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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第二十九節 「静乱の跡 懐かしき場所 苦悩少女前日譚」
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~して繋がる 今日~

「―――これで全部だよ……」


 勇達が静かに聴き耳を立てる中、ナターシャが恥ずかしそうに顔を赤らめながら話を閉める。

 しんみりと聴いていた事もあって、皆は語りが終わった後も上げる言葉が見つからず。


「ちなみにこの話はナターシャが部屋に泊まっている間に聞かせてもらった。 ついでに言うと、レンネィには既に連絡済みだ。 落ち着いたら迎えに来ると言っていた」


「マヴォ、ボクそれ聞いてない!!」


 途端マヴォが笑いを上げ、プンスコと怒るナターシャの額を指で突く。


「言えば出て行きかねなかったからな。 レンネィは心配してたぞ?」

「もう……マヴォのバカ……」


 たちまちナターシャは黙りこくると、腕枕を組んで机に突っ伏した。

 こうやって改めて話してみると、竜星の事や泣いた事を打ち明けたのが恥ずかしくて堪らなかったのだろう。


「しっかし、ナターシャに彼氏が出来てたなんてねぇ……隅に置けないわ」


 そう語る瀬玲の視線は勇へと鋭く向けられる。

 勇はそこで視線を向けられたのがどうにも納得いかず、眉間を寄せて明後日の方へと視線を向けさせていた。


「アンディの奴、そんな事になってたとはなぁ。 ちぃとアイツにゃ一発喝を入れてやらねぇとなぁ……」

「シンパパそれはだめぇ!!」


 突っ伏していたナターシャが突然顔を上げ、心輝に向かって咆え上げる。

 落ち着いた今、アンディへの想いも甦ったのだろう。

 これは彼女の根底にある想いなのだから、早々には揺らぎはしない様だ。


「まぁでも、レンネィさんは物じゃないんだから独り占めは駄目さ。 ナターシャも一緒にじゃなきゃな?」


「うん……」


「レンネィさんもそれをわかってると思うし、一度話し合うといい。 困ったら俺達も仲介に入るからさ?」


 今となっては勇も茶奈達も居る。

 二年前の様に色んな事を相談出来る仲間達が。


 だからこそナターシャは無言で頷き、微笑みを浮かべる。

 勇の優しさを身に染みて感じる様で……懐かしかったから。


「やっぱ、ししょは優しいな……ししょにパパになって欲しかった。 なんでししょとママが結婚してくれなかったの?」


「ええッ!?」


 途端のナターシャの爆弾発言に、勇が慌てふためく。

 そんな彼の頬には、茶奈と心輝から放たれた焼け付く視線が再び浴びせられていた。


「結婚って愛し合った人同士がするもんだから!! 俺とレンネィさんはそんなんじゃないから!!」


 もはや勇も必死である。

 時々会いに行っていたのが仇となり、茶奈と心輝の視線は先程より何倍も強い。

 穴が開いてしまいそうなくらいに痛い視線が堪らず、勇の顔に苦悶を呼んでいた。




 ナターシャの事を話し終えると、勇達は揃って打ち上がった事に対して解決策を打ち出していく。

 レンネィもアンディも彼等にとっては大事な仲間なのだから、こうなるのは必然だったのだろう。

 ナターシャも親身になって考えてくれる勇達を前に……嬉しさが滲み出た笑顔を贈っていた。




 そんな時ふと、勇が気付く。

 こんな会話をしていると真っ先に口を挟む者が居ない事に。




 それはまるで抜け落ちたかの様に……居るべきはずの者がその場に居なかったから。




 そう、いつも騒がしい()である。


「なぁ、そう言えば……カプロはどうしたんだ?」


 勇が思いのままに声を上げ、仲間達に視線を送る。

 しかし仲間達はと言えば……見せたのは、今思い出したかの様に「パクリ」と口を開ける様。

 そんな中……キッピーの頬を掴んで堪能していた茶奈が沈黙との合間を縫う様に応えた。


「カプロさんはもうここには居ませんよ」


「えっ……?」


 彼女の言った事がすぐには理解出来ず、勇がポカンとした表情を浮かべる。

 あれだけここで働く事に情熱を持っていたカプロが居ないと言うのだから。


「ああ、カプロの奴な、一年半くらい前に魔特隊辞めたんだわ」


「なんだって……!?」


 心輝がしみじみとしながら腕を組み、当時の事を思い浮かべる。

 思わず首が縦に振られ、懐かしみを感じている様であった。

