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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十節 「誓いの門出 龍よ舞い上がれ 歌姫を胸に抱きて」
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~順風 真に纏めるべき者~

 獅堂が呼び込んだ風は結果的に勇達の心の蟠りを一つ取り除く事が出来た。

 しかし一つの風が止んでも、後に続くのが嵐というものだ。

 次に福留が呼び込む風は如何に勇達の期待と不安を揺さぶるのだろうか。




「さて……場も落ち着きましたし、早速ですが本題に入るとしましょうか」


 獅堂との対話が済むや、福留からの声がその場に響く。

 獅堂は名残惜しそうに跡目を引きながらも、自分の役目を果たさんと福留の近くへと歩み寄っていった。

 勇もまたその場の席へと座り、仲間達共々福留へと視線を向ける。


 そんな彼等の目に映ったのは……先程までの緩い雰囲気とは異なる、険しい福留の表情であった。


「では、本筋の話を始める前に……皆さんに謝っておかねばなりません」


 以前にはほとんど見せた事の無い表情であるが……彼がその一言を発するや否や、勇達はその表情の根源が何であるか、なんとなく察する事が出来ていた。


「私は皆さんの事を過小評価していました。 『貴方達はもう、これ以上の成長は見込めない』とね。 ……人間とは難しいもので、例え才能や知性があろうとなかろうと、考え方に気付けなければ成長する事は出来ません。 そして小嶋政権によってその状況に追いやられた時、私は半ば諦めていました」


 だからこそ、福留は一人で動く事を決めたのだろう。

 勇と再会した時、勇一人では何も出来ないと豪語したのは……福留は彼が言う程の行動力を発揮出来ないと思っていたから。


「ですが、貴方達は私の指示が無くてもあれだけの事をやり抜きました。 それは当たり前に出来る様にも思えますが、実はとても難しい事なのです。 それを君達は実行に移せた……私はそれが堪らなく嬉しい!」


 人は想像を超えた事態を目にした時、感情を大きく露わにする。

 福留も所詮は人の子……嬉しい時には喜ぶし、悲しい時には涙を零す。

 ただその沸点が人よりも高いだけに過ぎない。


 しかし今、福留は勇達が見た事が無い程の喜びを見せていた。

 拳を握り締め、唸る余りに首が前傾する程に……。


 それに近い喜びを見せた事があると言えば……勇が初めて彼に戦いを見せたウィガテ戦の後くらいだろうか。

 だが今の喜びはそれを遥かに超える程の力強い様。

 今までの福留らしからぬ、感情を露わにした姿だった。


「だからこそ……君達を信じてあげる事が出来ず、本当に申し訳ありません……!!」


 途端、福留は壇上の演台へと両手を突き、深々と頭を下げた。

 歳に相応しくない様で勇達の動揺を生む程に、深く、深く。


「ふ、福留さん……そこまで謝らなくてもいいですよ……なんかこっちが申し訳なくなりそうで……」


「いいえ、これはけじめです。 私の不甲斐なさを清算する為のね」


 顔を降ろしたままそう答える福留を前に、勇達は思わず顔をしかめさせる。

 そんな中、福留が再び顔を上げ……勇達へと険しい表情を再び晒した。

 その顔はどこか先程よりも気難しさを更に増している様にも見えるが。


「……ですが、ですがですよ? 先程笠本さんからお話を伺いましたが……勇君、君は三・四番隊の更生に失敗したと」


「え……あ、はい、すいません……」


「失敗は仕方の無い事でしょう。 彼等にも感情がありますからね。 しかし……君はそこの辺り、まだまだ甘い!! 感情のコントロールが上手く行っていないのは相変わらずのままではないのですか!?」


 途端、今度は福留の怒号にも足る感情がぶつけられ、標的の勇が思わず首を引かせていた。


 言われた通り、感情のコントロールは勇にとっての最大の課題。

 謎の力を得た今では以前よりも上手くはなっているが……極度の状況にはどうにも感情に任せがちになってしまう。

 バロルフとの戦いがまさに最たるもので、途中まではよくとも最後には感情のままに振り切っていた。

 感情的になる必要がある場合ならともかく、かの戦いではそれ程の激戦だった訳でも無く。


 全てを見抜かれた勇は……気付けばしゅんと縮こまっていた。


「で、でもよぉ、バロルフの奴は本当に―――」

シャラップ(おだまりなさい)!! 心輝君、君も同じですよ? もう少し自分をコントロールせねば、また自分を焼く羽目になりますよ!!」

「いいっ!?」


 今度は心輝へと人差し指を「ビシッ」と向け、怒鳴り声を吐き散らかせる。

 余りの剣幕に……心輝もまた口から歯が覗く程に驚き慄かせていた。


 福留の事を良く知る誰しもが、今までに見ない程に感情を見せる彼の姿に疑問を抱く。

 まるで彼が本物の福留では無いのではないかと思わせる程に。


「君達は行動力があります。 だからこそ自分達の行う事に責任感を以って動いてください。 さもなければいつか失敗した時、取り返しのつかない事になるかもしれません。 今回の騒動は()()上手く行きましたが、いつまでもこう上手く行くとは思わない様に!!」


