子供になって気づけた想い
冷たい
雨が
体が
視線が
態度が
別れた日も雨の日だった
我ながらバカなことをしたなと思う
彼氏と別れてやけくそになって
友だちからもらった怪しげな薬をなんのためらいもなく飲むなんて
そのせいで今、私は子供の見た目になっているのだから
「なにやってんだわたし」
舌っ足らずで、滑舌が悪い
視点もかなり低くなって
もともと着ていたはずの服は
もうトレーナーぐらいしか残っていない
他の服は慌てて路地裏に逃げるまでの間に落とした
家に帰ろうにも、この見た目では仕事もどうにもならない
小雀香弥
26歳 会社員
先日…と言っても一ヶ月前
彼氏との温度差に耐えられなくなって一方的に別れを告げてから
自堕落な生活を送り、それを見かねた友達がくれた謎の薬を飲んで
子供の姿になった
これが私の全てで今の現状
早朝の今、子供の姿で雨に濡れながら歩くには目立ちすぎる
まぁ、昼間でも大問題だけど
しかもスマホ何処かに落としたし
連絡の手段もなにもない
助けを求める宛もない
警察に体が子供になったって言っても信じてもらえるわけがないし
傍から見たら大人の服を着て逃げ惑う可愛そうな幼女に見えるだけ
しかも体冷えてきたし
寒い
あーもう、いっそこのまま死んでやろうかな
すべてを諦めるつもりで
体育座りから横になる
アスファルトが背中に刺さっていたい
けど、それさえも無視して目を閉じる
自分から振って彼氏と別れたくせに
それを気に病んで自殺した26歳OL
なんとも馬鹿らしい
けど、後悔してヤケを起こすぐらいだから私にはそれぐらいが丁度いいのかもしれない
いや、子供の姿のまま死んだら死体も子供か?
それなら戸籍不明の子供として死ぬのか
なんか、難事件と言うか
厄介な死人になってしまうとか申し訳ないけどもういいや
「ねぇちびっこ…生きてる?」
死ぬ前の幻聴か?いや、違うな
男の声が聞こえる
生きてるかどうかなんて自分で確認しろ
誰だか知らないけど
突然、雨が止む
否、男が私に傘を差し出す
何をされようとここから動かないからな私は
「このままだと君死ぬよ」
「………」
「親は?」
「………」
「家は?」
「………」
「とりあえず、目を開けてこっち見ようか」
お節介な男に強制的に体を起こされる
ここまでされれば顔を見て文句の一つでもいいたくなる
雨に濡れて重たい頭を動かして男を見る
「え……」
「どうしたちびっこ」
「あ、や…」
「てか、喋れたんだ…意思の疎通ができるならいいか」
驚いている私をよそに
勝手に渡しを抱き上げる男
否、元カレ
「あー、突然知らない男に抱っこされたら怖いか
俺、塩原元也
お前は?」
変な薬を飲んで子供になって
死のうかなとか思いながら雨に打たれていたら
私は元カレに拾われることになったらしい。