茶会
オクタビアとミシェル、マリオとマリオの友人というフィオーレ王国から遊びに来ているニコラスと、茶会を催す事になりました。
ニコラスには、あらかじめ、ミシェルにフィオーレ語で話しかけるように頼んでありました。
「紹介するわ!私の学生時代の友人でニコラスよ。
ニコラス、こっちが私の従兄弟の嫁のオクタビアで、この子供がその嫁の弟が拾ってきたミシェルよ。」
「初めまして。本日はいらしていただいてとても嬉しく思いますわ。どうぞゆっくりなさっていってくださいね!」
「こちらこそお招きいただき、とても光栄です。ニコラスと申します。宜しくお願い致します。」
先ずはオクタビアがニコラスと挨拶を交わした。
『君は…フィオーレ王国に親戚とか居るのかな?』
『???私には身内は猫しか居ませんよ?
あ!失礼しました。ミシェルと申します…。』
突然親戚について聞かれたミシェルは、自己紹介もすっ飛ばして、返事をしてしまい、慌てて名乗ったのだが…挨拶も無くいきなり聞いたニコラスも、驚いて聞いたので、挨拶は忘れていたし、驚きのあまり、頼まれるまでもなくフィオーレ語で話しかけていた。
『君の髪の色はお母さん譲りなの?』
『いいえ、母は赤みが掛かった金髪でした。私の髪は父の髪の色と聞いています…。』
『君の父親については、何か知っているの?』
『…分かりません…。事情があって、一緒にはなれなかったと聞いています。
私の存在を、父は知らないし、知られると良くないから、探してはいけないし、見付からないようにしなさいって言われていました。
どっちにしても、後に母が結婚した養父が私の父です。義兄たちは…結局本当の兄弟にはなれなかったけど、養父は私を実の娘として可愛がってくれました。だから私の父は、あの人だけです。』
『そう…。ところで君は今、フィオーレ語で喋っているんだけど、気付いていた?』
『フィオーレ語って言うんですか?これは母と話すときだけ使っていた、秘密の言葉だって…お兄さんは何で話せるの???』
『そう…秘密の言葉か…そうだね、この国ではフィオーレ語を話せる人は、それほど多くは無いから、確かに君と君の母親だけの秘密の言葉になるね。
でもみんながこの言葉を話す国もあるんだよ。
だから君は、この言葉を話すときも、決して秘密だなんて思ってはいけないよ。
誰にも知られていないと思っていたら、秘密の話が周りに筒抜けなんて事もあるからね。』
『わかりました…。』
「さて!ここにいる他の皆は、フィオーレ語は得意じゃないから、この国の言葉に戻そうか?」
「はい。」
「ミシェル、ちょっとメアリーを呼んできて貰えるかしら?」
オクタビアに頼まれ、ミシェルは少し席を外すこととなった。
ミシェルの姿が見えなくなると、ニコラスが口を開いた。
「あの子、どこの子なの?凄いね!完璧な発音でフィオーレ語を話していたよ。
しかもあの髪の色、あれは我がフィオーレ国の王族の色だよ!」
「やはりそうなのね…。あの子の出自については、殆ど何も分からないの。
あの子が生まれた村で、調べている最中だけど、母親が何も語らずに亡くなったようなの。
もしかしたら養父が多少は知っていたかもしれないけど、その養父も事故で亡くなってしまっていて。」
「あの子にフィオーレ語でも親について聞いたけど、母親からは、事情があって一緒にはなれなかったと言っていたそうだよ。
しかも父親については、知られると彼女の身に危険が及ぶから、知られてはいけないし、探してもいけないと言われているって…。
ますます王族とか怪しいよね…。それで君たちはあの子をどうするつもりなの?」
「さて、どうしたものかな…。私としては、アンドレアが心配だから、エドワードへ返しちゃいなさいって思うけど?」
「そうね…あの子の存在は、とんでもないトラブルになる可能性も秘めているわね…。
私だけの話なら、一旦引き受けたものを、途中で投げ出すのはねって思うんだけど、アンドレアのこの家の事を考えるとね…。
本当に私、何でエドワードから無理やり奪ってきちゃったんだろ?」
「じゃあ折を見て、エドワードへ返すって事で良いんじゃない?」
マリオとオクタビアの中では、エドワードの元へ返す方向に動き始めていた。
「ねえ…だったら僕に頂戴!あの子はフィオーレ王国では、凄い駒になるよ!
