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妖精の揺籃歌  作者: しゅーり屋さん
第1章 おひさまいろのゼラニウム
7/8

6話 春眠のディスティニーモンスター①


 寿々葉は寝起きが悪い。


 それを自覚している本人から、モーニングコールを頼まれているのだけれど、今朝は五回くらい電話しても出ず、部屋から出たときに何度かノックして、それでも気づかないようだから授業に遅刻したくない私は諦めて寮を出た。


 そんな感じで時間を気にしながら現在私は、教室で前の席の子と話していた。


「へぇ、じゃあ初瀬さんも推薦で来たんだ」


「もってことは……」


「そうそう私も推薦なんだ。ちなみに、一番前のあの子と同じグループだった」


「あぁ、あの子」


 中学校のことや受験のことなどを話していると、チャイムが鳴った。と同時にドアが開いて、先生が入ってきた。


 かなり整った顔立ちをしている男の先生で、女子たちが色めき立つ。


 そういえば入学式は代理の先生が来ていたけれど、体調でも崩していたのだろうか。


「挨拶しましょう。起立」


 号令に合わせ「おはようございます」と挨拶をして座ると、ガタガタと私たちのクラス以外からも椅子を動かす音が聞こえてくる。


「入学式お疲れ様です。実家の方で色々あって、出席できず申し訳ないです」


 律儀に頭を下げた先生は教室内を見回して、


「あれ。あの席……夏越さんは遅刻かな?」


 空いたままの寿々葉の席を見つけて首を傾げた。


 たぶん、ホームルームが終わったら寮に電話をかけに行くのだろう。

 先生はなにか書いたあと、私たちに向き直った。


「初めまして。皆さんの担任になる安曇洋平(あずみようへい)です。漢字はこう書くんですけど、たいていは読んでもらえないですね」


 黒板にルビをふって書かれている漢字は、どうやったらアズミと読むのかわからない。

 私もあまり人のことは言えない名字だから、親近感のようなものが湧く。


「最近歳で顔と名前が一致しなかったり、間違えて覚えていたりするので、まずはそこから頑張りたいと思います。よろしくお願いします」


 先生はにこやかに挨拶を終え「それじゃあ」と手を打った。


「一時間目は、自己紹介して、配るもの配りましょうか」


 名前、好きな物二つ、一言、と黒板に書いてホームルームが終わる。


 その間に先生は一度いなくなり、チャイムが鳴る少し前にまた戻ってきた。

 そして、シンキングタイムを兼ねた十分休みが終わると、出席番号が早い順に言っていく。


 ちなみに私は、


「初瀬小福です。好きな物は漬物と巣蜜です。一年間よろしくお願いします」


 という可もなく不可もない至って普通の自己紹介をした。


 四十一人と人数が多いクラスなので、二時間目にはみ出てしまったけれど、おしゃれな趣味や好物、かっこいい特技を持っている子が多くて少し気後れしてしまう。

 同じ中学生だったとは思えないほど、大人びていてキラキラしている。


 漬物を言ったのは失敗だったかもしれない。


 そんなことを考えていると、ガラッとドアが開いて息を切らした寿々葉が入ってきた。


「す、ませ……く、した……」


 誰がどう見ても寮から全速力で走ってきたのだとわかる疲労困憊な姿に、先生は苦笑いしつつ着席を促した。


「授業の終わりに自己紹介をしてもらうので、考えていてください」


 そう言って、プリントや教科書、ワークなどを配り始める。

 それに名前を書いたり、中身を覗いたりする。

 教科書は国語や数学、科学など、魔法科の教科書ではなかったけれど、よくわからない単語がたくさん並んでいた。


 これから私がこの内容をやるのかと思うと、ついていけるか不安になる。

 取捨選択をちゃんとしないと、こんがらがってなにもかもが中途半端になってしまいそうだ。


 さっそく襲いかかってきた新生活への不安と恐怖で震えていた二時間目は、寿々葉の自己紹介と先生のエール、女子の小さな黄色い悲鳴で締めくくられた。

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