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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第二十九節 「静乱の跡 懐かしき場所 苦悩少女前日譚」
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~その秘め事 告白~

 勇と茶奈が家を出て向かった先は……信号の無い、人通りもまばらな普通の交差点。

 店は無く、在るのは民家や囲う塀ばかりで面白みは薄い。

 しかし()()にとってそこは馴染みの深い場所でもある。


 そこはかつて勇達が学生だった時に仲間達と待ち合わせるのに使った場所。

 時が経ってもなお変わる事の無い風景がそこにあった。


 すると二人はふと交差点の角、建物の影で何かが動いている事に気が付く。

 そっと近づいていくと……隠れていた者もまた建物の影から姿を現した。


 そこに居たのは……心輝と瀬玲であった。


 二人揃って既にこの場に辿り着いていた様で。

 というよりも、記者達への応対で勇と茶奈が遅れただけであるが。


「おっ、やっと来たなぁ」


 心輝の口から軽い口調の声が飛ぶ。

 先日の事があったのにも関わらず、見せたのは相変わらずの素顔。


「ま、マスコミ撒くのに時間が掛かったんだし、仕方ないでしょ」


 瀬玲もまた同様に。

 さらりと靡く髪をふわりと捲し上げ、気取った態度を見せては鼻で笑う。


 勇達も二人のそんな態度には慣れたもので……苦笑でその場をやり過ごしていた。


「それじゃ、いこっか」




 勇達はここで待ち合わせをしていたのだ。

 四人揃って魔特隊本部へと出向く為に。


 一昨日以降、福留からの連絡は無い。

 ただし、それはその時に全て伝えられていたに過ぎない。


 「また二日後お会いしましょう」……そう言い残して。


 それが今日この日。

 彼等は福留の言葉を信じ、心機一転の心構えで出向く事を決めたのである。




 しかし……そんな時、ふと勇が気付く。




「あれ……そういえば、なんで俺達がマスコミの相手してた事知ってるんだ?」


 まるで全て見たかの様に言う瀬玲に疑問を抱き、思わず眉間にシワを寄せる。

 そんな勇の態度を前に……瀬玲は愚か、心輝までもが目を見開かせていた。

 

 一言も返らぬ状況。

 二人の態度から意図を読み取れない勇が堪らず狼狽える。


「な、なんだよ……なんか俺変な事言ったかぁ……?」 


「変な事って……ねぇ?」


 瀬玲達もまた勇が何も気付いていない事に気付き……その見開いた目を細めさせていった。




「アンタ、さっきの取材……生放送よ?」




 瀬玲がスマートフォンを掲げ、情報源をアピールする。


 その一言を聴いた途端、勇と茶奈の目がこれでもかという程に大きく丸く見開かれた。

 今言われた事がどういう事なのか、一瞬わからなくなってしまう程の衝撃が二人の脳裏を駆け巡っていたのだ。

 

「「へっ?」」


 勇の口から漏れるのは、またしてもハイトーンの呆け声。

 今回は茶奈も一緒にだ。


「へ? じゃなくて。 何、知らなかったの? オ・メ・デ・トぉ、アンタ達の交際宣言、全国生放送でお送りされましたぁ~!」


 ここぞとばかりに瀬玲が明るい声で捲し上げ、末には大笑いを始めた。

 彼女がこんな状況を楽しまない訳が無い。

 隣の心輝がドン引きで睨んでいるのにも関わらず、遂には笑い過ぎて蹲る始末。


 当の勇達はと言えば……ようやく状況を理解し始め、揃って顎を大きく落とした驚愕の表情を浮かべていた。

 

「まぁなんつかよぉ……俺達は知ってたから別に驚きはしなかったけどよ」

「知ってたの!?」


 それが追撃となり、柔らかな髪の絨毯の上で瀬玲が堪らず転げ回る。

 自身の膝をバンバンと叩きながら転がり、息の枯れた笑いが十字路一杯に響き渡っていた。

 そんな様を見せられれば、勇達が惨めにもなろう。


 勇も茶奈も……爆笑し続ける瀬玲を前に、ただただ恥ずかしさの余り頬を膨らませて震える事しか出来なかった。






 合流を果たし、四人は揃って魔特隊本部へと向かい始める。

 並ぶ街並みは二年前と殆ど変わらぬまま。

 ここに至るまでに見て来た景色もであったが、久しぶりの風景は地元でもある心輝達にとってはどうにも眺めたくなるもので。

 しきりと周囲に視線を向け、思わず笑みを零していた。

 