調べないと、あの子の母親についてはまだ分からないけど、父親については絞り込めると思うんだよね。
王族であの瞳の色を持つ男は、そう大勢いるわけじゃないから!
その隠し子となると、フィオーレ王国の上位貴族だったら、皆、欲しがるよ!」
「はぁ~…それってあの子の意志とか完全無視になるし、それにイコール命の危険、まさしくあの子の母親が、だから父親を捜してはダメって言っていたそのものじゃないの!
悪いけど貴方に託すわけにはいかないわ。
そんな事をしたら、私が弟に殺されるわ!」
「え~!残念!うちに来れば、お姫様のような生活をさせてあげられるのに~。」
「あの子が戻ってきたわ!」
そんな話をしているうちに、ミシェルがメアリーを伴って戻ってきた。
「奥様、お呼びでしょうか?」
「ちょっと急ぎでエドワードを呼んで欲しいの。緊急事態だって言ってね!」
「承知いたしました。」
空気を読む女、メアリーは、ミシェルの事で緊急事態と理解し、すぐに馬を走らせた。
メアリーは実は単なる侍女ではなく、護衛等も出来る、騎士でもあるのだった。
「ミシェル、貴方はビルと遊んでらっしゃい。」
オクタビアはそういって、膝の上で丸くなっていたビルを、ミシェルへ預けた。
「んにゃぁ~ご~!」
「オクタビア…君の家では猫に洋服だけでなく、靴まで履かせるのかい?」
「これがまた良く似合うのよ!」
「…。」
皆の姿が見えない場所まで来ると、ビルはミシェルの腕の中から抜け出して、自分で歩き始めた…二本足で。
「ミシェル!ヤバいことになった!エドワードが来るまで様子を見るけど、いざという時にいつでも逃げられるように用意するぞ!」
「どういう事?!あのニコラスという男が、お前を狙う可能性がある!
あいつに捕まったら、お前は何も自由には出来なくなるし、下手したら、お前の意志とか関係なく、誰かと結婚させられるぞ!」
「え?!何で?私、まだ12歳だよ!!!」
「そんなの関係ないんだよ。お前の出自の問題だ!詳しい説明は後だ!とにかく急ぐぞ!」
ビルに急かされて、ミシェルは慌てて自分にあてがわれている部屋に飛び込んだ。
「これだけは絶対にって物は、いつでも持ち出せるように、必ず自分の身に着けておけ!
それからいつでも逃げ出せるように、逃げ出すとき用の服をドレスの下に身に着けておけ!
今後は着替える時は、侍女に頼らない事だな。
どうしても無理な場合にも備えて、身動きしやすい服は、すぐ取り出せる場所に隠しておけ!」
ビルはミシェルに指示しながら、自分はいざという時の逃走資金に出来そうなミシェルの宝飾品などを、ブーツの中に隠していった。
「うげぇ歩き辛いにゃ…。」
兎にも角にも、先ずは最低限の逃走準備を終えた一人と一匹でした。
「後はエドワードがこの邸に来るはずだから、それまでは部屋に身を潜めて様子見だにゃ。
特にニコラスには気を付けろよ…あいつは敵だくらいの認識でいておくにゃ!絶対にあいつが一人の時に近付いてはダメだにゃ!」
「わ、分かった…僕、出来るだけこの部屋に籠っているよ…でも出来るだけ一人にしないでよ…。」
心細くなったミシェルは、男の子言葉に戻ってしまいました。
「俺はちょっと様子を探って来るにゃ。誰か来ても、寝たふりをして、扉を開けるにゃよ!
特にニコラスが来たら、どこかに隠れるにゃ!」
「うん、わかった…。」
ミシェルは涙目になりながら、頷きました。
ビルはそっと部屋を抜け出し、どこかへ行ってしまいました。
こんにちは。恵葉と申します。
初めて書いたそこそこの長さの作品が、割と暗かったので、今度は楽しそうな作品を書いてみたいと挑戦中です。
一人でも面白いと思って読んでいただける方が居れば嬉しいです。