 その言葉を最後に福留の感情は収まり、険しかった顔付きが緩みを見せる。

 しかし勇達はと言えば、見た事の無い剣幕を前にただ声を上げる事が出来ずにいた。


 そんな中、落ち着きを取り戻した福留は……そっと呼吸を整え、穏やかさを感じさせる表情へと変えていく。

 それが彼の言う感情のコントロールという所なのだろうか。


「福留さん、今日なんか凄く感情的じゃないです?」


「いいえ、これが私の本性です。 普段は感情を抑えているのですよ?」


 続き、「オホン」と咳き込む福留を前に、勇達の開いた口が塞がらない。

 今まで見て来た感情が抑制されたものだったなど、信じられるはずも無かったのだから。


「もちろん、口から漏れた感情は全て本音ですがね」


 そう言って見せたのはいつもの微笑み。

 人差し指を天に向けてそう語る様は、今まで見せて来た彼の在り方そのものだった。


 伝える感情は本音(リアル)でも、見せる感情は偽物(ポーカーフェイス)

 それが福留の作る仮の姿となっていたのである。


「今まで私は多くの方々に私の知りうる術を教えてきました。 上に立つ者として、年長者として相応しい立ち振る舞いでね。 そして勇君を筆頭に皆さんと出会った後、彼等と同様に知るべき事を伝え、教え、その成長を見守ってきました。 それは単に皆さんにより強く、より正しい知識を得て欲しかったからです」


 獅堂やその父親、勇達が世話になった御味や笠本、平野も福留の教え子である。

 それ以外にも、多くの人間が彼に師事を受けてきた。

 そのいずれもが勇達同様に福留の人あたりを前に安心してきたのだろう。


 だが今、勇達の前でその本心を露わとした。


 それは福留の一つの覚悟の現れでもあったのだ。


「しかし、今は違います。 貴方達は自分の力で大きな困難に立ち向かおうとしている。 それはもう貴方達が私の手から離れたという事に他なりません。 だからこそ、私は上に立つ者ではなく、横に並び立つ仲間として皆さんと共に戦っていこうと思っているのです」


 そう言い切った福留の顔に浮かぶのは、覚悟から見せる真剣な眼差し。

 もう彼は勇達の上に立つつもりなど毛頭もなかったのである。


「私はこれから貴方達に対して本音でぶつかっていくつもりです。 同じ志を持つ仲間として。 しかしそれでも貴方達に不甲斐ない所があるのであれば、容赦無く指摘していくつもりなので覚悟しておくように。 いいですね?」


 稀にも見ぬ厳しさを覗かせる福留を前に、勇達の表情が引き締まる。

 それは恐れた訳でも、慄いた訳でもない。

 勇達に福留の意思が強く伝わっていたから……心静かに奮い立っていたからに他ならない。


 静かに頷く勇達を前に……福留は彼等が全てを理解した事を察し、険しくしていた表情をゆっくりと緩めていく。

 間も無く彼の顔にはいつもと変わらぬ優しい笑顔が戻っていた。


「わかっていただけた様ですね。 よろしい……では、私の事はここまでにしておきましょうか」


 そんな時、福留がそっと両手を胸元前へと上げる。

 まるで場の空気を押し退けるかの様に、挙げた両手を左右に広げて見せた。


「さてそれでは、私が元々遂行していた計画の全容を伝えようと思います。 それを素に、勇君達の行動に合わせて調整していくつもりですので、よく聞いておいてください」


 すると、福留が演台の上にいつの間にか置いてあったタブレットを操作し始める。

 既にデータアップロード準備を進めていたのであろう……彼の背後にあるプロジェクター画面に用意していた画像が映し出された。


 そこに映ったのは……簡素な背景に刻まれた「救世同盟反抗計画」の文字。


「ちなみにこれは私や関係者しか知らない最重要機密となっておりますが……計画が大きくズレてしまう事が予想され、もはや隠す必要も無くなった情報なので安心してくださいねぇ」


