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秘密

 商店街の中では新しい部類に入るカフェ『ラ・ステラ』。

 駅の改札を出るとすぐに目に入ってくるという立地と、オープンテラスもあるオシャレな外観から近隣の大学に通う学生や、若い主婦層から人気を集める商店街でも人が呼べる店だ。


「なあ、何かおかしくないか?」


 制服姿の美少女に囲まれながらのティータイム。羨む人間もいるだろうが実情は無情である。


「ん? 何が?」


 季節のフルーツをたっぷり使った贅沢ミックスパフェを頬張りながら、不思議そうに小首を傾げる舞華。


「あははは。ごちで〜す」


 ストローで氷をかき混ぜながら満足そうにアイスオレを飲む響。


「和志さんとご一緒できて嬉しいです」


 両手でカップを握りしめながら熱視線を送ってくる奏ちゃん。


 確かに美少女とのティータイムに不満があるわけじゃないけど……。


「舞華。しれっと俺の前にレシート置くのやめなさい。一応だけど俺、ナンパから助けてあげた恩人だよな?」


「うん。お礼は私たちとの幸せなひととき。支払いは年長者の役割? 男の甲斐性? お兄ちゃんの優しさ?」


 さも当然と言わんばかりに満面の笑みを浮かべる我がいもうと。

 ここに連行された時点で払うつもりではいたけど、なぜか釈然としない。


「私たちの分はちゃんと払うから心配しないでよ」


「いや、俺が払うから大丈夫。それにしても響も奏ちゃんも随分とキレイになったな。さては彼氏でもできたな?」


 恋をすると女はキレイになる。これほどの美少女だ。彼氏の1人や2人いてもおかしくはない。

 目の前に座る奏ちゃんはニッコリと微笑む。


「お付き合いはしていませんが、大好きな方はいますよ。ね、和志さん?」


 その隣の響は斜め上を見ながら「う〜ん?」と唸っている。


「恋ねぇ? う〜ん? どうなんだろうねぇ? あっ、彼氏はいないよ?」


 にぱっと笑う響は俺の記憶にある小さな頃と同じ笑顔で、安心する。


「そういうカズ兄は彼女いないの?」


 悲しいかな年齢=彼女いない歴と言うやつだ。


「お兄ちゃん、まさかっ!」


「いないって。もしできたら舞華にもちゃんと報告するから」


「聞きたくない!」


 両手で耳を押さえながら「あ〜、あ〜」と言い出した舞華。いないって言ってるんだからちゃんと聞けよ。


「それはいいことを聞きました。和志さん、不束者ですがよろしくお願いしますね」


 俺は何をお願いされているのだろう? 目の前でキレイなお辞儀をする奏ちゃんに、舞華が「不束者はいりません!」と突っ込んだ。


「相変わらず仲良いな。ところで2人とも学校帰りだろ? この後、時間大丈夫だったのか?」


「ちょっとお兄ちゃん? ナチュラルに私をハブかないでよ!」


  最近、ちょっと帰りが遅くなってきた舞華だが、理由を教えてくれないので響と奏ちゃんから情報を得られればラッキーだ。


「あっ! そろそろヤバいかもね。ごめんねカズ兄。私たちこの後ダン———」

「あっ、あ〜! そうだね、早くしないと売り切れちゃうね! ほらほらっ! 響ちゃんも奏ちゃんも行くよ!」


 ぎくりとした表情を浮かべた舞華は、響の言葉を遮るようにし、半ば強引に店を出て行った。


「な、なんだ? 何か怪しいことしてるわけじゃないよな?」


 1人店内に残された俺は釈然としない気持ちのままコーヒーを飲み干した。


♢♢♢♢♢


「はあはあ、ちょっちょっと舞華、当然どうしたのよ?」

 

 響ちゃんと奏ちゃんを無理矢理お店から連れ出すことに成功した私は、バチんと両手を合わせて2人にお願いをした。


「ごめん! ()()()()はまだ内緒にしておいてくれないかな?」


「えっ? 内緒ってカズ兄気づいてないの?」


「そうよ。私たちはまだしも舞華ちゃんだって一緒に挨拶したよね?」


 初めて人前でパフォーマンスしたあの日、ステージ袖にいたお兄ちゃんを見て『ひぇ〜』っと思った。

 内緒にしておこうと思っていたアイドル活動、その初日にバレるという運のなさ。

 でも、そんな私の運のなさ以上にお兄ちゃんは残念な人だった。


「カラコンとウィッグだけでも、お兄ちゃんには十分だったみたい。10年も一緒に暮らしてるのにねっ!」


 結果オーライだったのかもしれないけど、気づいてもらえないのもどうなのよ!


「あ〜、さすがカズ兄。その辺の残念さはパワーアップしてるわけだ」


「ふふふ。お兄ちゃん大好きな舞華ちゃんが黙ってアイドルやってるなんて思ってもないでしょうからね」


 響ちゃんも奏ちゃんも納得。お兄ちゃんはそういう人なのだ。


「ママにはお兄ちゃんが自分で気づくまで黙っててねってお願いしてるの。だから2人も!」


 バチんと両手を合わせて再度お願い。


 お兄ちゃんとの思い出の詰まった商店街のためとはいえ人前で歌ったり踊ったりするのはまだ恥ずかしい。

 お兄ちゃんが自分で気づいてしまうか、私が自信を持って見てもらえるようになるまではバレたくないのだ。


「ま〜、舞華がそう言うならしょうがないっか。OK〜、それでいいよ」


「そうね。和志さんが私たちの活動を目にする機会があるかわからないけど、私から話すことはしないわ」


「2人ともありがとう〜」


 さすがは親友。話がわかる!


「貸しひとつだからね?」


「えっ?」


「そうね。今度の日曜日あたりにみんなでランチにでも行きましょうか?」


「ええ〜! ちょっと〜」


 意地悪く笑う2人だけど、約束は大丈夫! だよね?


「あ〜あ。カズ兄の応援があれば百人力なんだけどなぁ」


 そう言いながら私の右肩をポンと叩く響ちゃん。


「そうね。和志さんが見守ってくれるのなら24時間でも活動できそうね」


 そう言いながら私の左肩をポンと叩く奏ちゃん。


「18歳未満だから22時から5時までは働けないけどね。仕方ないな〜、日曜日のレッスンの後にパスタランチでも行きますか?」


 項垂れながら提案する私を見た左右の親友は同時に笑い出した。

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