朝焼けや夕焼けのどっしりした雲
雲を見るのは好きです。
朝焼けや 夕焼けの雲が好きだ
とろろ昆布みたいに
ほろほろのやつじゃなくて
鯨や海竜 海大蛇みたいに
どっしりしたやつだ
どっしりしてるくせに
空を泳ぐように ぷっかり浮かんで
ここがおれさまたちの海だぞって
雄大なそのすがたを じっくりと のんびりと
ぼくたちに見せてくれるのがすごく好きなんだけど
そんな雲がいちばん好きなのときは
朝焼けや 夕焼けのとき
地平線から昇る太陽や 地平線に沈む太陽が
どっしりした雲のしたはんぶん
鯨や海竜 海大蛇の腹だけを赤く染めて
背は 夜の闇に呑まれた黒さを負う
そんなふうに腹と背を
赤と黒とに塗り分けられたどっしりとした雲の
鯨や海竜 海大蛇たちが
空を浮かぶように ぷっかり浮かんで
しばらくはそいつを じっくりと のんびりと
見ていられるこの時間がたまらなく好きだ
それでも
まだ もうすこし見ていたい気持ちのうちに
太陽は昇りきったり 沈みきったりしてしまって
鯨や海竜 海大蛇たちは
腹の赤さを失くしてしまう
名残惜しいといえば 名残惜しいけれど
だからこそ それでいいのかもしれない
背と腹を 赤と黒とに塗り分けられたあいつらを
じっくりと のんびりと見ていられるとはいえ
終わってみれば ほんの短い時間だけだ
どんなに望んでも 一日中ってわけにはいかないし
つぎの夕焼けや 朝焼けにだって
鯨や海竜 海大蛇みたいに
どっしりした雲が浮かんでいてくれるとも限らない
だからこそ それでいい
ぼくが朝焼けや 夕焼けに出逢うたび
きょうは そんな雲が浮かんでやしないか
たしかめることを忘れないでいられるから
ちゃんと朝焼けや 夕焼けの空を見あげることを
忘れないでいられるから
腹と背を 赤と黒とに塗り分けられた
鯨や海竜 海大蛇たちが
どっしりしてるくせに
空を泳ぐように ぷっかり浮かんでいる
あの光景に焦がれて ぼくは
朝焼けと 夕焼けの 一日に二度は
空を見あげることを忘れない
立体感のある雲が好き。