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小夜子の新衣装とトーナメント

 時は穏やかに過ぎた。

 新衣装はオタ丸の協力もあって、大正時代風、長袖ロング丈チャイナドレス、異世界魔法使い風、まで候補を絞った結果、チャイナ服に決定した。


 裾が足首まである昭和初期の上海で暗躍したスパイ感があるデザインである。

 小夜子とギャル谷はオタ丸の才能に感心するばかり。

 数日で服飾関係の知識を仕入れて、ギャル谷と小夜子の意見を取り入れてさらさらとデザインまでするという多才ぶりを発揮した。


 本日は学校が終わった後に、駅前のミスドに小夜子、ギャル谷、オタ丸の三人で集まっている。


「いやはや、テスト前にここまで仕上げてくれたこと礼を言うぞ。オタ丸くん、わらわは感謝しておる。ありがとう」


 小夜子はデザイン画を前にぺこりと頭を下げる。


「いいよいいよ。僕も楽しかったし、服装のことも詳しくなれたから」


 頭を下げることではないと言うオタ丸。


「オタ丸よ、それはいかんぞ。お礼は受け取るのも礼儀の内じゃ。じゃからの、大げさなものではないがミスド食べ放題じゃ。この程度の礼はさせておくれ」


 小夜子の言葉にギャル谷もうなずいて口を開く。


「そうだよ、オタ丸っちはこんだけしてくれたんだし。どういたしまして、でいいんだからさ。ほら、ポンデリング食べて」


 ミスドといえばポンデリング。もちもち天上の美味。カロリーの悪魔でもある。


「そうだね。間宮さん、どういたしまして。それから僕からも、色々珍しいこともできたし、ありがとう。ポンデリング、いただくよ」


 オタ丸とも打ち解けて、最初のころにあった緊張は無い。


「うむそれでよいぞ。それから、なんでギャル谷が仕切るんじゃ」


「サヨちゃんが説教臭いからだって。でもねえ、これマジでいい感じだし。サヨちゃんには似合わないかもしれないけど」


「何を言うておる! こんなにイラストは可愛いではないか。さすがはわらわじゃ」


 オタ丸の描いたイラストはモノクロ完成稿が二枚だ。

 いつものド下品和装とチャイナドレスのイラストを、それぞれ漫画風に描いている。イラストのタイプとしては、目をそこまで大きく描かない青年漫画風だ。


「チャイナは緑から黒の色調で生地をイメージしてるよ。赤は派手すぎると思う」


 話が変な方向に行く前に、すかさずオタ丸が軌道修正する。


「ほう、その辺りはスタイリストと共に決めるつもりじゃったが、参考にするよ。早速、これを元にオーダーするつもりじゃ」


「えっ、そ、そうなんだ。流石は間宮さんだね」


「ほほほ、褒めてもポンデリングくらいしか出ぬぞ」


 上機嫌で小夜子はポンデリングに噛り付く。このポンデリングのコブを一つずつ齧るのが良い。二つ同時はなんか違う。


 オタ丸はブラックコーヒーを啜りながら、男らしく個数を気にせずかじりつく。そんな様子をギャル谷がじっと見つめていた。


「オタ丸さぁ、なーんかここ数日で違ってんだけど」


「別に何も変わったことはないけど」


 ほんの少しだが、丸眼鏡の奥でオタ丸の目が泳いだ。


「急に女慣れするとかって、普通はありえないよねェ。これは、アレじゃない。実は、女が出来たなぁ?」


「ほう。わらわもそれは気になるところじゃな」


 傍から見れば楽しそうな絵面だが、男にとっては居心地が悪すぎてたまらないシチュエーションである。

 ここに若松がいればまだしも、今は買い物や雑事を済ませに席を外していた。


「……中学の時に付き合ってた人がいて、最近こっちに戻ってきたから、また付き合うことになったんだ」


