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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第二十八節 「疑念の都 真実を求め空へ 崩日凋落」
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~SIDE空蔵-04 深き愛ゆえに~

 現在時刻 日本時間19:56......


 カラクラの里攻略が順調に行われつつある現状で、キャンプ地では高官達が喜びの声を上げていた。

 ジョゾウ発見の報告が彼等の元まで届いていたからだ。


「ははは!! 鳥頭(カシラ)共も脆いもんだ……全く何で今までこうしなかったのか不思議でならんよ」


「いやいや、今のタイミングでいいんだよ。 イメージっていうもんがあるだろう? そういうのは徐々に醸成させていく方が信憑性が高いってもんだ」


 その片手にはビールの缶が掴まれ、机の上には空の缶も幾つか転がっている。

 四人程いる高官は皆、部下達の事など気にする事も無く酒を浴びる様に飲んではこの様にくっちゃべる……そんな怠惰を見せつけていた。




 彼等の言うイメージとはいわゆる、偽装工作(ネガキャン)の事だ。

 この作戦が行われる数日前から、彼等の計画は始まっていたのである。


 彼等は地元のテレビ局へ、こんな情報を送っていた。

 『友好的なはずのカラクラの里で、人の死体が見つかった』、『夜な夜なカラクラ族が近隣の人を攫っているのを目撃した』という情報を。


 もちろんそれはデマ……彼等がカラクラを追い詰める為に創ったフェイクニュースだ。


 しかしそれを信じた人がいれば、徐々に彼等への不信感は募る。

 そこで魔特隊が制圧したとなれば、正義は魔特隊にあると皆は信じて疑わない。

 それこそ魔特隊を支配した【救世同盟】の常套手段でもあったのだ。


 


 笑いを上げて雑談を楽しむ高官達。

 そんな彼等を他所に……突如、傍で指示を送る通信兵が堪らず声を上げた。


「何っ!? 一番隊の相沢瀬玲が!?」


 驚きを露わにする通信兵に気付き、歓談する高官達が視線を向ける。

 通信兵もまた、指示を求めるかのように彼等へ向けて顔をくるりと回して向けていた。


「どうした? 何があった?」

「そ、それが……一番隊の相沢瀬玲が現場に現れたそうです……作戦を妨害したとの事……」

「ん何ィ!?」


 彼等もまた現場の者達と同様、一番隊がこの現場に来るなどとは思いもしない。

 物理的に来れる可能性など無いに等しかったのだから。


 だが現実に彼女は現れた。


 一体何が起きたのか理解出来ぬ高官達はワナワナと肩を震えさせる。

 予期せぬ状況を前に、思い通りに行かない事から生まれた怒りの感情が沸々と湧き上がっていく。

 感情に身を任せた高官の一人が突如として声を張り上げた。


「ならば相沢瀬玲は反逆者だ!! さっさと始末しろ!!」

「りょ、了解……」


 怒号に怯んだ通信兵が慌てて通信を送る。

 その隣で、高官達が掴んでいたビール缶を握り潰し、床へと叩き付けていた。

 たちまち周囲に黄色の液体が撒き散らされ、アルコール独特の上気が場に立ち込めていく。


「バカな……何故一番隊がここに……奴等は鳥籠じゃあなかったのかッ!!」


「知った事か……だが一人でどうにかなる事ではあるまい? どうせすぐ済む……後は、適当に誤魔化して、死体はカラクラにでも殺された事にしておけばよかろう。 せっかくだ、むごたらしく死んで貰おうじゃないか。 そう、悲劇のヒロイン、残酷な魔者に惨殺される……とね」


 たちまちその場に溢れかえる笑い声。

 四人だけのものだったが、兵士すら少ない静かなその場を濁すには十分だった。






「なるほど、それはきっと皆悲しむ事でしょう……セリは強く美しい、皆の女神ですからね」






 その中を斬り裂く様に、鋭く澄んだ声が響いた。

 命力を乗せた声は、例え喧騒の中であろうとしっかりと届く。


 高官達にも当然それは聴こえていた。


 声に気付き、彼等は振り向く。

 その背後、何も居ないはずだった暗闇の空間へ。




 そこに立っていたのは……イシュライトだった。




 気配を殺し、誰にも気付かれず……彼はそこに居た。

 左手に何かしらの機械を持ち、彼等にひけらかしながら。


「文明の利器とはすばらしいものですね、この様に何でも簡単に再現出来てしまうのですから」


『―――せっかくだ、むごたらしく死んで貰おうじゃないか―――』


 それはボイスレコーダー。

 イシュライトが持ち合わせていた、ちょっとした遊び道具である。


「き、貴様は一番隊の……!!」

「何故貴様がここにいる!?」


 言質を録られていた事に気付いた四人が慌てふためく様を見せる。

 この様な事態の想定は愚か、遭った事すら無いのだろう……軍人とは思えぬ怯えを見せていた。


 それに対し、イシュライトは至って笑顔。

 ニコニコと笑顔を向ける様はまるで敵意を感じない。


 敵意を向けず、未だ佇んだままのイシュライトを前に、委縮していた高官達は次第に勢いを取り戻していく。

 そしてあろうことか……彼に追従するかの様に再び下卑た笑いを浮かべ始めた。


「ハ、ハハ……まぁそうだな、たった一人で現れたんだ……どうしようもないんだろう? つまり君の言い分はこうだ……そのレコーダーと何かしらの条件の交換。 なんだ、何が欲しい、自由か? 金か? もしかして女かぁ? 何ならワシらの仲間にしてやってもいいぞ?」


