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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第二十七節 「空白の年月 無念重ねて なお想い途切れず」
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~希望の剣~

 勇が頭を下げ、自身の行いを責める様に想いを詰める。

 そんな彼を前に福留は一つ溜息を吐くと……そっと言葉を添えた。


「……勇君、頭を下げるのは止めてください……君は間違っていない。 むしろ君がやってくれなければきっともっと大変な事になっていたでしょうから」


「福留さん……すいません」


 勇が頭を上げ、福留の顔を覗き込むと……そこに映ったのは何ら変わる事の無い笑顔だった。

 優しさを帯びたニッコリとした笑顔に、勇は思わず目尻を潤わせていた。


「そうそう!! それよか勇さんがあのデュゼローの野郎をズバーっとやったのは爽快だったッスねぇ!! あれ、どうなってるんスか?」


 カプロが尻尾をフリフリと振り回し、興味深々で勇へ問い掛ける。

 すると勇は僅かに顔をしかめ……思わずその顎へ手を充てた。


「……それがさ、よくわからないんだよ」


「っはぁ? 何それどういう事……?」


 勇が振り絞って出した答えらしくない答えに、瀬玲が堪らず突っかかる。

 だが本当にわからないのだろう……勇の顔は変わらず眉間にシワを寄せた悩み顔のまま。

 思わずカプロも同じように顔をしかめ、何かを考える様を見せていた。


「……勇さん、あの剣、ボクらにもう一回見せてもらっていいッスか?」


「え、あ、ああ……構わないけど……」

 

 カプロに催促されるまま……勇は立ち上がり、彼等から離れていく。

 部屋の隅、周囲に人が居ない事を確かめると……勇はそっと振り返り、彼等に視線を向けた。


「よし、やるぞ……」


 皆がゴクリと喉を鳴らす中……勇がその右手を正面に突き出してに力を篭める。

 その筋肉で締まった右腕に力が籠り、ググっと絞る音が僅かに響く。


「ハァァァァァ……!!」


 握られた拳が内封された空気を押し出す程に圧迫され、刻む様に震えを呼ぶ。


「ァァァァァ……!!!」






 だが一向に、力一つ迸る様は見られなかった。






「出ねぇじゃねぇかよ!!」

「仕方ないだろ!! やり方わからないんだよ!!」


 途端、落胆の空気がその場を支配した。

 期待していたカプロは元より、興味を抱いていた仲間達からも溜息が漏れ出ていく。




 勇が出そうとしていたのは、デュゼローとの戦いにおいて決め手となった【光の剣】の事だ。


 戦いの前、勇は謎の命力減衰症状を患っていた。

 そしてそれは都庁での戦いの時、常人以下の量しか有していなかったのである。


 だが、デュゼローとの戦いの折に出した【光の剣】はそんな彼が本来持ちうる力の量を遥かに凌駕する程に強力な出力を誇っていた。

 『あちら側』で最強を謡う三剣魔の一人であるデュゼローの力すら圧倒的に凌駕する程に強力無比。

 しかしそれ自体の事を説明出来る者は誰一人として居ない。


 それは当然、勇当人を含めての話である。




「なんていうか、あの時は無我夢中で……でも、なんとなくわかってたんだ。 今でもその感覚は残ってるんだけど……なんだろうな、力が出てこないんだよ」


 力を篭めた拳を引き、その瞳でありありと見つめる。

 そこに映るのは、今までと何ら変わらない普通の拳。

 拳には、そもそも彼自体には……もはや命力と呼ばれる力の一欠片すら感じない。




 今の彼は……言うなれば死体と同意義。


 命力とは命を司る力の事である。

 『あちら側』の人間や魔者は、魔剣を通してその力を奮う事で超常的な力を得る事が出来る。

 それは『こちら側』の人間も何故か同様だった。

 その命力が失われれば、生命は息絶える。

 人間、魔者に限らず、動物、植物、鉱石、土、水といったものにまで命力は存在するのだと言う。


 だが今の勇にはそれが無い。

 生きてはいるが、生きていないのと同じ意味だという訳である。




 自身の有様を前に……勇が押し留まり、声を殺す。

 そんな勇を見つめるカプロの瞳には未だ好奇心が潜んでいた。


「不思議なもんッスねぇ……まぁあの力を動画で見せてもらった時は、正直とんでもないシロモノだと思って観てたもんッスよ」


「何かわかったのか?」


 勇がそう返すと、途端カプロの尻尾がピョコンと高く持ち上がる。

 どうやら彼の技術者スイッチが入った様だ。

 

