狐の怨返し
狐の怨返し
江戸時代中期、武蔵の国に太吉という猟師が住んでおった。彼は狩猟をするのに猟銃も使えば猟犬も使えばトラバサミも使うのじゃった。
或る日、太吉が龍崖山の麓で猟をしておると、牝の白狐が太吉の仕掛けたトラバサミに掛かってしもうた。
牝狐は太吉や猟犬に見つかる前に逃れようと金属板に挟まった前足を必死に引き抜こうとするのじゃが、痛さが増すだけで、にっちもさっちもいかん。
逃げなければ殺されるのが必至じゃから白狐は焦りに焦った末、もうこうなったらと思って挟まった前足を潔く噛みちぎってしもうた。そして遠くの方で猟をする太吉の様子を然も恨めしそうに眺めた後、びっこを引きながら逃げて行くのじゃった。
それから何日か経った或る日の晩、太吉は居酒屋で飲んだ帰り道、柳の陰で客待ちする夜鷹に出くわした。
彼女は月明かりに照らされた肌が白粉を塗っている訳でもないのに透き通りように白くて男の誰もが上玉と認めるであろう遊女じゃったから太吉はこれは買いだと思って彼女とまぐわることにした。
すると、私は宿なしの夜鷹、さあ、坊や、ついてらっしゃいと夜鷹は婀娜っぽく言って人気のない野原まで太吉を連れて行った。
太吉は夜鷹に魅了された儘、ほろ酔い気分も相俟って夢心地で付いて行った。
夜鷹は大きな枝垂桜の根元までやって来ると、俄かに妖艶に顔を綻ばせ、にやっとして言った。
「ねえ、お兄さん、私は前戯としていつも尺八をすることにしてるの。そうしないと、ほとが濡れて来なくて私が気持ちよくなんないのよ」
「ああ、そうかい、よし、分かった、実は俺から頼みたいくらいだったんだ」
太吉はそう言うと、着物の帯を解いて褌を何のためらいもなく脱ぎ捨てた。
その途端、ふふふと夜鷹は不気味に笑ったかと思うと、いきなり太吉の一物を口に含んで無残にもがぶりと食いちぎってしもうた。
その瞬間、「ぎえ~!!」と太吉は凄まじい悲鳴を上げると共に一物の切れた動脈から大量の血を消防車の放水のように勢いよく噴き出して時を移さず腰砕けになって下草の上に強か尻餅をついた。
その返り血を夜鷹はもろに浴びて点々と滴り落ちる程におどろおどろしく真っ赤に染めた顔を狂喜の色で猶一層おどろおどろしく染めながら口元をもぐもぐさせ、太吉の一物を見るからにおいしそうに食い尽くすと、立ち上がって着物の片袖をまくって隻腕であることを示してから、くるっと宙返りするや姿を白狐に変化させ着地した。
この鬼哭啾啾たる食いっぷりと変化を目の当たりにする間、こいつは魔界に潜むちんちん食い食い妖怪だ!と思った太吉は、荒肝を拉がれ、痛みも忘れて只々震え上がっておった。
その気色に白狐は嬉々として、「ほっほっほっほ!私はお前の罠に掛かって足を失った狐だったのさ。まんまと色仕掛けに引っ掛かりやがって!ほっほっほ!お前の一物は殊の外、美味しかったよ、だから出来ればお前を食い殺してやりたいところだが、ま、精々痛みを味わうがいい!」と言うが早いか、3本足でも慣れたもので森の方へ向かって敏捷に駆けて行った。
残された太吉は、痛みよりも何よりも、もう、俺は女と寝れない!もう、俺は結婚できない!もう、俺は絶望だ!と痛感して一晩中、地獄の闇の底まで届きそうな泣き声を上げて嘆き続けるのじゃった。