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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第二十九節 「静乱の跡 懐かしき場所 苦悩少女前日譚」
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~その駆引き 魅惑~

「フハハハッ!! そらそらそらァーーーーーー!!」


 バロルフの低く唸る声が場内に響き渡る。


 斬撃、斬撃、斬撃。

 鋭く激しく強烈な斬撃が幾度と無く繰り出され、爆音の様な斬裂音が鳴りやまない。

 勇は軽い身のこなしで上手く捌き、その斬撃を躱す。

 だがいずれも間一髪……衣服や髪の一端を削り取り、確実に追い詰めていった。


 躱す事に注視し、勇が声一つ上げる事無く動き続ける。

 それに対し、バロルフは嬉々として雄叫びを上げながら更に攻撃速度を上げていく。

 まるで逃げる鼠を追い詰める様に、確実に逃げ道を削り取っていた


 戦いの決着が付くのも時間の問題……そう思われる程に攻防が激しさを増す。




 そう……飽き飽きしてしまう程に同じ事を繰り返しながら。




 誰もがその攻防を前に、気付けば押し黙りながら視線を送っていた。

 心輝達も、バロルフ側の魔剣使い達も。

 その声が収まり始めていたのが何時頃からかは誰にもわからない。

 気付いたら収まっていたのだ。


 最初は心輝達からだった。

 当初は間一髪躱すのが精一杯だった勇に不安の眼差しを向けていたものだ。


 そこで彼等はふと気付いた。

 余りにも……()()()()()()のだ。

 なにせ全てが間一髪だったのだから。


 まるでわざとそう()()しているのではないかと思わせる程に。

 

 そしてそれは彼等に続き、バロルフ側の魔剣使い達にすら気付かせ始めたのである。

 最初は勇が厳しそうな顔を見せてバロルフが圧している事に喜びを上げていたのだが……外から見たその光景が余りにも()()()で。

 本当にバロルフが優勢なのか……そんな疑問が沸々と彼等の心に湧き上がっていた。


 そういった状況がギャラリーの声を漏れなく押し殺していたのである。



 

 一連の戦いの様子を前に、イシュライトが静かに腕を背に回して佇み眺める。

 その瞳は大きく見開かれ、勇の動き()()を一心に追っていた。


 彼だけが……周囲の者達以上に戦いを見定めていたのだ。


 勇が刻む動きは、全身を鋭く動かして回避を行うというもの。

 斬撃の合間を縫って床を叩き、蹴り、まるで踊っているかの様にリズミカルだった。

 その上でバロルフに苦悶の顔を向け、更なる追撃を煽る。

 時折、体の一部を削り取らせる()()を行い、ピンチを()()

 

 そんな勇の動きに……イシュライトは心当たりがあった。




 それは彼等イ・ドゥールの里に伝わる、【攻芸(ナルブーバ)】と呼ばれる戦士達の戯れ。

 相互に技を繰り出し、躱し、いなし、受け流し……相手の体勢を崩し、地に腰を付けさせた者の勝ちというもの。

 かつてマヴォが瀬玲や兄アージと共にイ・ドゥールの里へ訪れた時、和解した彼等と共に滞在期間中に訓練とも言えるこの戯れに従事した事がある。

 里の長である師父ウィグルイとの対決ともあり、その攻防は激しく凄まじかったという。

 瀬玲との戦いで負った傷を治療した後のリハビリであるにもかかわらず、終始彼に遊ばれていたものだが。

 とはいえ、マヴォとアージはそれによって命力闘法だけでなく戦闘技術を学び、その時に得た力は今の礎ともなっている程だった。

 戦闘訓練と遊びを重ね合わせた、戦闘民族ならではのものと言える。


 だがその目的は決して戯れではない。

 真髄は、双方のどちらかが合い打つ者を如何にコントロールする事が出来るかというもの。


 一挙一動……全てにおいて命力や気配を乗せ、相対する者に悟られる事無く攻撃を誘い込み、そこから次の一手を有効打へと仕向けるか。

 まるでチェスや将棋の様な戦略性。

 肉体を使った駆け引きこそがこの遊びの本当の目的なのである。


 そして今勇が行っているのもまた、それに等しい動きだった。

 バロルフの攻撃を誘い、装い、受け流す。

 恐らくバロルフには依然勇が苦戦している様に見えているのだろう。


 そう、()()()()()に過ぎない。


 バロルフは……未だ嬉々として剣を振り続けている。




 勇を追い詰めている……彼はまだ、そう()()()()()()()のだ。




 それに完全に気付いた時……イシュライトはこれまでに無い程の歓びの笑みを浮かべていた。

 目を見開き、これ程かと言うまでに口角を上げさせた笑みは歯が剥き出しになる程。

 

 彼もまた強者。

 藤咲勇という強者を前に、その心を内震わせていたのだ。


 そしてそれと同時に……ゾクゾクと背筋をも震わせる。

 その震えには、歓びだけでなく、恐怖という感情もまた織り込まれていた。




 それ程までに……イシュライトから見た勇の動きは圧倒的だったのである。




 今すぐにでも手合わせしたくなる衝動に駆られる程に、彼の心が激しく昂る。

 それに気付いた瀬玲が振り向き、その顔を見た事で……彼女もまた理解に至るのだった。


「楽しそうじゃん?」


「当然です……()の動きを見て打ち震えずにはいられません……!!」


 イシュライトが外の世界に出たのは瀬玲を追う為であった。

 しかし根底はきっと、勇の様な存在に出会う為だったのだろう。


 望むべき強者を前にしたイシュライトは……瞳を細め、光悦な笑みを浮かべて思わず呟く。


「師父よ……貴方が追い求めし者が今、目の前に居ますよ……。 間違いなく、かの者は強い……師父よりも……!!」


 思わず背に回していた腕を解き、その両拳を自身の前に突き合わせる。

 それは強者に対する礼儀……イ・ドゥールの作法の一つ。

 力強く突き合わされた拳は小刻みに震え、加えられた力強さを物語っていた。






 そんな最中も、勇とバロルフの攻防は続く。

 だが、状況は僅かな変化を迎えていた。




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