一月八日
「あ、あのさ。弁当、作って来たんだけど」
さっきまで何気なく一緒に談笑をしていた彼女が急にそっぽを向いて、小声で言う。
「ほんとう?すごくうれしいよ」
「……じゃあ、お昼にしよっか」
そう言って手を引かれる。空いたベンチを見つけて座るまでの間、僕の頭の中は、どんな弁当なのだろうかと、そのことでいっぱいだった。
だがベンチに腰を下ろしてすぐ、彼女が大きめの手提げバックから取り出したのは、シャカシャカと騒がしく鳴るビニール袋に入ったコンビニ弁当だった。彼女はそれをクシャっと僕の膝の上に置くと、僕の顔を見て笑顔で
「召し上がれ♪」
と言ってくる。状況を呑み込めない僕の視線は、彼女の顔と弁当の間をきっかり三回行き来する。だけど、彼女は依然としてこちらに笑顔を向けているので、とりあえずビニール袋から取り出してみると、それはやはりやたらきれいな卵焼きの入ったコンビニ弁当で、しかもよくみると半額シールの横の消費期限は昨日の夜十時。弁当を取り出すときに手にひっかかった何かをつかみ出すと、割りばし、それと何故か二枚のお手拭きが出てきた。
ようやく現状をつかんだ僕の頭は、必死に記憶をたどり始める。どこかで怒らせてしまったのだと。わなわなと震える手から落ちたビニール袋が地面にあたってクシャっと音を立てると同時、彼女がぷっ、と笑いをこぼす。
「ほんと、いじりがいのあるひと」
耐えられないといった風におなかを抱えて笑う彼女に、僕はまたか、と苦笑いを返す。
「だって毎回固まっちゃうの、とってもおもしろいから」
「懲りないなぁ……」
ごめんなさい、とまだ小さく笑いながら彼女はバックに手を入れる。コンビニ弁当と入れ違いで、ぽんっと僕の膝の上に置かれたそれは、ピンク色の布に包まれた、いかにもな手作り弁当だった。
「今度こそほんとに召し上がれ」
と目をそらして言ってくる。
「いただきます」
と彼女の横顔を見て言う。早く早く、とせかされて弁当を開けると、焼け目のまばらで、少し不格好な卵焼きが入っている。箸で半分に切って口に運ぶ。ふと隣を見ると、彼女がさっきの消費期限切れのコンビニ弁当をつついている。
「そんなの食べたらおなか壊すよ」
そう言って弁当箱を差し出すが、押し返される。
「いいのいいの、食べてもらうために作ったんだから」
そう言った彼女の目は、やっぱり僕と合わなかった。