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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第二十九節 「静乱の跡 懐かしき場所 苦悩少女前日譚」
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~その誘い罠 嫉妬~

 ビル入口を覆うシートがゆらりと揺らぎ、何者かが通ったであろう痕跡を残す。

 ナターシャ達が続きシートの隙間を縫って潜り抜けると……二人の前に見た事のある物が置かれていた。


 それはバイク。

 先程ひったくり犯が乗っていた物だ。

 既にエンジンは止まっており、当然ながら搭乗者らしき者は居ない。

 ハンドルに掛ける余裕も無かったのだろうか、フルフェイスヘルメットは地面に転がっている。


「犯人は中かな……」


 傍には(あつら)え向きに有る、扉も無い入口。

 内装も剥がされ、コンクリート剥き出しの壁が不気味さを呼び込む様だ。

 妙に静かなのも気にかかり、二人の足取りを慎重にさせていた。


 周囲を伺いながら一歩一歩ゆっくりと踏み出し、建物の中へと足を踏み入れて行く。

 見えるのは曲がり角、その先に進めば階段……他に道は無い。

 しかしナターシャは命力レーダーを使えず。

 気配を殺されては()を察知する事は出来ない。


 ナターシャが竜星の手を取りながら階段へと足を延ばす。

 彼の脅えからか僅かに抵抗を感じさせるが……それでも怯まぬ彼女の踏み出しが勇気を与えた。

 二歩目からは一緒に踏み出して、共に階段を上がっていく。




 階段を登り終えた時、二人の前に現れたのは……二階フロア。

 人影一つ見えぬ、広々とした広場だった。


 外とを繋ぐ窓は枠ごと失われ、シートが代わりに覆ってぼんやりした光を灯す。

 明かりはそれだけ……部屋は暗く、所々に闇を映す。

 部屋の奥には中二階へ続く階段と、その先にある入口が一つ見えた。

 恐らくここは元々一貫したビジネスビルディングだったのだろう、人を迎える様に造られた構造がそれを匂わせる。


 そこに踏み入れた時、竜星がふと何かに気付いた。


「ナターシャちゃん……あれ……!」


 竜星がそっと指を差し、ナターシャの視線を呼び込む。

 二人が向いた先にあったのは……盗られた彼女の鞄だった。

 部屋の中央に無造作に捨て置かれ、零れた中身が僅かに覗く。

 周囲にばかり気を取られ、どうやら気付けなかった様だ。


「よかったぁ……あったぁ……」


 それを見つけた途端、ナターシャがホッと胸をなでおろす。


 しかしそれは明らかに罠であると言わんばかりに置かれた物。

 ナターシャはそれすらにも気付かず、目の前の鞄へと向けて駆け出していた。


 打ち捨てられた鞄を拾い上げ、その胸にギュッと抱き込む。

 その後を竜星が警戒しながら近づいて来た。


「ナターシャちゃん、早く出よう」

「うん……」


 竜星が彼女の肩を取り、半ば押し出す様に入口へと体の向きを変えさせた。






「おおーっとぉ、簡単に帰す訳にはいかねぇなぁ~?」






 その時、誰も居ないはずだった空間に男の様な低い声が響き渡った。

 障害物の無いその部屋が声を反射し、やまびこの様にぼんやりとした音を引く。


 突然の事で驚き、二人がその身を硬直させる。

 そんな彼女達の前に……中二階の手すりの陰から何者かが姿を現した。

 それも一人だけではない。

 二人、三人、四人……次々と姿を現していく。

 果てには誰も居ないはずだった入口からも姿を現し、逃げ道を塞いだ。


 姿を晒した彼等は……魔者だった。


 いずれも種族の異なる者達ばかり。

 鱗肌であったり、毛に覆われていたり、長い尻尾を有していたり。

 中にはどこかで見たライダースーツを身に纏う者も。

 だがそのいずれもが、彼女達に向けて鋭い眼光を向け……舌なめずりを見せつける。


 明らかにナターシャ達を追い詰める様に動いていたのである。


「ま、魔者……こんなにっ!?」


 突然の魔者達の襲来に……竜星の膝が崩れて尻餅を突く。

 彼等を囲んでいたのは十人もの魔者……怖くないはずが無い。

 恐怖の余り震え、歯をかち鳴らす。


 そんな様子を魔者達は嬉々として眺め、怪しい笑みを浮かべていた。


「どういうつもりさ……!」


 しかしナターシャは怯む事も無く、強気の視線を魔者達に向ける。

 まるで竜星を守る様に前に立ち、魔者達の視線を塞いでいた。




「どうもこうもない……アンタが悪いんだから……!」




 するとそこに突如、聞いた事のある声が鳴り響く。

 ナターシャが気付き見上げると……そこには驚くべき人物達が彼女を見下ろしていた。


 そう、如月達である。


「アンタの所為で何もかもぶち壊し……しかも何、その格好……!! アンタみたいな陰キャがさあッ!!」


 怒りのままに怒鳴り散らし、ナターシャ達に敵意をぶつける。


 その敵意が堪らなく嫌で嫌で……ナターシャの顔が思わず歪み、しかめさせた。

 まるで昔彼女を責め立てた人々の嫌悪に満ちた罵倒と同じだったのだから。


 そんな声をがなり立てた後、如月が見せたのは……微笑みだった。


「ウフフ……私のお父さんがさ、渋谷の復興委員会の役員でさ、 ここの魔者達とも交流があってね。 こうやってお願いしてくれれば手伝ってくれるんだァ」


「ヘヘ、美愛嬢ちゃんには色々都合してもらってるからナ、恩返しみたいなもんよォ」


 堪えきれず、途端に周囲が笑いで包まれる。

 如月やその取り巻き、魔者達の笑いで、だ。


 ナターシャ達は木霊する笑い声の中、ただ静かに眺める事しか出来なかった……。




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