表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第二十九節 「静乱の跡 懐かしき場所 苦悩少女前日譚」
67/466

~その在り方 寛容~

 鷹峰節はなお続き、記者達の緊張を漏れなく解していく。

 ふと気付けば……時計の針が会見開始時刻を示していた。




 すると鷹峰はまるで時刻を計っていたかの様に、突如として姿勢を正す。

 相変わらずの緩んだ笑顔のままではあるが……その姿勢はどこか、緊張を感じさせる肩の張りを見せた様だった。


「さて……緊張がほぐれた所で時間となりましたので、会見を始めさせて頂きます」


 その拍子に、周囲の緩んでいた空気が僅かに締まる。


「まずは……今回の事件に関しまして、多大な心配とご迷惑をお掛けした事を、国民の皆様に対して深くお詫び申し上げます」


 鷹峰の一言と共に、演壇に立つ彼や周囲の議員達が揃って記者達へと向け、深々と頭を下げる。

 その間にも周囲からはフラッシュの光が幾度と無く焚かれ、シャッター音がしきりに鳴り響いた。


 鷹峰達が頭を上げるとそれらの音や光は収まりを見せ、周囲が彼の続く言葉を催促する様に無音となっていく。

 それに誘われる様に、鷹峰は静かになった周囲を見回すと再び口を開いた。


「今回の小嶋由子氏の逮捕に至った要因が、本人及び彼女を取り巻く議員達もが【救世同盟】のメンバーであるという事ですが……それは周知の通り、事実で御座います」


 記者達も既にその事に関しては聞き及んでいる事だ。

 それでも僅かな疑念があった事は否めない。

 突然突拍子も無い事を言われてしまえば疑うのは当然だからだ。


 しかし今ここで鷹峰を通して伝えられた事で、彼等の疑念は確信へと変わる。

 そう感じ取った時……記者達の表情には再び強張りが生まれていた。


 それでも批判の声が飛ばなかったのは、鷹峰の前戯で場が和んだお陰なのかもしれない。


「この事実に伴って調査した所、全ての重役職者が該当または疑いのある事が判明しました。 つまり、内閣総倒れと言っても過言ではない状況です」


 淡々と告げられる事実を前に、記者達も冷静を保つのがやっとだ。


 鷹峰の言う事は簡単に言えば日本政府瓦解宣言。

 つまり、指示を行う船長と船の位置を知る航海士が揃って居なくなった船の様なものだ。

 彼等を欠いて洋上ど真ん中で漂流している船……それが如何に危機的状況か、言うに及ばない。


 不安を募らせる記者達。

 だが、そんな彼等を前に……鷹峰は笑顔を崩す事無く、彼等に向けて力強く声を上げた。


「しかし日本は民主国家、多くの人々の支えで成り立っている国です。 例え先導者が居なくとも、すぐに崩壊する事はありません。 私が今回要請を頂いたのは過去の実績故ですが……それを受けたのは、崩れかけたこの国を支えたいという根底ある想いがあるからこそ。 もはやそこに政党や主義主張などは何の関係無いのです。 今こそ、全政治家が一丸となって立ち上がる時だと私は考えております」


 鷹峰が総理であった期間は五年とそれなりに長い。

 その経験があったからこそ、こうして総理代行として壇上に立つ事を受け入れたという訳だ。

 トップを張る人間が軒並み消えた今、状況をよく理解した者は所属政党に限らず彼の再臨に安堵を憶えていた。

 彼の求心力は言う程大きくは無いが……実績があり、かつスキャンダル無く勇退した彼の言葉を無下に出来る政治家など居ない。

 彼等が居る限り、この国が持ち直すのは時間の問題だろう。


「それに、悪い事ばかりではありません。 藤咲勇氏が小嶋由子氏を確保した事で、続いて多くの関係者を暴く事が出来ました。 彼が行動を起こさねば私達は知らぬ間にこの国を失い、【救世同盟】によって荒らされていたかもしれません。 その面で言えば、今回の出来事は本当の意味での国家崩壊を瀬戸際で防ぐ事が出来たと言えます」


 もしも勇が動かなければ、きっと今の状況は大きく異なっていただろう。

 いくら権力を持つ福留が動こうと、総理経験のある鷹峰が動こうと。

 誰に気付かれる事も無く崩壊を受け入れざるを得なかったかもしれない。


「【救世同盟】に政権を牛耳られてしまった事で国を脅かす事態となった訳ですが、だからと言って今回の事件に関して、誰かに責任を追及するつもりはありません。 それ程今回の一件は巧みに偽装された事だったからです」


 もし責任を問うのであれば誰だろうか。

 小嶋に一票を投じた国民だろうか?