 彼等はその様に歩く間に、一昨日の後の事も含め、今まで積もりに積もった事を語り始める。


「ずっとよ、お前に伝えたかった事があるんだよ」


 先陣を切ったのは心輝だった。

 その顔にどこかしんみりとした目尻の下がった表情を浮かべて。


「2年前は色々と心の整理が付かなくて……言おうと思ってたんだけど、つい言いそびれちまった」


 それでもまだどこかに引っかかる所があるのだろうか、思わずその視線が勇から外れる。

 しかし話を振った手前引き下がる事も出来ず。

 勇が静かに聴き耳を立てる中……心輝はゆっくりと視線を戻すと、一つ咳を払い、そっと話し始めた。


「実はな、あずの事なんだけどよ……あの時以前に、アイツに口止めされてた事があるんだわ。 でももう隠す理由もねぇし、勇と茶奈の仲もあるから……ここで言っとく」


 あずーの事ともあり、他の三人が心輝の胸中を察して静かに耳を貸す。

 それに甘える様に……心輝は電線が這い回る空を見上げながら言葉を連ねた。




「あずの奴な……お前とデートした後、別れるつもりだって言ってたんだ」




 その一言が勇に僅かな狼狽えを呼ぶ。


 あれだけ好きだと言ってくれていたのに、別れると切り出す。

 それがどうにも矛盾を感じて。

 まるで心輝の作り話なのではないかと思われる様な内容に、勇が思わず口を挟んだ。


「なんで……そんな事をシンが知ってるんだ?」

「それな……」


 心輝が見上げていた顔を勇に向けると、二人の視線が合う。

 彼の視線から向けられたのは……何一つ曇りの無い、真っ直ぐな意思だった。


「前日にあずと話したんだよ。 俺に伝えたい事があるってな。 俺もそれを聞いた時は何言ってるのかさっぱりわからなかったけどよ……理由を聞いたら、『ああ、なるほどなぁ』って思っちまった」