「おおおお」


「ほうほうほう」


 小夜子とギャル谷が拍手をする。


「オタ丸はなかなかやる男じゃと思っておったわ。よかったのう」


「え、どんなコなの。なになに、そんなことが間近で起きてたとかマジで!」


「新学期から転校してくるから、もうすぐ会えるよ。その時にちゃんと紹介する」


 堂々と言うオタ丸に、ここまで変わるのかと小夜子とギャル谷はそろって感心した。


「ほほほ、これはめでたきことじゃ。ギャル谷よ、祝いのテイクアウトを用意せい」


「まかしといて!」


「そんなドーナツたくさん食べれないって」


「遠慮はナシじゃ。ギャル谷よ、ポンデリングを限界まで詰めるんじゃ」


「よしきた!」


 大盛り上がりとなり、ミスドでの宴はつつがなくお開きとなった。




 時間は過ぎて、学年末テストが終わる。

 ギャル谷とオタ丸は遊んでいたにも関わらず成績に自信があって、小夜子は手加減しないため全て満点だ。

 テスト結果が張り出される前に、トーナメント戦がある。




 長袖ロング丈チャイナ服のオーダーは大金を積んで前日に間に合った。花柄は彼岸花デザインで、髑髏の刺繍も入れてある。結局、生地は黒色になった。

 大事な晴れ舞台の前日。袖を通してみると、思ったよりコスプレ感が強い。

 

「若松よ、どうじゃ?」


「……お似合いです」


「その間はなんじゃ?」


 若松は意を決して口を開く。


「若干のコスプレ感が漂っております。お似合いではあるのですが、もう少し着慣れてからの方が良いのでは?」


「むむむ、わらわも少しそう思うた。よし、写真を撮ってギャル谷と聖蓮尼に意見を聞こう。どれ、ポーズはこれでよいか」


 斜め45度でポーズをとった小夜子を、若松が撮影してすぐさま画像を送信する。

 幸いなことに、二人からはすぐに返信が来た。


 まずはギャル谷からだ。


【カワイイ!? 強キャラ感は薄れたけど、アル付きで喋ったらもっとカワイイ!!】


「うむ、やはりギャル谷は分かっておるな。今回は可憐さを前に出しておる」


 聖蓮尼からも返信が来る。


【いいと思います。明日のトーナメントは私も見にいきますので楽しみにしております。それと、蜘蛛とは仲良くしています。貸し借りナシということで】


 小夜子はにっこりした。


「なかなか好評じゃな。コスプレ感は明日の道中に着慣れておけばとれるじゃろ」


「お嬢様、正直に申し上げます。お似合いなのですが、その、イメージ的には圧倒的に和装が強いです」


「んんん、さっき撮った写真を拡大して見せてたもれ」


 スマートフォンを操作してもらって確認すると、やはり可憐であった。

 非の打ち所が無いと、小夜子は内心で自画自賛する。だが、若干の着慣れない感があるのも事実。


「……若松よ、わらわはこれで行く。着慣れるのは明日の道中でなんとかしようぞ」


「承知しました。お嬢様の晴れ姿として、この若松めもたくさん撮らせて頂きます。ヤマダ電機で撮影機器も買い揃えておりますので」


 このために、若松は先日のミスドには不参加であった。数日のテスト撮影でだいたいの操作方法は頭に叩き込んでいる。


「うむ、明日はよろしく頼むぞ」


 気合十分で挑んでいる小夜子と若松だが、彼らのことを知らない者からすれば、悪ふざけのようにも見えていたかもしれない。




 翌日、早朝から若松のバイクで一路、東京は足立区へ。

 足立区某所に、退魔師専門学校はある。

 認識を阻害する呪法により、そこはなんとなく生徒数の少ない学校として周囲には違和感を抱かせないよう認識させているが、その実態は関東全域から退魔師のことを知る関係者たちが通う高校であった。