 小嶋を推して上げた政治家だろうか?

 小嶋政権を止める事が出来なかった政敵だろうか?


 答えは一つ……それは日本国民全員だ。


 議員とは言わば民意の象徴たるべき存在だ。

 例え意に反していても、総数で勝ればそれは国民の総意と何ら変わらない。


 つまり、小嶋が総理大臣になった事……その時点でスタンスや立場に関係なく、国民全員が過ちを犯した事となるのである。

 

 そしてそこに罪に問うのは愚問だろう。

 それは全員が罪を犯したからではない……。




「私達は今、危機に直面し、何とか脱する事が出来ました。 ならば罪だ責任だと背中を突くのではなく……今こそ皆さんの力を合わせ、日本という国を持ち直していきましょう。 そして期が熟し、私の様な老人など居なくても平気となるよう……どうか皆様のお力を貸していただきたい!!」




 誤っても、まだやり直しは出来るのだから。




 その瞬間、記者達から多くの歓声が上がった。

 一挙一動を背後に構えられたカメラが映し、日本中に生中継で伝えられていく。

 気迫、想い……それらを乗せて奮起した記者達の声が、高らかに上がる様を。


 それを観た多くの人々もまた、心を震わせずにはいられなかった。




 盛り上がりを見せる記者達を前に、鷹峰が両手を下ろすジェスチャーを見せる。

 たちまち彼等はそれに釣られる様に声のトーンを下げていった。


「……皆様の心意気に感謝します。 さて、それに伴い……我々臨時政府は一つの試みを提案いたします」


 記者達が鷹峰に注目し、ペンを構える中……一つ間を置いた鷹峰はそっと指を一本立て、その視線だけを立てた指へと向ける。


「私達が知る以上に、【救世同盟】の思想は多くの人々の心に根付いています。 私達が知らない方にも、ね。 それが罪になるというのなら、きっと彼等は頑なにその思想を心の中に隠し続けるでしょう。 それではきっと……この国からその思想を抜く事は出来ないかもしれません」


 立てた指をそっと手ごと降ろし、視線を記者達へ向ける。


 その時鷹峰が見せたのは……先程と同じ、笑顔だった。






「だから我々は【救世同盟】の思想を持った方々を許そうと思います。 かの思想を持っている事を打ち明け、今後一切破壊活動行為などに身を置かない事を約束するならば」






 途端、記者達の間に騒めきが生まれる。

 それでは前と何も変わらないのではないか……そんな疑問の声が飛び交い始めていた。


 だがそれを前に、鷹峰は「ウンウン」と頷きながらそっと彼等に答えを返すのだった。


「【救世同盟】の思想はいわば、世界を救いたい、自分の世界を守りたい、そんな想いが肥大化したもの。 その想いそのものはとても素晴らしい事だと私は思います。 ただ、守る事で他者を必要以上に追い込む、責め立て傷つける、そんなスタンスが問題な訳です。 だから我々はその想いだけは尊重したい……そう考えた末の提案です」


 頭を抱える記者達が居る中、一部の者は考えを張り巡らせては頷く者達も見られた。


 もしこの提案を飲み、多くの【救世同盟】シンパが足を洗うとしよう。

 もし彼等が普通の生活を送る事となったとして、彼等を否定する者がいたとしよう。


 その否定はもはや、【救世同盟】の思想となんら変わらない。

 許さなければ……否定すれば……それは既に思想に囚われている事と同意義になってしまう。


 だから鷹峰達臨時政府は敢えて表面的に許す事を促したのである。


 日本で締結された【救世同盟】のテロリスト組織認定を、国民は強く受け入れている。

 だからこそ、思想を持つ者を許し、無かった事にする事で……結果的に【救世同盟】はこの国から消えるという訳である。


「この国をまずは建て直し、皆様の生活が安定してから……問題を解決していきましょう。 後回しと言われぬよう、必ず全てを解決する事を約束いたします」


 思想が薄れるのには時間が掛かる。




 例え今完全には無理でも……時がいつか解決してくれるだろう。











 鷹峰の演説が功を奏し、日本中が震えた。

 そして同時に政府より、福留からリークされた情報の一端である【救世同盟】に関わる政財界の人物名が公共の電波から発信される事となる。

 実名を公開されて逃げ場を失った【救世同盟】のメンバー達は、こうして自分達の持つ肥大化した思想を正す事を決め……心機一転を公で誓うのだった。




 その日、日本は大きな前進を踏み出す事となった。


 【救世同盟】という名の毒を取り除き……彼等は再び、胸を張って前に進む事が出来る様になったのである。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