闇姫
辺境の開拓村は廃墟となり、ゴブリンに荒らされていた。
瓦礫があちこちに散乱しているし、いつ崩れるか分からない雨風を何とか防げる程度の家屋となっていた。
「先ずは片付けからかな? 瓦礫やゴミを村の中央の広場に集めてくれ、それから武器になりそうなモノも集めよう」
「ワフワフ」「ワンワン」「ガウガウ」「ワォンワォン」「バフバフ」
(((((了解だワン!)))))
レンの言葉にコボルト達が元気良く班ごとに片付けに行く。
次々と広場に集められる瓦礫、ゴミ、武器?
ナイフ、包丁、鎌、ハンマー、斧、鉈、三本鍬、4本鍬、大正鍬、スコップ、鉄梃など。農具、工具が幾種類も出てきた。
包丁も牛刀包丁、三徳包丁、出刃包丁、筋引包丁、柳刃包丁、菜切包丁、中華包丁など色々あり、種類も数も豊富だ。
(この先端が尖った包丁やナイフは槍の穂にすれば良さそうだな)
この日は遅くなったので、テントを出して村の中で野営をする事になった。
コボルト達はゴブリンの肉や謎肉、謎ホルモンでいつもの焼き肉パーティをしている。その横で人間達は車座になって自分達の食事をする。
「まだ片付けは続くと思うが、俺達は護衛だから、明日には引き上げるよ。レンはどうする? このままここに住むのか」
とフェルダーがレンに尋ねてきた。
「いずれは住もうと思ってるけど、家屋がこの状態ではこのまま住むのは難しいですね。かと言って大所帯になったので、この人数で街に戻る事も出来ないし………」
レンは楽しそうに、そして賑やかにしているコボルト達を眺める。
(新入りのコボルト達を置いて行く事も出来ないよなぁ)
「俺と数匹は街に戻って、大工を連れて来る事にします。他はここに残って片付けと防衛をさせますので、俺も明日一緒に街に戻ります」
「大工? 来てくれるのかな。お金をかなり積まないと無理じゃないか?」
「ちょっとした当てがあるから、それは大丈夫だと思いますよ」
「ふぅ〜ん」
「私もここに残っても良いわよ。その代わりコボルト達は私の言う事を聞くようにしてね。やれる事はやっておいてあげるわ」
レンはそう言うヘレナを訝しげに見る。
(何か企んでいるのか?)
「そんな目で見ないでよ。別にコボルト達に酷い事をしようとは思ってもいないわ。基本的に魔物に優しいのがテイマーなのよ。テイマーは魔物の研究家な──」
「ヘレナに残って貰うと安心だ。テイマーズギルドのサブギルドマスターでもあるし、ギルマスのプロフェッサーは魔物研究の第一人者だしね。魔物に無理はさせないよなぁ。そう言えばプロフェッサーの孫娘は『闇姫』と言われてた凄腕の冒険者だったんじゃないか」
フェルダーがヘレナの言葉を遮ってフォローするが、
「サブギルドマスター? 『闇姫」?」
レンは益々訝しむ。
「やぁねぇ、二人しかいないギルドだから、サブギルドマスターに受付、担当、……一人で何役もして、何でもやってたのよ。本当に大変だったんだからぁ。それと───」
「闇姫は?」
レンはヘレナの話が続くのを止めて、質問を挟む。
「そう呼ぶ人達がいるようね。自分で名乗った事はないわ。むかし、冒険者だった頃の二つ名よ。冒険者ギルドと揉めて冒険者は辞めたわ。冒険者ギルドの──」
「へぇ、二つ名があるぐらいだから、ヘレナって実は強いんだ?」
「強いのは従魔よ。冒険者ランクはBだったわ。私自身はそれ程でも──」
「プロフェッサーの孫娘でしょ。聞いたことがあるわ。『闇姫』って言ったらA寄りのBだったんじゃない?」
ダリアが口を挟む。
「へぇ、……そう言えばテイマーズギルドだから、見た事は無いけど従魔がいるんだね。まあ、自分から言い出すまでは聞かない事にしてたけど……、聞かない事にしてたからこれからもそうするよ。言いたくなったら教えて……」
(あ、ヤバい。ヘレナのマシンガントークが始まる予感がする)
「そ──」
「いや、待って! 戻って来たらゆっくり聞くよ」
レンは慌てて、何か言いかけたヘレナの言葉を止めると、『朝焼けの光』のみんなも頷いていた。
(『朝焼けの光』のみんなもヘレナの長話は辟易しているようだ)
嫌な事は先延ばしにするレンだった。
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