 仲間達も微笑みを浮かべているが、目は笑っていない……どこか神妙な面持ちだ。


「お前が居なくなってから二週間後くらいか……国連の要請でな、空島の調査にカプロが呼ばれたんだよ。 ほら、ジョゾウさんが魔特隊辞めちまったからさ、代打でって事で」


「そうそう、思い出した……あの時のカプロ、めちゃくちゃ嬉しがってたよねー」


 それもそのはず……カプロは外の世界に憧れを持っていたのだから。


 まだ子供という事もあって里から出しては貰えず、魔特隊に入ってからも魔者という事で外に出れないままだった。

 外へ出掛けた事もあったが、その時は相当楽しそうにしていたものだ。

 外出、そして空島への渡航……彼の喜び猛る顔が目に浮かぶようである。


「ですね……でも結局三か月くらい帰ってきませんでしたね……」

「長いなー……」


 思い付くとすれば、向こうで遊び惚けていたか、女の子とよろしくしていたか。

 しかしそんな勇の予想は……茶奈達から語られる続きによって覆される。


「その後何の音沙汰も無く帰って来たな」

「えぇ、当人は至って真面目そうでしたね。 当時、彼がその様な者だと思うくらいに」


 カプロの事を良く知らなかったであろうイシュライトが勘違いする程に真面目。

 そんな姿がどうにも想像出来ず、勇が思わず「んん?」と頭を抱える。


「いやいや、マジだって……『一体何があったんだお前』って言いたくなるくらいによ」

「ですね、あんまり笑いませんでしたもん……なんか怖くなった感じ?」

「時々、ブツブツと独り言してるし、あっちで変なモノ食べちゃったんじゃないかって」


 当の本人が居ないからと言いたい放題である。


「まぁなんかあっちでやる事はちゃんとやってたみたいでよ、俺達にお土産用意してくれてはいたよ」


「お土産?」


「ああ。 あっちで回収した【イェステヴ】を俺用に改造して持ってきてくれたんだよ」


「他にも私達用の魔装とかも造って来たしね」


「空島の技術を色々と学んできたみたいで、そこから色々造り始めてましたね」


「俺の【ヴォルトリッター】もその技術応用で造れた物だったな」


「確かマヴォさんのマシン製造の技術を生かして、茶奈殿の魔剣も出来たのでしたね」


「そうそう、茶奈の()()()()()な。 あれがここでカプロの作った最後の魔剣だっけか」


 カプロの話題で仲間達が盛り上がり、それが自然と勇に穏やかな笑みを呼ぶ。

 なんだかんだと彼等の為に活躍していた事がどうにも嬉しくて。


「ただその後もう一度国連の要請で空島に行った後……数日後に突然連絡があってな、『ボク魔特隊辞める事にしたッス、んじゃ』って一言だけ残して切れちまったんだよ」


 それはさすがに冷たいと感じたのだろう、心輝が見せるのは憤りの感じさせる膨れっ面。

 仲間達の宥める声が聞こえると、途端ににやけ顔に戻ってはいたが。


「そう言えば、それ以来音沙汰無しですね……」


「まぁ、カプロの事だし、元気にやってるさ」


「そうですね……会いたいなぁ……」


 カプロの懐かしい姿を思い出し、勇達が再会に想いを馳せる。

 話題が切り替わった事に気にも留めず、ナターシャも腕枕に顎を乗せて呟いた。


「ボクも会いたいなぁ……」


 思えば、カプロとナターシャは周りから見れば一番仲が良かった。

 当人達はと言えば、いがみ合っていた仲ではあるが。

 でもこうして離れてみると、そんな思い出も面白く感じて……。

 気付けばこうやって、再会を望む姿があった。




 仲間達の過去を知り、勇は願う。

 例え過去に起きた綻びで想いがズレようと、それがいつか良い方向に修正される事を。


 その為にも、彼等は戦い続けるだろう。

 ズレた想いを修正する時間を得る為に。

 ズレたまま終わらせない為に。






 この様に人は過去に想いを馳せ、過去に囚われる事もあるだろう。

 しかしそれはきっかけに過ぎない。

 きっかけで終わらせない様に、過去に向き合い、その経験を未来に繋ぐ必要がある。


 今日だけを見るのではなく。

 昨日だけを覗くのではなく。

 明日だけを想うのではなく。


 全てを繋げるから、人は育つ。

 全てを繋げるから、世界は育つ。


 それがわかるだけでも……一歩だから。

 人はこうして、明日に続く一歩を踏み出し続ける。




 一歩を踏みしめられる明日に進みたいから……今日も大いに、悩むのだ……。






第二十九節 完




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