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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第二十八節 「疑念の都 真実を求め空へ 崩日凋落」
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~SIDE勇-09 魔剣兵製造計画~

 現在時刻 日本時間17:53......


 小嶋由子に関する証拠を一通り見終え、勇が出立の準備を始めようと席を立つ。

 すると何を思ったのか、勇の父親が代わりマウスを取り……画面を動かし始めた。


「所でこっちはなんなんだ?」


 彼が見つけたのは、小嶋由子に関する証拠写真を仕舞い込んだフォルダの隣に並ぶもう一つのフォルダ。 

 そこには【魔剣兵製造計画】と銘打たれており、勢いに身を任せた勇の父親がフォルダの中身を開いた。


 その先に現れたのは、研究資料と思しきデータ。

 見慣れた形式のファイルともあり、勇の父親は遠慮する事なく開いた。

 

「これは……なんなんだ……?」


 表計算ソフトを使用した研究資料。

 文字が羅列し、中には計算式や図式などが描かれている。


「何々……『魔剣兵製造プロセスとその有効性』……」


 皆が覗き込む中、ゆっくりとスクロールバーを降ろしていく。

 バーが小さく思える程に長々と連ねられた資料には写真も掲載されており、誰かへの報告用と思われる文体が読み易さを助長していた。


 勇達が見守る中、勇の父親がそれを読み上げていく。


「『魔剣の特性とは、所持者が長期間魔剣を持ち続けて命力と呼ばれるスピリチュアルパワーを高める事で、人知を遥かに超えた力を持てるようになる事である。 だが、その力を持つ為には使用者の精神状態の醸成及び熟練度、戦闘経験などが必須であり、大きな不安定要素を含んでいるのは事実だ』」


 短くまとめられているが、概ねその通りである。

 勇達も長きにわたる戦いと訓練、それと勇が閃いた鍛錬方法で強くなったのだから。


「『だが我々は鋭意ある研究の結果、魔剣に関する最も有用的な活用方法を見つけた。 その方法とはこうだ。 人工命力珠を、熟練者の細胞を培養して造り出した肉の袋に埋め込み、それを包み込む事で、命力珠に熟練者が持っていると錯覚させるのである』」


 そこで資料に貼られていたのは、命力珠のサンプルの画像と、肉塊に命力珠を埋め込む簡易的な図式。

 既に狂気染みていると思われる内容が見え始め、思わず見ている者達の気分を害する。


「『そしてそれをブラックボックス化して被験体の各部へ移植するだけでいい。 被験体は精神制御を行った者が望ましいだろう。 下手に制御が外れた場合、暴走の危険性が考慮されるからだ』」


 その後に貼られていたのは、被験者と思しき人物の裸体写真。

 体中が刻まれたのだろう、縫い跡が幾つも見られる。

 それがおおよそ五人程……いずれも年端も行かぬ子供ばかり。


 痛々しい映像を前に、心を打たれた者達が思わずその口を押さえていた。


「『移植に成功した被験者に魔剣を持たせる事で、当人の命力が熟練者同様の力を発揮する事が可能となった。 ただし基礎能力は被験者次第ともあり、補助的に増幅器(ブースター)代わりの命力珠を追加移植する事となった。 この時点で全被験者十名の内六人が死亡。 だが残る四人は安定した様子を見せており、一旦の成功とする事にした』」


「ひでぇ……人体実験かよ……!」


 恐らく被験者は身寄りの無い孤児なのだろう。

 その中でも、住所などがわからない様な……特別に身元がわからない者。


「『この実験結果から、命力増幅器(ソウルブースター)を搭載した被験体を魔剣兵と呼称し、今後の運用を目指して量産計画へ移す事とする』」


「魔剣兵……つまり、人工的に作り出した魔剣使い……」


「それも、精神制御で操り人形っつうオマケつきだぜ……胸糞わりぃ!!」


 気付けば勇達も聴き入り、勇の父親の朗読に耳を貸す。




 だが次の瞬間……不意に勇の父親の声が止まり、震えた声が断続的に漏れ始めていた。




「そ、そんな……」


「どうしたんだ親父……?」


 その先を読んで知ってしまったのだろう。

 知ってしまったのだ……信じられない事実を。


 勇の父親は震えた唇を抑え、再び口を動かし始める。

 それが自分に課せられた役目なのだと()()したから。


「続きます……『魔剣兵を量産するにあたり、今回使用した細胞の有用性が立証された為、以降も当細胞を使用し続けるサンプルとする。 採取元の肉体は()()()()に耐えられるよう厳重に()()し、移送の際は()()せぬよう注意を払って行う事―――』」




 そして彼等は、その事実を前に驚愕する。






「『サンプル体、【園部亜月】の肉体は最重要資料として扱う事』」






 その一言を聞いた途端、心輝の母親が堪らず飛び上がった。


「いやぁあああ!! なんでぇ!!!!」

「お、おい、お前ッ!!」


 奇声にも足る叫び声を上げる彼女を、隣に居た心輝の父親が抱え込む。

 なおも叫び続ける彼女を前に、周りの者達は何もする事が出来ない。


 そして心輝は……静かに佇みながらも……見ただけでわかる程に、体を震わせて命力を昂らせていた。


「でもなんでだ、あずの体は火葬したはずだ!!」


 しかしその答えは……すぐ続きに書かれていた。


「『……葬儀の際に極秘裏にすり替えを行って手に入れたこの肉体はこれ以上に無いサンプルである。 別世界の肉体はサンプルとしては申し分無いが手に入り辛く、細胞とマッチするかどうかが怪しいからである。 今後別世界の人間のサンプルを入手し、研究を重ねる価値はあるだろうが―――』」


「親父、もういい……もう……」


「わかった……」


 心輝の母親が泣き叫ぶ中、彼女を心配する様に母親達が囲う。

 ソファーへ誘い、宥め続ける中……勇達は気持ちを纏め、己の体に力を篭め始めていた。


「これだけでもう十分だ……後は行動に移す……!!」


 勇も、茶奈も、そして心輝も……既に怒りでどうにかなりそうだった。

 知った人物の遺体が道具として扱われている事。

 それが堪らなく悔しくて、悲しくて……。


 もう、彼等に止まる理由は完全に無くなった瞬間であった。


「心輝さん、勇さんと一緒に行ってください。 ここは私が守りますから」


「茶奈ちゃん……すまねぇ、恩に着る……!!」


「行こう、シン……俺達が小嶋由子を止めるんだ。 そしてあずを取り返す……!!」


「ああ……絶対(ぜってぇー)に許さねぇ……!!」


 怒りを力とし、勇と心輝は力強く踏み出す。

 玄関から飛び出し……都心中央、総理官邸へと向けて飛び上がった。




 全身全霊……持ちうる力を最大限に奮い、二人の戦士が舞う。

 その時、再び空を扇ぐのは一羽の赤鳥。

 暗くなり始めた東京の空を焼き進み、人々の心に様々な情景を焼き付けた。




 家族と、友人達の想いを胸に……彼等は戦地へ向かう。

 間に合うかどうかもわからない現状で、彼等は今あるかもしれない可能性に賭けたのだ。




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