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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第二十八節 「疑念の都 真実を求め空へ 崩日凋落」
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~SIDE心輝-04 深紅の稲妻~

 現在時刻 日本時間18:33.....


 獅堂が魔剣兵と戦いを繰り広げてから……まだ三分と経っていない。

 だが既に獅堂は魔剣兵の猛攻に押され、戦う力を失いつつあった。


「ハァッ……ハァッ……全く……情けないもんだね……もうちょっと時間稼げると思ったんだけどさぁ……」


 衣服は既にボロボロ。

 体中からは血を流し、魔剣を掴んでいない右手はぶらりと下がる。

 膝は笑い、立っているのもやっとな状態だ。

 だが減らず口だけは未だ健在と言った所だろうか。


 それに対して魔剣兵は無傷。

 いくら訓練をしていたとしても、魔剣を使って久しい獅堂の攻撃が当たる余地など無かったのである。


 既に獅堂が動けないのがわかっているのか、魔剣兵が彼との距離をじりじりと詰めていく。

 その動きは既に福留を追う事を諦めたのか、それとも()()()()()()()()()()のか……獅堂を倒す為だけに動いている様であった。


 逃げ場は無い。

 逃げる事など叶わない。

 勝てる訳など無い。


 そんな状況下で、獅堂は僅かに後ずさりながらも……歯を食いしばった笑みを浮かべていた。


「ハハ……こういう状況、ずっと憧れていたのさ……。 そして逆転、勝利……それさえ掴めれば最高なんだけどね……」


 ヒーローに憧れた幼少期を過ごした彼にとって、ここから逆転して勝利するという構図はまさに羨望のシチュエーションと言えるだろう。


 しかして、現実は非情である。


 そんな逆転など地力が無ければありえはしないだろう。

 ましてや彼の様に一度闇に身を堕とした者がそう簡単に日の光を浴びる事が出来る訳もなく。


 もし勇と共に戦っていたら、勝つ事は容易だったかもしれない。

 道を踏み外さなければ、まともに戦えたかもしれない。

 昔から地道に努力していたら、対抗する事も出来たかもしれない。


 しかし彼にはそれが出来なかったから……。

 その後悔が獅堂を包み、弱った命力を更に低めていく。


「僕は勇君みたいにはなれそうにないな……でもね……タダで負けるつもりは無いよ……!!」


 笑う膝に力を篭め、しっかりと立ち上がる。

 迫り来る魔剣兵に対し、その目を見据えて牙を剥く。




 彼は最後まで……ヒーローでありたいと思っていたから。




 魔剣兵が殺意を向けて飛び掛かり、獅堂がそれを迎え撃つ。

 だが、殺意の刃が獅堂の頭部へ向けて振り下ろされようとした時……彼は見た。






 闇夜を斬り裂く、深紅の稲妻を。






ッドバォォーーーーーーゥッ!!!!