「力の本質以外は……ッスけどね」


 カプロがピョコピョコと勇の元へ歩いていく。

 二人が並ぶと……そこで改めてわかるのは身長差だ。

 一般的な日本人の身長の勇に対し、カプロはその肘程までしかない。


 そんな二人を皆が見つめ、カプロの分析結果を待つ中……遂に彼の口からその答えが解き放たれる。


「簡単に言えば……あの力はアストラルエネマの力以上とも言えるッス」

「え、ええっ!?」


 その言葉にいち早く驚いたのは誰でもない茶奈だ。

 無限の命力を有するとされるアストラルエネマである彼女……その力は当人が良く知っている。

 それを超えているというのだから驚きもするだろう。


「あ、平野っち、ノーパソ貸して欲しいッス」

「平野っち……」


 何か思う事があるのか、口をもごらせるも……平野が自分の操っていたノートパソコンをそっと持ち上げ、近づいて来たカプロに渡す。

 それを受け取ったカプロが器用に片手で何かを打ち込むと……途端画面に現れたのは、勇が戦う動画であった。


 その画面をくるりと回して仲間達に見せると、皆は改めて見る勇の戦いを食い入る様に見始めた。


「まず、剣の形を見て欲しいッス。 とんでもねぇ出力だとおもわねッスか?」


 おもむろにカプロが動画を止めると……そこに映るのは勇の右手から伸びる光の剣。

 彼が使っていた翠星剣の柄から伸びる光の剣は地面に向かって伸び、床を激しく(えぐ)る様に軌跡を描いている。

 剣そのものも唯の剣状の物体ではなく、光が激しく噴出する様をありありと見せつけていた。


「本来、命力で剣を実体化する事は出来ても、ここまで噴射し続ける事は実質不可能ッス。 茶奈さんのフルクラスタも命力を体へ多重に纏わせて作る鎧で、滞留させなきゃいくら無限の命力ったって実現は出来ないんスよ」


「そうですね……拳撃(インパクト)の時だけはその命力を打ち出したりはしますけど。 というかカプロさんよくわかりますね、説明した事無いのに……」


 そこはさすがのカプロの観察眼……彼に掛かればありとあらゆる魔剣の造形や事象は簡単に見抜かれてしまう。

 なぜそこまで彼が賢いのかは誰にも説明はつかないが……彼曰く、「気付いたらそうなってた」のだそうだ。


「うぴぴ……ボクを舐めちゃいけねッス。 そんで話を戻すと……この光の剣は常に激しく放出され続けてるッス。 あの(・・)デュゼローの魔剣すら抵抗無く溶断出来るくらいのパワーッス。 ここで何か引っかからねッスか?」


 そう言われ、心輝やマヴォが頭を抱えて悩ませる。

 そんな姿を横目で見る瀬玲が「へっ」と鼻で笑う様にいじらしい笑みを浮かべていた。


 どうやら一部の仲間はその意味に気付いた様だ。


「三剣魔のデュゼローの命力と言えば剣聖さん、ラクアンツェさんに匹敵するパワーを持っているはずッス。 それはつまり、ほぼ最強級の命力による魔剣強化すら意味を成さない事を指してるッス」


「いくら私でも、それを実現するのはまだ不可能ですね……出力がどうしても届かないと思う」


 茶奈の言う通り、無限の命力を有していても、それを放出する量には限界がある。

 例えば、25mプール一杯の水があっても、それを一秒間で抜く事が出来ないのと同じ事だ。

 つまり、デュゼローはそのプールを抜く為のホースが人よりも何倍も太い。

 一秒は無理でも、三秒か五秒もあれば抜ける……そういう人物なのである。


 その命力で強化された魔剣の強度は並の人間では傷つける事など不可能。

 この場に居る仲間達の力でさえ、大半は傷を付けられればいい方だろう。

 そしてそれが確実に出来るのは恐らく茶奈のみ。


 だがそれすらも抵抗なく破壊する事の出来る出力。

 それはもはや只の命力量では説明出来ない程に強大なのだ。


「そんでもって、それを長々と放出し続ける……この時の推定命力量を当時の勇さんの最高命力量で換算すると……約二億三千二百七十一万<(ゆう) /(パー) 5 m i n(ファイブミニッツ)>になるッス」

「なんだよその単位は……」


 思わず勇が突っ込みを入れると、カプロは得意げに鼻を上げて「うぴぴ」と笑い返す。

 きっとこんな時の為に温めていたネタなのだろう。


「とんでもない数字ですねぇ……つまり、このおおよそ5分間で二億三千万人の勇君が命力切れで死んだ事になるという訳だ」


「福留さん……」


 それに乗じて出る福留の冗談に、勇が堪らず(こうべ)を垂れる。

 彼にとって命力が低かったという問題は今でも残る、ちょっとしたトラウマの一つだ。


「ともかく……これだけの出力を長々と出し続ける事が出来る勇さんの体がどうなっているのかを詳しく調べたい所ッスね……」


「まぁそれで何かがわかるなら俺は一向にかまわないよ。 身体検査じゃ異常無かったしさ」


「そん時は頼むッス。 まぁ以上の事から光の剣の異常さがわかるはずッス……後は何かがわかれば教えてもらいたい所ッスねぇ……」


 だが、カプロ以上にその事象に対する意見は出る事は無かった。

 その力の源が何なのか……それは『こちら側』でも『あちら側』でも全く経験の無い事だったから。


 ただ、人知を超えた力……神の所業とも言えるその力を前に、彼等は形容する。




 それは【希望の(つるぎ)】なのだと。






 彼等が想い、願うのは、人と魔者が手を取り合って生きていける世界。


 彼等はそれが成せると信じ、今まで戦い続けて来た。


 しかし世界は彼等を否定した。


 それが真実か虚実か、今はまだ誰も知らない。


 だからこそ彼等はその真実を掴む為に……戦い続ける事を望む。





 人がそれを許すのならば……。




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