 ページが切り替わり、画面に映し出されたのは……福留が計画していた内容を箇条書きに記したものだった。


ざっくりと言えばこうだ。

・小嶋の国外脱出計画は時期こそ未定だが確定事項だった。

・小嶋が国外へ脱出したのと同時に、福留を筆頭として【救世同盟】反抗勢力を構築。

・獅堂を戦闘部隊の中心に仕立て、傭兵や福留の息の掛かった戦力を集める。

・各地で起きている【救世同盟】絡みの紛争に介入し、彼等の戦力を削ぐ。


 細かく書かれた中には鷹峰元総理の名前も挙がっており、彼が再び政界に現れたのもまた計画の内なのだという事を悟らせた。

 しかしいずれも小嶋が国外へ出た事を前提とした計画であり、その後の予定が瓦解している事は明白でもあったのは福留の言う通りだ。


 そんな文が連なる中、勇がふと気付く。

 【救世同盟】への対策方法があまりにも簡素で、曖昧なものだったという事に。

 それもそのはず……そこに関しては詳細は書かれておらず、上記の様な文面が書かれただけだったのだから。


「福留さん、質問です。 具体的な反抗プランとかはあったのですか?」


 勇が遠慮する事無く核心の質問を投げ掛けると、福留は小さく頷いて視線を向ける。


「実はその部分に関する具体的な方法はありません。 基本的には風に流されるままに動き、反抗のチャンスを見つけては突くといった場当たり的な事しか出来ないと踏んでいたからです」


 つまりはノープラン。

 福留らしからぬ答えに、勇が思わず首を捻らせる。


「【救世同盟】も力を増し過ぎてしまい、活動も隠れ方も巧妙化の一途を辿っています。 国連や協力国家の情報網があっても、詳細情報を得る事が出来ないのが現状なのです」


 簡単に言えば、マフィアや犯罪組織がそう容易く根絶やしに出来ないのと同じ事だ。

 木を隠すなら森の中……例えどんな重要人物であろうと、人の中に紛れれば見つけるのは容易ではない。

 一般市民に扮した信者が彼等の存在を隠してしまうからだ。

 そして彼等の思想は犯罪思考とは違う、善の意思から連なるもの……その根は広範囲に広がっていると言っても過言では無いだろう。

 だからこそ、そこから発生する紛争を未然に防ぐ事は困難を極める。

 計画に挙げる事が出来ないのは、それが最たる理由だった。


「ですが、勇君や魔特隊が立ち上がった事で、少なからず【救世同盟】の行動が激化するのは時間の問題でしょう。 混乱は大きくなってしまうでしょうが……それと同時に彼等の動きが目立つ様になります。 そうすればおのずと対処のしようが出てきますからね」


 恐らく勇の存在は国内だけでなく世界中の【救世同盟】メンバー達が認識しただろう。

 そして彼等はきっと勇達を標的として、あらゆる手段で抵抗してくるに違いない。

 そう考えたからこそ、福留はこうして全てを打ち明けたのだ。


 更に続く()()()を構築する為に。


「ざっくりとした計画の説明は以上です。 次に軌道修正を行った計画の詳細を話そうと思いますが……その計画実行の判断を勇君、君に委ねたい」


「え、俺に……?」


 途端、指名された勇が唖然と口を開かせる。

 福留はそんな勇を前にそっと頷くと、光を放つ映像の前で静かに言葉を返した。




「そうです、勇君……貴方にはこれから皆のリーダーとして動いて頂こうと思っているからです」




 これはずっと福留が考えていた事だった。

 それは勇にどこか人を惹きつける魅力の様なものがあったから。

 多くの障害が重なり、それも叶わなかったが……もはや今となっては、阻むものは何も無い。

 仲間達の信頼も厚く、圧倒的な力を得た今、彼以上にリーダーに相応しい人物はいないだろう。

 彼を見つめる仲間達にももう、それを疑う者など誰一人居はしなかった。


「どうでしょうか……君に皆を引っ張っていく勇気と覚悟はありますか?」


「俺は……」


 そう問われた時、思わず勇の口が止まる。

 どう返すべきか、すぐには思いつかなかったから。


 対して福留はそう問い質したまま、じっと勇を見つめたまま。

 今は考える時間があるからこそ……その結果をただただ待つ事を選んだのだ。


 そんな時ようやく……勇の心の中で伝えるべき言葉が纏まる。

 同時に顔が引き締まり、その意思を体現していた。




「俺に出来る事は少ないかもしれない……けど、俺の決定が皆に勇気を与える事が出来るなら……俺はやります。 皆と共に争う必要の無い世界を創る為に!!」




 もう迷いなど無い。

 茶奈と誓ったから。

 仲間と共に歩むと決めたから。


 そう言い切った時……その場に居た誰しもが彼の決定を前に力強く頷いていた。




「……よろしい、では今日より勇君が我々のリーダーです。 今後各々の決定は君に委ねる事にしましょう」




 勇がリーダーとなり、彼等を導く。

 それは仲間達もがずっと望んでいた、あるべき形だったのだろう。

 こうして遂に理想は現実へと昇華され、皆の士気を大いに高めた。


 福留が呼び込んだ風の一つは仲間達の絆をより強固なものとしたのだ。




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