 小夜子と若松が駐車場にバイクを置いて体育館へ向かうと、すでに関係者のほとんどが揃っているようだった。


「関東の退魔師たちが勢ぞろいじゃな」


 会合で見た顔から、見知らぬ者たち。それぞれがどこかの家の縁者や、このトーナメントを運営する者たちだろう。


「お嬢様、すでに注目されておりますよ」


 間宮小夜子という名前は知れ渡っている。だからだろうか、様々な視線が突き刺さる。これはこれで心地よいもの。


「間宮殿、おはようございます。今日の装いは華やかですね」


 声をかけてきたのは道反(ちがえし)竹一郎である。隣に可愛らしい花柄ワンピースを着た年若い女性を連れている。


「道反殿、今日はわらわも晴れ舞台のために衣装を新調したのじゃ。なかなかよいであろう」


「ええ、印象が変わりますね。よくお似合いです。ああ、こちらは妻の綾子です」


 ふんわりしたカワイイ印象の、どうみても二十代前半の女性だ。なかなかの美女である。


「はじめまして、竹一郎の妻! 綾子です」


 妻! と強調して綾子は自慢げに挨拶をする。なるほど、これが噂の、と思う小夜子であった。


「はじめまして綾子殿。なんともお若い。誠士くんのお姉さんかと思うたわ」


「もう、上手なんだから。先日は竹一郎さんと誠士を助けてくれたって聞いてるわ。ありがとうね」


 竹一郎に腕を絡めて言う綾子の目には、警戒の色がある。

 魔人に対しての警戒ではなく、夫に近づくなという意味合いであると一目で知れるほど露骨なものだ。


「ほほほ、聖蓮尼に頼られたからのう。わらわにも都合が良かったしの。綾子殿、安心してたもれ。道反殿を取ろうなど、わらわは微塵も思うておらぬ」


 竹一郎の鬼の面相が引き攣る。


「ほんとう?」


 童女のように問うた綾子だが、目尻の奥にあるのは女そのもの。


「本当じゃ。わらわ、竹一郎殿は全くタイプではない。良き男とは思うが、恋愛になることは絶対に無い」


 力強い断言である。

 若松が額に手を当てて、言葉にならない呻きを漏らす。


「うん、信じる! 小夜子ちゃんって良い子ね! 誠士と付き合ってもよかったのに」


「ほほほ、先に相手がおったしの。そういうことにはならん間柄じゃっただけのことよ」


「まあ、女の子は恋しなくちゃダメよ。わたしが竹一郎さんと出会ったのはねえ」


 女同士のおしゃべりが始まり、竹一郎と若松は顔を見合わせた。


「綾子と初対面であんなに話せるとは、流石は間宮殿」


 竹一郎の感嘆の声に、若松も口を開いた。


「情熱的な奥様ですね」


「そこは気を遣わんでいいよ、若松くん」


 男というものは、女に蚊帳の外にされることがあるものだ。そして、間柄はどうあれ苦労させられることもある。


 道反家は間宮小夜子と友好関係にある。それをアピールするのに、これは充分な光景であった。


 そのように話していると、そろそろ席につくようアナウンスが流れる。

 ガールズトークが中断されて、小夜子も指定された席についた。

 パイプ椅子が並んでおり、学校行事という雰囲気だ。


『えー、マイクテストマイクテスト』


 壇上に立ったのは聖蓮尼である。


『恒例の若手退魔師交流戦にお集まりいただき、皆さんありがとうございます。この挨拶も聞き飽きておりますでしょうから、割愛(かつあい)させて頂きます』


 聖蓮尼の言葉に、会場から笑い声が漏れる。


『今年の世代は、天才と呼ばれる若手が揃っておりまして、皆さんの期待と注目も高いものとなっております。ただ、毎回のことですが退魔十家の嫡子たちで枠が埋まっております。そのため、今年は返矢左京組合長の提案で、特別参加枠を設けました。活躍がめざましい間宮小夜子殿が参加されます』


 なんとも言えないどよめきが広がる。静まった後、聖蓮尼が言葉を続けた。


『あえて申し上げます。お遊戯会のような体たらく、この聖蓮尼が許しません。選手の皆さんは、家の権威など気にせず存分にその腕を振るって下さい。この聖蓮尼からのお願いです。では、これにて挨拶は終わりとします』


 ざわざわとどよめきが広がる中、マイクを切る音がいやに大きく響いた。


「ふふ、なかなかの役者じゃの」


 小夜子がひとりごちる。

 返矢左京があえて聖蓮尼に言わせたのだろう。親世代でも頭が上がらない聖蓮尼であれば、家の権威は使えない。


 なかなか面白くなりそうじゃ、と小夜子は思う。同じく選手にも、そう思う者はいるだろう。

 退魔師同士の魔戦が、静かに幕を開ける。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 服というのが気になりますね。日本神話最強タッグの経津主神と武甕槌命が服従できなかった天津甕星を懐柔したのは、機織りの神である建葉槌命でした。
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