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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第二十九節 「静乱の跡 懐かしき場所 苦悩少女前日譚」
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~その街中で 闊歩~

 ナターシャと竜星が笑顔で街を駆ける。

 二人が最初に向かったのは当然、ファッション店だ。

 いくら好きな竜星の選んだ服だとしても、納得いかないものは納得いかない訳で。


 ナターシャが真っ先に訪れたのは、彼女の行きつけである『GoLa』というお店。

 女性向けアパレルショップである。

 

 彼女はそこに訪れるや否や……思い浮かべるままに物色し始めた。

 参考になったのは昨日眺めた雑誌だ。

 そこに写っていたモデルの格好に似た服を、自分の思うままにコーディネイトしたいと思っての行動だった。


 竜星が目を丸くして眺める中、ナターシャの動きが止まらない。

 でもそんな彼女は笑顔で、服飾品を選ぶ姿はとても嬉しそうだ。


 幸い、ファッションに関する知識は度重なる着飾りで養われている。

 こればかりは好きでしょうがないのだから、伸びるのは当然の事であろう。


 気付けば彼女は着飾り終え、会計を済ませていた。

 女性が買い物に掛ける時間は基本的には長いものだが、ナターシャは別だ。

 目標があって動けば……おのずと速いものであった。


 桃色基調のTシャツは捲し上げられ胸下で縛り上げる。

 その上から純白薄手のカーディガンで包み込み、それも裾を結んでトップスを着飾る。

 アンダーはチェック生地の大きなスカーフを腰を包む様に回し、普通のジーパンにアクセントを加えていた。

 素早く見繕ったとは思えない着こなしに、竜星も思わず感心の声を上げたものだ。


 こうして再び日の下に戻った二人は、次にすぐ近くにあった『nOn stylE』という名の男性用のアパレルショップへと足を運ぶ。

 ナターシャが今度は竜星の服を選ぶと言うのだ。

 竜星はお金も無いという事で遠慮を見せるのだが……こうなったらナターシャは止まらなかった。

 彼女も学生からしてみれば大金持ちの様なもの、持っている資産は八桁台。

 未だその桁が落ちる事も無く推移している現状で、躊躇う理由などありはしない。


 ナターシャの強い押しに負けた竜星は、彼女のされるがままに身なりを整えていく。 

 男性モノをコーディネイトした事は無かったが、見た事が無い訳では無かった。

 店員のサポートもあってか、選びに選んだ服装は彼女の理想にぴったりだった。


 制服のブレザーを脱ぎ、ワイシャツをファッションの一部に取り入れる。

 胸元を開き、被る事で清潔感を押し出した。

 シャツはただの下着だったのを着替え、朱の波が描かれた涼し気なインナーウェア。

 元々細かったベルトは銀のフレームが目立つ物へと変わり、制服とのアンマッチを敢えて演出する。

 そこに薄く黒い、僅かに透き通ったストールを巻き付け、ふわりと両端に垂らす。

 途端ちらちらと除く銀の輝きがシックなアンダーから覗かせる落ち着いた雰囲気を醸し出した。


「んふふ、これでおそろい!」


 ナターシャも腰にスカーフを巻き、その端がフリフリと動きに合わせて揺れる。

 なりは違えど様式は同じ……それがどうにも嬉しくて、そんな事をつい口走ってしまう。

 竜星もそんな彼女と一緒の着飾りが嬉しくて……はにかみを零していた。


 店員が彼女の差し出した黒いカードを見て驚いたのは御愛嬌。

 こうして二人は身なりを整え、改めて街へと繰り出したのだった。






 赤髪ツインテールの少女と眼鏡の少年が街を練り歩く。

 そこはもう学校とは縁もゆかりも無い、通学路から大きく外れた場所だった。

 新宿(にいじゅく)沼袋(ぬまぶくろ)と違って落ち着いてはいるが、地元の人間がよく訪れては賑わうちょっとした商店街。

 少し離れた所に行けば娯楽も揃っている。

 もっとも、求めたのはその場所だったから、二人はここを通っているのだが。


「乾君、お昼ごはんたべよ!」


「そうだね、もう昼だいぶ過ぎちゃったし」


 身なりに構い過ぎて、気付けば14時(にじ)台……二人揃ってお腹を鳴らす。

 昼から走りっぱなし、意識もすればお腹と背中がくっつきそうな程に空腹だった訳で。


 そんな二人が選んだは、人入りのまばらな個人経営の豚骨ラーメン屋。

 ナターシャからのたっての希望によるものだった。


「ボクラーメン食べるのあんまないんだ」


 それと言うのも、レンネィがあまり麺類を好まないのだとか。

 こうなると自然とラーメンを食べに行くという選択肢が無くなる。

 そんな事もあり、今回を機に希望したという訳だ。


「まぁ僕はラーメン好きだし、丁度いいかな」


「やった……楽しみ!」


 この店は券売機式、店員の手間を省く為だろうか。

 二人がメニューを選び、券売機のボタンを押していく。

 竜星は手堅く豚骨醤油ラーメン(並)、ナターシャは豚骨醤油ネギチャーシュー(中)だ。

 おまけに餃子もライスも忘れない。

 そんなに買って大丈夫なのかと竜星が心配の眼差しを向けるが、ナターシャの瞳は輝いていたので何を言える訳も無く。

 

