。


 どうやったら私を知らない人間が、白兎の演技を見破れるのよ。



 始めっから私が表に出てた方が穏便に済んだのかな?なんて考えが過ぎるけど、即座に否定した。


 なんか、私が表に出ても穏便に済まない気がするし、尚更酷くなりそう。





「姫様。やって、いい?」




 黒兎の物騒な言葉。



「ダメ」



 あぁ。どうしよう。

 黒兎にストップをかけたけど……黒兎同様他の三人や兄様の表情を思い浮かべ、私の口からはただ、溜息が漏れる。



 どちらかというと、シーファよりもそっちの方が問題になりそう。


 

 眉間に皺を寄せ、私は改めて実感していた。



 あの宰相の血族は碌なのがいないと。



 心底思ってた。

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