 まさに一瞬の出来事だった。

 その一瞬で……魔剣兵が全身をひしゃげさせながら宙を舞っていったのである。


 その出来事を前に、獅堂はただ唖然と……目に映る光景を眼に焼き付けていた。




 激しい紅炎を身に纏い、ギラギラと揺らめかせて立つ心輝の姿を。




「は、はは……本物のヒーローのお出ましって訳かい……」


 その途端、獅堂の魔剣を掴む手がだらりと下がり、引きつった笑みを浮かべる。

 脱力……圧倒的な力を前に、もはや自分との決定的な違いを見せつけられたから。

 そこには「助かった」という安堵感もあったのかもしれない。

 しかし自分の無力さを認識した虚しさがそれを感じさせる事は無かった。


ドシャリ……


 既に動かなくなった魔剣兵が地面へと叩き付けられる。

 そんな様を眺める心輝の細めた眼は……悲しみと哀れみが混ざりあった視線を送っていた。


「わりぃな……俺にゃこうするしかお前を救う術はねぇんだ……」


 魔剣兵は決して自ら望んでこうなった訳ではないだろう。

 しかしもう……彼等は自分の意思では死ぬ事すらままならない。

 だから心輝は救おうとしたのだ。

 自由意思では生きられぬ……生を感じる事の出来ない彼等を、死を以って。


 慈しみとも言える想いを馳せていた心輝が、今度はそっと獅堂へと視線を向ける。

 彼へ向けた視線は先程と打って変わり……鋭く厳しい殺意にも足る感情を乗せたものだった。


「ところで……お前が何でここに居るんだよ……?」


 心輝は既に彼が獅堂だという事に気が付いていた様だ。

 獅堂の口ぶりや挙動など……彼だと判別する要素は多かったのだろう。


 一歩一歩……魔剣兵に成り代わり近づいてくる心輝に、思わず獅堂が後ずさる。

 「カツッカツッ」という魔剣のアスファルトを突く音が威圧感を助長する様だ。


「ま、待ってくれたまえ!! 僕は福留さんの護衛でここに居るんだ!!」

「ッ!? 福留さんのォ……!?」


 その一言を聞いて驚く心輝だったが、その歩みは止まらない。

 福留の関係者なのであれば、勇から事情を聞いた今の心輝にとっては敵なのだから……。


 歩みを止めようともしない心輝を前に、堪らず獅堂が制止を求めるかの様に手を前に突き出した。


「福留さんがよぉ、俺達の敵ならよぉ……!! 事情は聴かなきゃならねぇよなぁ!?」

「ちょちょ……!? 僕は少なくとも君達の敵どころか味方になりたいくらいなんだけど!?」


 心輝の今にも爆発しそうな雰囲気は、獅堂を脅え怯ませる。

 先程までの冷静沈着な威勢とヒーロー感は一体どこへいったのか……。


「事情ったって……僕はまだ何も知らされてないよ。 君達は福留さんを信じていないのかい!?」

「そ、そりゃ……」


 そこでようやく止まる心輝の歩み。

 獅堂はと言えば……既に尻餅を突き、見下ろす様に立つ心輝を見開いた眼で見上げていた。


「なぁ、ならお前、何か思い当たる節は無いのかよ?」


 心輝が腰に手を充て、背を落として獅堂を見下ろす。

 その声色は一瞬にして敵意が剥がれ、普段の様なライトな雰囲気に戻っていた。


 とはいえ、態度だけは高圧的のまま。

 獅堂は安堵から笑みを浮かべるも、脅えと混ざりあった笑顔が何とも言えぬ複雑な表情を生んでいた。


「か、考えるに……僕が刑務所から出されたのは福留さんを守ってほしいという事だったのさ……。 それはつまり、彼が命の危険を案じていたから……そして襲い掛かって来たのはあの化け物……」


 心輝が上体を起こすと、それに追従する様に獅堂が腰を上げる。

 手を貸さないのは、まだ心輝が獅堂を信用していないからだろう。


 一歩引いた心輝が続きを催促する様に「クイッ」と小さく顎を上げる。

 獅堂に呼吸を整える暇すら与える事無く。

 彼がやった事を思えば当然の仕打ちではあろうが。


 獅堂もそれを理解しているのか、嫌な顔一つせず言葉を連ねる。


「君達も何か知ってるんじゃないかい? さっきの化け物の事をさ。 その親玉は福留さんを殺したくてしょうがないって事さ」


「まぁな……ッつう事は……!?」


「そうさ、僕の読みが正しければ福留さんは……」


 獅堂の口から告げられるヒントから読み解いた答えに、心輝の驚きが止まらない。

 だが間も無く彼の口元に浮かんだのは……片笑窪を大きく上げた笑みだった。


「で……肝心の福留さんはどこだよ?」

「あ……」


 そこでようやく思い出す。

 福留が一人で逃げて行った事に。


 刺客が他に居ないとも限らないという事にも……今更気付く獅堂なのであった。


「あー……えっと、北だ、北に!!」

「とりあえず、福留さん追えばいいんだよな? なら俺が行く。 お前はどうせ動けないんだろ? ならじっとしてやがれ」


 周囲には既に野次馬が集まり、彼等の存在に気付いて指を差す姿があった。

 獅堂はともかく心輝は有名ともありやたらと目立つ。

 そんな野次馬達など見向きもせず、心輝は振り向くと己の体に力を篭め始めた。


「それと……気軽に勇の前に出て来るんじゃねぇぞ。 アイツがどう思ってるかは知らねぇが……何があっても俺らはお前を庇いやしねぇ」




ドンッ!!




 その一言を最後に、心輝は再び空へと飛び上がっていった。

 地面に散らばった大量の破片が人々の注目を集めるが、獅堂はそれに目も暮れず……ただ静かに空を仰ぐ。

 暗闇が覆おうとしている空へ向けて、彼は独り言をそっと小さく囁いた。


「……フフ、全く……ヒーローらしいったらありゃしない。 そう言って僕に手心を加えてくれる辺りが堪らなくカッコイイね。 ……頼んだよ心輝君……福留さんを―――」


 喧騒を呼ぶその最中で、彼はそっとビルの合間に姿を消す。

 間も無くその喧騒も収まり、またそこに静寂を呼ぶのだろう。




 だが東京の夜はまだ始まったばかりである。




 この日はまだ……終わらない。




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