 そして数分後……二人の前に現れる供物(ラーメン)


 現物を前にしたナターシャの嬉しそうなこと。

 残念ながら一身上の関係で彼女に「いただきます」の概念は無い。

 割り箸を割って手に掴むと……ここぞとばかりにお椀へと箸を突っ込んだ。

 箸の使い方も勇から学んでいる。

 今となっては自然に使う事など造作も無い事だ。

 器用に箸を使って麺を掴み取り、熱いままに口へと頬張る。

 マナーも何もへったくれもある訳無く……普通に「ズルズル」と啜り、口の中へと流し込んでいった。


「んうー! おいひー!」

「うん、美味しい!」


 熱くてもなんのその……滅多に食べられぬラーメンを口にした彼女はとても喜びに満ちていた。

 好きだと言ってくれた人と一緒に食べるラーメンは……彼女にとって何事にも代えがたい幸せの味だったのだろう。


 そこにあるのは……ファッショナブルな服装を身に纏ってラーメンを啜るというミスマッチを魅せる二人の姿。


 でも、二人の幸せの形はきっと……これでもかという程に、ピッタリと合わさっているに違いない。






 食事を終えた二人は、娯楽を求めて再び道を進む。

 やはり重かったのだろうか、ナターシャの歩みは先程よりも僅かに遅めだ。

 へそ出しルックが仇となり、食べ過ぎて僅かに膨らんだお腹がほんのり目立つ。


「見て見て、お腹ふくらんじゃった」


 見せつける様に自身のお腹を摩るナターシャを前に、竜星は目のやり場に困りながら苦笑で返していた。


 少し歩けば二人の前には繁華街。

 早速二人は次の目的地を見つけ、そこへと向けて歩を進める。

 そこはカラオケ店。

 二人が歩きながら決めた遊びの場であった。

 それというのも……あれだけ騒いでおきながらも、同級生達が話していたカラオケに興味があった様で。

 二人して同じ意見が出たという事で、即座に決定。


 カラオケルームへと誘われた二人は、見慣れぬ雰囲気に思わず喜びの声を上げる。

 早速歌いたい曲を探すが……二人で仲良く選曲パネルを弄り続け、気付けば探すのに二十分も掛けていた。

 そんな中で最初に曲を入れたのはナターシャだった。

 入れた曲は魔特隊アニメの主題歌……アニソンである。


 しかしそれが竜星の心に火を付けた。


 実は彼もアニメ大好き少年だったのである。

 そうともなれば二人は止まらない、止められるはずがない。

 互いによく知るアニソンを歌い、時にはデュエットし……打ち出すレパートリーに喜びの声を飛ばす。

 たった二時間の二人の熱唱タイムは、途切れる間も無く終わりを迎えたのだった。




 次に二人が足を踏み入れたのは……またしてもアパレルショップだった。

 それというのも、ナターシャはこの場所に訪れた事が無い。

 そこで初めて見たブランドを見掛け、大いに興味をそそられた様だ。

 小ぢんまりとした店舗ではあったが、服だけでなく様々な種類のアクセサリが目を惹く。

 先程足を運んだ店舗と比べて僅かにシック、暗色系の服飾品がこの店舗の売りだった。


 特に買いたい物がある訳でも無く、今度はじっくりと時間を掛けていた。

 今度は竜星の意見なども聞いたりなどして、二人で選びながら商品を手に取る。

 もちろん彼にファッションセンスがある訳は無く、ナターシャが選ぶ物に対して意見を述べるのみ。

 しかし例えそれが肯定でも、否定でも……ただ話を交わすだけで、彼女は十分満足だった。




 その様な形で、次々に見慣れない店を見つけては足を運び、なんて事の無い時間を過ごす。

 意味の無い時間と言えばその通りかもしれない。

 でも、楽しい時間を過ごしたかった二人にとって、意味なんて必要無かったのだろう。


 今はまだ知らないから、何でも楽しめる。

 初めてのデートを、余す事無く満喫する様に……。




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