 その時、心輝が覗かせたのは……笑窪を釣り上げた、「ニカリ」とした笑みだった。




「『同情で付き合うのは私の望む愛の形じゃないから、別れた後に改めて勇君と関係を深めて行きたいんだ』……ってよ。 アイツらしいよな」




 それを聞いた時、あずーの事を良く知っている三人の胸中にざわめきが生まれる。

 語った理由があまりにも彼女らしくて。

 心輝が納得した意味もわかったから。


 けれど、それを伝える事も無く彼女は逝ってしまった……。


「俺は……あずが望む事をしてやれなかったのかな……」


 ふと、勇が立ち止まり……その胸に拳を押し付ける様に充てる。

 そうしないといけないくらいに苦しくなる程に、心が痛かったから。


 そんな勇を前に、つられて立ち止まった心輝達が振り向く。


「バァカ、んなわきゃねぇだろ」

「えっ?」


 しかし心輝の顔からは先程のしんみりとした雰囲気は欠片も残っておらず、笑みを浮かべたままだった。


「ヘッ、あずはあずで喜んでたのさ……だからアイツなりに正しい形に矯正したかっただけだっての。 だからお前がしてやれなかった事なんてねぇよ、勘違いすんな」


「シン……」


「……だからお前とあずの関係は真っ白、茶奈と付き合うのに後ろめたい事は何もねぇ。 わかったな?」


「ああ……教えてくれてありがとうな!」


「おう」


 勇からの礼を受けると、心輝が再び顔を背ける。

 言った手前、勇と茶奈を後押ししたのがどうにも恥ずかしかったのだろう。

 その頬は僅かに血色を帯び、勇に見えぬ口元は尖ったかの様に窄められていた。




 心輝の話題が終わると、これみよがしに茶奈達から話題が飛び始める。


 茶奈達の視点からはこんな感じだ。

 彼女達は一年程前から日本政府に対して元々何かしらの疑念を感じていたという。

 発端からすれば最初から、ではあったようだが。


 例えば、インターネットなどの情報網から一切遮断されたこと。

 これによって、情報を得る事はもちろん、洗剤や化粧品といった消耗品などを個人的に入手する事が出来なくなった。

 男性陣ならまだいいが、女性陣は大いに不満だった様だ。

 特に瀬玲は長い髪を維持するのに苦労した様で……難癖を言い続けておおよそ半年後に、ケア化粧品の類を仕入れる事を許可されたのだとか。

 もちろん高級品を指定し、自腹を切った訳であるが。


 暇潰しなどに困るのは先日茶奈が言った通り。

 強制的に暇な時の勇の様な状態にされたなどと心輝が口走れば、勇が座った目で睨みつけていたのは言うまでもない。

 これには何かをしないと落ち着かない心輝の様な人間には苦痛だった様で……これまた瀬玲同様に難癖を付けたらしい。

 しかしこれに関しては残念ながら受け入れられず……用が無い時はレンネィの掃除の手伝いをするなどして暇を潰していたそうだ。

 とはいえ、おかげで二人の仲が疎遠にならなかったのは結果オーライと言った所か。


 ここで茶奈が明かしたのは当然、食べる事に不自由だった事。

 勇とのデートの時にも吐露した事ではあるが、食べれるものは基本的には食堂で提供される物のみ。

 予算の関係上、人数に対する定量は決まっており、しかも彼等の場合は優先度が低い。

 先に食べる者達の量が多ければ、彼女達の食べる分も減るなど、理不尽な所が見られたのは事実だ。

 それでも安居料理長や笠本、レンネィが仕入れて来る差し入れで助けられる事はあったが、満足に食べる事が出来ない状況が2年も続けば不満も募るだろう。

 人一倍食べる彼女ならではの悩みだが……()調()()()の関係でこれまた嘆願を却下されたのだとか。

 まぁこれに関しては政府の意見も妥当(ふとりすぎにちゅうい)と言わざるを得ないが、それを言うと泥沼化しそうだと感じた勇は何も返す事無く聞き流していた。


 それでも、勇が最後に差し入れてくれた焼売は美味しかったとのこと。

 勇が作った訳ではないが……その言葉を聞けば、渡した当人も嬉しくなるものだ。


 彼女達の事に耳を傾ければ、出るのは他愛もない事ばかり。

 それでも二年も積み重なれば愚痴りたくもなるものだ。

 勇は募りに募った彼女達の不満を受け止め、共感する様に悩ましい顔付きで頷き続けていた。




 勇からの視点はこうだ。

 魔特隊関連の情報に触れる事が出来なかったので、生活に支障が出ていたらしい。

 例えば、ニュースなどで不意に魔特隊関連の話題が出ると困る場合があったとかだ。

 彼等がただ出演するだけなら何て事は無いのだが、魔特隊の動向を伝えるニュースなどを見てしまうと……即座に監視担当から注意喚起の指示が飛んできたのだそう。

 実際、注意を受けたのは一度や二度では済まない。

 もちろん、それはいずれも事故の様なもので……政府側も注意だけに留まっていたが、心象はあまりよくない。

 後半は面倒になってニュース自体を見る事がめっきり減ったそうだ。

 もっとも……一年も過ぎれば彼女達の活躍が減り、自然と報道も減ったので楽になっていったという事もあったが。


 二年間の間、魔特隊には関わらなくとも鍛錬は続けていたとも伝えた。

 だからあれだけ力が出せたのかと納得された所もあったが、次の話題でその感心も一瞬で消え去る事となる。

 ロードワークと言う名の散歩で関東各地を練り歩いた訳であるが……事あるごとに愛希やレンネィ達と会っていた事も明かした。

 それにはさすがに茶奈や心輝も黙って居られず、両側からの視線で頬が焼かれそうになったのは言わずもがな。

 瀬玲が再び笑いを上げていた事も。


 そもそも何故魔特隊の本部が移設されなかったのかというのも疑問に思っていたらしい。

 勇の家から三キロメートル程しか離れていないのだ……うっかり見てしまったりする事もあるかもしれないのに。

 もしかしたらそこにも小嶋の意図があったのかもしれないと、今更ながらに疑問を浮かべる。

 しかしそれは茶奈達に言わせてもらえば簡単な事なのだという。

 そう、単純に予算が回せないからだそうだ。

 先程の支給品の話曰く、政府管理になってからというものの……お金回りが特に厳しくなっていたのは察せる事だ。

 彼等への給料こそ以前よりも減ったものの、命の対価という事もあって破格であったのは間違いない。

 しかしそれも五・六番隊の様な傭兵を多人数雇えば、その割合も相当額減る。

 維持するにもお金は掛かる様で……結果的に設備費へ回される予算は殆ど無かった。


 そうこう話している内に魔特隊の建屋が見え始めたが……その状況が浮き彫りとなる様に、二年前のままの外壁が姿を現す。

 簡単な補修が入っただけで、簡単に侵入出来てしまいそうなくらいの穴が目立つ程。

 その有体を見た勇は思わず「なるほど」と頷く様子を見せていた。

 



 こうして勇達は話したかった事を語り終え、各々が満足したかの様に悦な笑顔を浮かべていた。


 しかしもう、彼等を縛る物は何も無い。

 ここから始まるのは、以前の活動と同等……そう願ってやまない。

 たとえ戦いが厳しく成ろうとも……無駄に縛る事が無ければ、彼等はそれだけで最高のポテンシャルを発揮する事が出来るのだから。


 そして勇は辿り着く。

 懐かしき魔特隊本部入口へと。

 これから待つ、懐かしくも新しい職場へ……復帰を果たす為に。






「そういや、俺の相棒(ロンバルディーニ)はどうなったんだよ?」


「あー……あれね、うんっ、賠償請求は政府によろしくっ!!」


「お前……通らなかったら覚悟しとけよな?」




 こればかりは請求が通る事を祈らざるを得ない。




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