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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十節 「誓いの門出 龍よ舞い上がれ 歌姫を胸に抱きて」
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~代風 志受け継ぐ新組織~

 福留や仲間達の期待の下、遂に勇がリーダーとして名乗りを上げた。


 しかし、福留が呼び込む風は一つに限らない。

 まさに彼そのものが嵐であるが如く、勇達の心に幾つもの波を荒立てる様であった。


 もはや何一つ疎いは無い。

 伝えたい心の内を全て伝え、勇を筆頭に上げる事が出来た。


 それらの鍵が揃った時、遂に福留の真の計画が明らかとなる。




「さて、それでは今後の計画についてお話しましょうか」


 途端、プロジェクターから映し出された画像が途切れ、部屋が一瞬暗闇に包まれる。

 間も無く明かりが灯り……全員の顔がハッキリする程に周囲が明るく照らされた。


 福留が向けるのは再びの真剣な面持ち。

 勇達もそれに追従するかの様に、表情を崩す事無く福留へと視線を向け続けた。




「まずは一つ目、単刀直入に言わせて頂きますと……今日を以って魔特隊を解散いたします」




 その時、思わず場が「えッ!?」という驚きの声に包まれた。

 無理も無い……今まで所属してきた、愛着もある魔特隊が解散するとなれば。


 だがそんな彼等の反応を見越していたかの様に福留がその手を翳す。

 注目を浴びていたが故に視線はその手へと集まり、勇達の動揺の声を途端に途切れさせた。


「驚くのも無理は無いでしょう。 しかし、これはとても大事な事です。 ……確かに魔特隊は以前から魔者問題の解決に従事し、各国での評価を得ておりました。 ですが今となってはもう、その評判は地に堕ちたと言っても過言ではありません」


 それは小嶋政権時代からの負の遺産。

 魔特隊……主に三~六番隊の活躍はまるで【救世同盟】の所業の如く凄惨なものであったという。

 制圧という名の、派遣された現場に居る者達全員の殺害。

 魔者、人間に関わらず、圧倒的な武力による一方的な虐殺。

 その場に従事した事のあるディックならよく知っている事であろう。

 それ故に、ミシェルが言った通り……魔特隊はもはや【救世同盟】にも足る悪名高い組織の名へと変わり果てていたのである。


「一度付いた汚名を晴らす事はとても難しいでしょう。 魔特隊という名はもう取り返しのつかない程までに汚れたと言ってもいい。 だから私は魔特隊を解散する事を決めたのです。 幸い、皆さん一番・二番隊に対してだけは未だ理解ある国々からの支持がありますからね、立て直しは比較的容易と言えます」


 誰しもが団体を個として見ている訳ではない様だ。

 きちんと茶奈達個人の活躍を評価し、過去の分も交えて正しい行いをしてきた事がここでようやく報われたという訳である。

 日頃の行いが実を結んだ結果と言えるだろう。


「よって……皆さんの志を受け継ぎし新団体が近々発足する事になります。 この件に関しては日本政府や国連のトップとも既に話を付けております。 今後は日本所属では無く、無所属の団体として世界を()()()()()つもりなので」


「動き……続ける?」


 その言葉を前に、再び勇達の動揺が広がる。


 今まで本部を拠点としていたのは、勇達の家がこの街にあるからだ。

 故に、動き続けるという事がどういう事なのかいまいち理解出来ず……不安が過り、動揺となったのである。


 しかしその不安は一瞬にして払拭される事となる。


「ええ、動き続けます。 実はですね、現在空島が日本へ向けてゆっくりと航行中なのですよ」


「あっ……!」


 その時、全てを理解した勇達が揃って声を上げる。

 その反応をまるで待っていたかの様に……福留がニッコリとした笑顔を向けた。


「そうです。 今後新団体は空島を拠点として世界各地を転々とする予定なのです。 もちろん、国連の協力の下にね?」


 これが福留の想定していた計画の一つだった。


 空島は言うなれば、それ単体で居住可能な航行装置。

 乗り越える事こそ可能であるものの周囲を覆い防ぐ嵐もある。

 そこに居れば例え【救世同盟】であろうと容易に手出しは出来ないだろう。


「そこに関係者のみならず、親族や友人などを集めて一時的に住まわせ、安全を確保します。 こうする事で人質などに取られるリスクも減り、皆さんの行動の制約が減るという訳です。 あちらには既にそういった設備を整えておりますので、生活には何の支障も無いでしょう」


 【救世同盟】がどこに潜んでいるかもわからない現状であろうと、身柄そのものを空に上げてしまえば誰も手出しは出来ない……という訳である。

 空島という物があるからこその大胆な計画を前に、勇達の口が塞がらない。


「もうご存知かもしれませんが……空島の整備を行ったのは当然―――」

「カプロか……!!」

「―――ええ、察しの通りです」


 途端、抑えられていた感情が噴き出すかの様に、部屋の中に歓喜の声が響き渡る。

 カプロの様子がおかしかった理由がようやくわかったのだから。


「だからアイツ……あんなだんまりだったのかァ!!」


「全部この事を考えての行動だったんですね……」


「アイツは嘘を付けないからな、そう自身で察して敢えて口を紡いでいたのだろうな」


 計画は既に一年以上も前から進んでいたという事だ。

 そもそも、そうしなければならない程、【救世同盟】の魔手が目立つほどに広がっていたのだろう。


「ご静粛に……という訳で、あと丸二日ほど時間を掛けて日本へ到達予定ですから、それまでは日本で待機となります。 新団体やその後の活動に関しては、空島に移動してから説明するつもりです。 これが現状の計画ですが……勇君、如何でしょうか?」


「申し分ないですよ……ありがとうございます福留さん、ここまで進めて頂いて……!」


 長い期間を掛けた計画を前に、勇達の驚きが止まらない。

 さすがの福留……何一つ抜け目の無い計画に、彼等が口を挟む余地など一切無かったのだから。


 福留もそんな反応を前に、嬉しそうな万遍な笑みを浮かべていた。


「いえいえ……ですが、これが予め出来る最大の準備です。 今後は比較的行き当たりばったりな戦いが増えると思いますので……思い付く様な事があったら皆で言い合いましょう。 それが何かしらの光明になる場合もありますからね」


「わかりました!」


 だがそんな折、勇の返しを聴いた福留が表情を曇らせる。

 そして何を思ったのか、人差し指を掲げ……左右へと振らせていた。


「いいえ、違いますよ勇君。 今の貴方が応えるのであれば……」


「あ……」


 もう勇はリーダーなのだ。

 そして福留は上司でも目上の人間でも無い。

 だからこそ彼は、戸惑いながらも……応え直す。

 笑顔の福留が向ける人差し指の動きに伴って。




「わかった……これからも協力し合って戦おう……皆の力を貸してくれ!!」




 その瞬間、室内に仲間達の大きな歓声が轟いた。

 室外へと漏れ、廊下に響き渡る程に強く、大きく。

 それ程までの気合いに、誰しもが臆する事無く。


 まるでずっとその声を待っている様だった。

 ずっとずっと、待ち焦がれていたのかもしれない。

 その立場で、その心で、そう言われる事を。


 皆はずっと、願っていたのだ。


 彼が纏める……その瞬間を。




 福留の起こした風は勇達の地盤を固める。

 いつかの過ちを再び犯さぬよう、幾重にも準備を整えて。


 来たるべき時が訪れる事を……彼等は嬉々として待ち続ける事を望んだ。

 いつかの親友との再会に華を咲かせたいから……。




 だが……吹き付ける風が僅かに不穏な色を帯び始めていた事に、彼等はまだ気付いていなかった……。




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