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妖精の揺籃歌  作者: しゅーり屋さん
第1章 おひさまいろのゼラニウム
6/8

5話 スノーフラワーシャワーの入学式

 

 二百人以上の生徒が集まる講堂。

 この中で、果たして何人が最初から最後までちゃんと話を聞いているのだろう。

 隣で幸せそうに口をむにゃむにゃさせる夏越寿々葉(なごしすずは)を見ながら、そんなことを考えた。


「……私が以前、メイジスの職員の方とお話した際、魔法についてこういった話を……」


 長い。

 とても長い校長先生の話は、同じような内容を繰り返しているようにしか聞こえない。


 この長い話が終わったあと、なにがあるのかとプログラムを思い出して、ため息を吐く。


 魔法科の学校というくらいだから、入学式ももっと派手なものかと思っていたのに、小学校や中学校とあまり変わらない。

 期待が大きかったぶん、残念感が強い。


 込み上げてきたあくびを抑えようと目を瞑った、その時だった。


 パァンッ!!


 と何かが破裂する音が頭上から聞こえてきた。


「え、え?花?」


 飛び起きた寿々葉が落ちてくるなにかを見上げながら言う。


 それを取ろうと両手で器を作って受け止めて、気づいた。

 花じゃない。これは……


『一年生諸君、入学式おめでとう!祝いの吹雪は気に入ってくれたかな?』


 雪。

 講堂の天井が開閉式だとかそんなことは無いのに、ひらひらと落ちてくるのは、ふわふわで真っ白な雪だった。


 ボイスチェンジャーを使ったような、どこか違和感のある機械音のような声とともに、拍手の音が講堂のスピーカーから聞こえてきた。


 彼、とも彼女とも言えないその声が、私にはこの状況を楽しんでいるように思えた。


「なにこれ。何が起こってるの?」


 戸惑う寿々葉に、私は首を振ることしか出来ない。


 そういう見せ物的ななにかだと思ったけれど、てんやわんやの先生たちを見ているとそうではないとわかる。


 どうすればいいのかと誰もが固まる中、


『長くて地味でつまらない入学式はここまで!これからは派手で楽しい時間を忘れるような式にしましょう!』


 声を合図にしたように強い風が吹く。


 雪が強い風に乗せられたせいで目を開けていられなくなる。

 ギュッと固く閉じた目を開けると───


「すっごーい!!」


 なんとそこには花畑が広がっていた。


「どう、なって……?」


 講堂中に植物が根を張っていて、まるで人間が絶滅したあとのような、緑に覆われた不思議な空間になっていた。

 花が咲いたり、蔓が伸びたり、無法地帯のようなファンタジックな光景に、呆然としつつも色々なリアクションが飛び交う。

 驚きで固まる人、友達の肩を揺する人、植物に触る人、講堂を見回す人……たくさんいるけれど、誰もが楽しげで、目をキラキラさせているのには変わりなかった。


「すごいすごい!フク!すごいよ!」


「……これも魔法?」


『そのとおり!これは魔法だよ!』


 ……びっ、くりした……

 まるで声が私の言葉に反応したように、言うものだから心臓がギュッと締め付けられた。


『魔法は自由だ!自由こそが魔法だ!魔法があれば、かつて夢みたあんなことや、こんなことも可能になる!』


 あんなこと、こんなこと。


 思い浮かべるのは人それぞれだろう。

 そんな夢を現実にするかのように、巻き起こった風は、花弁で様々な人の夢を描いていく。


 盗み見た寿々葉は頬を紅潮させ、テレビの中のヒーローやヒロインを見る子供のようにキラキラと瞳を輝かせ、はしゃいでいた。


『ようこそ、天路高校へ!不可能を可能にする魔法の世界へ!』

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