 一人がそう声を上げると、周囲の者達も釣られて笑いを上げ始める。

 再びその場が笑いに包まれるが……イシュライトは未だ笑顔を浮かべたまま、じっと佇み続けていた。


「なんだ、今なら何でも聞いてやるぞ? 今ワシらは非常に機嫌が良いからな!!」


 あまりの笑い声は周囲に居る通信兵達を怯ませるほど。

 いや……きっと怯んでいるのは別の理由……。

 厳密に言えば、その原因は彼等の耳に絶え間なく届く……魔特隊兵達の悲鳴。


 特異な状況にすら気付かず、ただ笑いを上げる高官達を前に……イシュライトは片笑窪を「クイッ」と上げた。


「では、全て頂きましょう。 私は我儘なのです」


「えっ……」


 その一瞬、何を言っているのか理解出来ぬ四人が揃って素っ頓狂な呆け声を漏らす。

 それを知ってか知らずか……イシュライトの顔には大きく、口を開いた万遍な笑顔を浮かばせた。






「貴方達の地位、名誉、金……そして命を頂きます。 それが貴方達に課せられた対価です」






 じわじわとイシュライトの発言を理解した高官達が笑いを止めて表情を強張らせていく。

 そして空かさず彼等の一人がいきり立ち、怒号にも足る声を張り上げた。


「誰かコイツを殺せェ!! 最上位命令だあッ!!」


 途端、その場に居合わせ銃を構えていた兵士達が一斉に発砲する。

 フルオートのマシンガンが火を噴き、イシュライトに向けて無数の銃弾が撃ち放たれた。




 だが、もうそこに彼の姿は無い。




 誰しもがその姿を見失い、目を疑う。

 銃弾が空しく夜の闇の中へと消え、狙いを失った銃口は左右に振れるのみ。


「―――全くもって残念です。 とても、ね……」


 その声が響くのは、虚無を注視していた彼等の背後。

 それに気付き、全員が振り向くが……そこにすら誰も居ない。

 堪らず周囲を見渡すが、彼の姿はどこにも見当たらない。


「なんだ、なにがどうなッ―――」


 兵士の一人がそう叫んだ時……その兵士は高く宙を舞っていた。

 頭上に張られたテントを突き破り、闇を落とす林の中へと消えていった。


「な―――」


 そしてもう一人、また一人……イシュライトの姿が見えぬまま、次々と打ち上げられていく。

 誰一人加減する事無く……その一撃の名の下に、空へと消えていった。


 気付けば残るは高官二人。

 通信兵すら、もはや空の彼方だ。


「な……なああ……ああああ!?」

「ひいいいい!?」


 残されたのは、先程彼に要求した者と、最も醜く笑いを向けた者。

 どちらもイシュライトという謎の存在に怯え、堪らず尻餅を突いた。


 彼等には全く見えていなかったのである。

 イシュライトが全員の死角を移動し、一人一人を掌底たった一発で吹き飛ばしていた事を。

 この身のこなしはもはや常人に捕らえる事叶わない。


 それは彼が持つ元々の力。

 イ・ドゥール族が誇る武芸の極みの一端である。


「さて、そんな貴方達に選んで頂きましょう……私に望む事を……今なら叶えて差し上げますよ」


 そんな甘言にも聞こえる誘いを前に、縋る様に二人が共に頭を何度も縦に振る。

 死にたくない……そんな一心が彼等をただひたすら従わせていた。




 だが、彼等が思う程……イ・ドゥール族は甘くはない。






「頭を潰されて楽に死ぬか、四肢をもがれて苦しんで死ぬか……それとも、お二人で殺し合いますか?」






 そこにもはや慈悲は無い。

 祖父ウィグルイを彷彿とさせる選択肢を前に、高官二人の開いた口が塞がらない。


 だがもう、彼等の口は二度と塞がる事は無かった。






 次の瞬間……二人()()()肉片が空へとばら撒かれ、闇夜へと消えたのだった。






「―――私はセリに殺意を向けた貴方達を見て、今とても……機嫌が悪いのです……!!」


 その時見せたイシュライトの表情は、誰に見せた事も無い……修羅。

 愛する者を咎めようとする()を、彼は絶対に許しはしない。


 それは彼の大きな愛ゆえに……。




 手に付いた血のりを振り払い、静かとなったキャンプ地でイシュライトが一人佇む。

 椅子を見つけると、そっとそれに座り……再びボイスレコーダーを弄り始めた。


「セリ……きっと今頃楽しんでいるのでしょうね……私も楽しみたかった。 あまりにも残念でなりません」


 グリュダンの出現や今回の戦いで暴れられると踏んでいた彼の期待も無為に消え、虚しさから生まれた溜息が口から漏れる。

 戦闘民族である彼等にとって、今回の戦いは拍子抜けだった様だ。




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