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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第二十八節 「疑念の都 真実を求め空へ 崩日凋落」
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~SIDE空蔵-02 落とされた火蓋~

 現在時刻 日本時間19:20......


 遂にカラクラ殲滅作戦が実行された。

 勧告すらない一方的な戦闘開始の合図。

 もはや日本政府には、従わぬ彼等との共存という選択肢は無かった。


 それはまるで【救世同盟】の所業。

 アメリカ等の事情を知る国が忌避する今の日本の在り方そのものだったのだ。


 暗視ゴーグルを身に着けた兵達の乗る車両が十台、夜の山中に並ぶ木々の合間を潜り抜けていく。

 ライト一つ付けぬ静音処理を施された車両は察知出来る要素が薄い。

 音も無く近寄り、可能な限り察知されない様に奇襲を仕掛ける算段だ。

 ヘリコプターは使用しない。

 カラクラ族は空での戦いに長けている故に、反撃によって一網打尽にされる可能性が高いからである。


 だが彼等も昼鳥型……闇夜に弱い鳥目な所は普通の鳥とあまり変わらない。

 命力で視力を高めても一般人程度のレベルにしか上がりはしない。


 だからこそ彼等は夜間を選んだのである。

 人間側からしてみれば、最新鋭機器を使用出来る現状でそれが一番都合が良かったのだ。

 闇夜を利用した隠密性に富んだ攻め手の行動は、敵の数を知れぬ受け手にとってはこれ程恐ろしいものは無いだろう。

 いつどこから伏兵が現れ、形勢をひっくり返されるとも限らないのだから。


 散り散りになった車両が遂にカラクラの里へ到達し、兵士達が次々と車両から降りていく。

 各武器を携え、隠れる様に岩肌へと張り付きながら里の動向を探りつつ、各々の作戦ポイントを認識していく。




 そして遂に……初手となる火砲の烈音が山中に響いた。




 先手を打ったのは……カラクラ側。

 彼等もまた、独自のルートで手に入れた対命力弾と銃器を用意していたのだ。

 たった数丁ではあるが、弾は十分。

 訓練を受けたカラクラ兵達が高所から見つけた魔特隊目掛けて発砲したのである。


 それを皮切りに、反撃の銃撃が発砲元へと見舞われる。

 さすがの高所からの攻撃……魔特隊からの発砲はなかなか命中せず、これみよがしにカラクラ兵がライフル弾を装填しては撃ちを繰り返し続ける。




 だが……それも魔特隊の布石に過ぎない。




タァーーーーーーンッ!!




 その時、山中を貫く音がその場に響き渡った。


 途端、銃を乱射していたカラクラ兵が後ろへ吹き飛び、床へと転げ落ちる。

 その額に浮かぶのは弾痕……狙撃による一撃即死であった。






 カラクラ側の攻撃が収まった事を機に、魔特隊兵達が合図を出して里の内部へと侵入していく。

 複数人の兵達が里の入り口のバリケードを強引に破壊し、雪崩れ込む様に侵入していく姿はまるで暴徒。


 そんな様を遠方からレンズ越しに眺めるディック。

 彼は狙撃兵……多角から隙を伺う要員の一人だ。

 今撃ったのは彼ではないが、指をトリガーに掛けていたのは事実。

 魔特隊の攻勢が始まった場面を細めた眼で眺めつつ……自身の役割を求めるかの様に鋭くレンズごと視線を動かしていた。


 ディックはカラクラ族と絡みがあった訳ではない。

 今までも魔者と相対してきた事はあったし、この様に殺す事も多々あったものだ。

 彼が瀬玲達に情報を渡したのは、魔者への殺意に躊躇したのではない。


 彼自身もどこか指示をする日本政府に疑念を持っていたからである。


 本当にこれはやらねばならぬ事なのか。

 本当に殺さなければならぬ事なのか。


 そんな想いが彼の脳裏に駆け巡る。


 一方的な殺戮とも言える状況で、彼は悩みながらも……自身を押し殺し、引き金を引く。

 それが彼の生きてきた傭兵という生き方であり、業……生業(なりわい)だったのだ。




 銃弾の音が絶えず鳴り響き、山中が喧騒に包まれる。

 もう戦いは止まらない……どちらかが倒れきるまでは。

 殺し、殺されるまで……そこにもはや、個々の意思など介在出来はしない。






◇◇◇






「―――ジョゾウ王、伝令!! 正面ゲート第一関門が突破されました!! 北門、南門は現在交戦中!! しかし突破は時間の問題!!」

「思うた以上に速い……やはり魔特隊は並みでは止まらぬか!!」


 そこは宮殿の先、石段の大広間。

 宮殿にはもはや人の気配は無く……広場を大きく陣取り、急ごしらえの関を張っていた。

 そこを突破されれば……その先に待つのは一般民区域。

 つまり、その先に敵を迎え入れれば、真の意味で一方的な虐殺が待ち受ける。


 彼等カラクラにとって、その場所は最後の砦。


 空からの攻撃が無い事は承知の上の陣取りだった。

 空での戦いであれば自分達が圧倒的な優勢に持ち込める事を理解していたからこそ、魔特隊は地上から来ると確信していたのである。


 その陣にも既に微かな銃声が響き、戦いの激しさを感じさせる。

 ジョゾウはそんな状況下で……そっと腰を掛けていた小さな椅子から立ち上がった。


「では、我々が赴くとしよう。 俺が死ねば民も消える……だが、苦しんで死ぬのならば、何も知らずに消えた方がよかろう」


 そう呟き、己の覚悟を周囲の者達に知らしめる。

 彼の気概、噴気に……誰しもがあてられ、次々と落としていた腰を上げ始めた。




「皆の者、出陣に御座る!! 魔特隊を殲滅し、我等が明日をこの手に掴もうぞ!!」

「「「オオオッ!!!!!」」」




 陣を発ち、カラクラの集団が歩いて戦場へと向かう。

 その先頭に立つのはジョゾウ……その手に陣太刀型魔剣【エベルミナク】を携え、彼等流の甲冑を身に纏いて堂々と鳩胸を晒す。

 後に続くのはムベイ……抱えた砲筒型魔剣【オウフホジ】に命力を蓄えさせながら、来たる戦いにその身を火照らせる。

 その隣にはビゾ……ジョゾウより譲り受けた短刀型魔剣【天之心得(あまのこころえ)】を手に、戦いに向けた高揚感を滾らせていた。

 そして彼等に続く大勢の兵達……その中には賢人と呼ばれる老体も三人立ち並ぶ。


 今回の戦いで発起したのは彼等だけではない。

 一部の女や若者、老人までもが戦いに参加している。

 全ては、自分達が愛する里の為に……その命を捧げる事を望んだのだ。




 ジョゾウの望みは潰え、そして望まぬ戦いが始まってしまった。


 彼もまた守りたい国があるから……想いを胸に、覚悟を決める。

 かつて【エベルミナク】の所持者であったレヴィトーンという者が国を失い、地に堕ち、狂気を得た。

 かの者の異常なまでの狂気を知ったからこそ、彼はそう成ってはならぬと心に誓う。




 必ず里を守る……その誓いを胸に、魔剣に命力を強く強く篭めるのだった。




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