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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十九節 「神冀詩 命が生を識りて そして至る世界に感謝と祝福を」
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~時希継幻想フララジカ~

 特別になりたいと思っていた。

 そう望むのが醜く浅ましい事なのだと思っていても。


 でもそれは間違ってるって、最近ようやく気付けたんだ。

 特別というのは、望んでなれるものじゃあないんだって。

 気付けばなっている、そういうもんなんだなって。


 だって俺は、全てが始まってから今までずっと必死だったから。


 特別だと思う余裕も無かったんだ。

 力をひけらかす事くらいは出来たけれど。

 夢中になって止まらなかった、だから特別になれたんだと思う。

 才能とか運だとかは、その夢中の度合い差でしかなかったんだって。


 だけど、俺は自分を特別だなんてまだ思っちゃいない。

 成果は上げたけど、それが俺自身の才能って訳じゃあないから。


 それに、この力を得られる可能性を持っているのは世界全ての人間なんだから。




 だから、俺は願うよ。

 今度は特別な人間なんかじゃなく、一人の普通な人間として。


 戦いと縁の無い、穏やかな人生の為に。








 




 遂に世界を分断する時がやってきた。


 勇が広場の端、物資群を背にして【創世剣】を顕現させる。

 その前には【あちら側】の者達だけが集まっていて。

 現代の人々の、彼等を見守る様に周囲を囲う姿がここに。


『予定の時刻まであと一〇分程です。 重ね重ね訊いて申し訳ありませんが、世界にはしっかりと告知していますでしょうか? 関係者以外の転送域への侵入をしない様にと』


『大丈夫ですよ。 戦いが終わった三日後には全ての通達を終えたそうですから。 もちろん、現代人が立ち入ってもあっちになんて行けないって事も添えて』


 ア・リーヴェさんも今は見守る側で。

 今は茶奈の手元で共に勇達を見つめている。

 【創世の鍵】を扱えるのは勇のみで、分身体のア・リーヴェさんでは何も出来ないから。


 それに、今は喋り難くなった茶奈の良きパートナーにもなっている。

 元々天力体で小さく、抱く事も簡単なので心で話し易くて。

 時には代弁してくれる事もあるので茶奈としては大助かりだ。

 もっとも、ずっと頼っている訳にはいかないけれど。


 そんな感じで情報を交わし、ア・リーヴェさんが入念に本体との意思疎通を行う。

 間も無く訪れる分断の刻に向けて、何一つ間違いが無い様にと。

 

 では何故、ここまできっちりと時間を決める必要があったのか。

 そんな疑問を抱いた者も少なくないかもしれない。


『ありがとうございます。 もう少し私が力を扱えれば良いのですが。 どうしても今は勇に頼らざるを得ず、精密動作が出来ませんので……』


 というのも、【創世の鍵】がそれほど万能ではないから。


 転送時の想定外要素に対して保障が出来ないからだ。

 例えば転送領域への侵入者などなど。


 『あちら側』の者だけなら避ける事は出来る。

 事情も知らないので扱いはそう難しくはないそうな。

 でも意思を持った突発的な侵入者に関してはそうもいかない。


 なんと、そんな不届き者は漏れなく転送直後に死ぬらしい。

 例外無く、現地の大気・物体と混ざって。


 まさに死亡率一〇〇%の異世界ダイブ。

 これはさすがに誰もしたがらないだろう。

 例え異世界に大夢を抱く者でも。


 なのできちんと時間を決め、予定時刻まで転移領域への人の出入りを禁じた。

 人自体はどこに居ても転送可能、フララジカ発生時の場所に戻るので問題は無い。


 なお、変わった土地も元に戻るらしい。

 人の手が入った所は少し歪になるけれど、そこはもう仕方ない。

 また作り直せばいいだけの話だから。


『皆ちゃんと言う事を聞いてくれるから平気ですよ。 それに人々は諦めない事を憶えましたから、少しくらい不具合があっても多分大丈夫です』


『ええ。 願わくば誰一人として失われず事を成し遂げて欲しいですね』


 宇宙から見たらちっぽけな星だけど、それを見通す事は神でも出来ない。

 人という強い意志が幾数多にも集まっているから。

 けど、そんな神は有象無象などと言わず全ての命を慈しむ。


 それは彼女もまた、万能ではないからこそ。

 一つ一つの命を愛しているからこそ。


『勇さんならやり遂げます。 だって見てください、あんなにも自信に溢れているじゃないですか』


 その神が茶奈と共に、同胞と成った男へ視線を向ける。

 意思を共有し、その上で心を汲んでくれた世界の英雄へと。


 その姿は転送前にも拘らずとても穏やかで。

 前に立つ仲間達と軽く喋りを繰り広げている。


 まるで、別れを一抹も悲しんでいないかの様に。


 


 いや、悲しくなんてないのだろう。

 これは別れであって、希望に満ち溢れた旅立ちでもあるのだから。




 そんな明るさを振り撒く勇の前に、突如として巨体が立つ。

 かつての記憶を思い出させる風貌のままに。


「あ、剣聖さん……」


「おう。 最後かもしんねぇからよぅ、こん時くらいは締めさせてもらうぜ」


 送別会でも二人が言葉を交わす事は無かった。

 何せ今まで殆ど一緒に居た様なものだから、特に語り合いたい事も無くて。

 でも互いにどこか伝えたい事が有る様な、そんな曖昧な気持ちは抱いていて。


 けど、始まりを刻んだ二人だから今だけは許されるだろう。

 たった五分間の、募った想いをぶつけ合う事を。


 仲間達が一歩引く中、二人が向かい合う。

 共に全てをやりきった笑顔のままに。


「正直に言やぁこんな日がもう来るとは思ってもみなかった。 事が始まるのはまだまだずっと先なんだってぇなぁ」


「そうですね……なんだかホント一瞬の出来事みたいにあっという間だったなぁ」

 

 本当は交わす言葉なんて無かった。

 こんな話題でも、互いにもうわかりきった事だったから。


 でも、それでも良かったのだ。

 何気無い出会いから始まって、最初は師弟だなんだと絡み合って。

 時には敵として立ちはだかったり、守ったり守られたりで。

 そんな今までの思い出を忘れたくないから。


 最後だけは声くらい聴いておきたいと。


「ま、おめぇの事だ、どうせ感謝したって謙遜するだけだろうよ。 だから礼は言わねぇ。 その対応が面倒くせぇ」


「なはは、でもその方が俺も助かるかなぁ。 お礼を言われる為にやってきたわけじゃないから」


「おう。 だが少しは誇りやぁがれ。 そこがおめぇの悪いトコだ」


 ……そう思っていたのだけれど。

 やりとりの中から思わずつい手が伸びて。

 太くて大きい指が勇の肩をとすんと突く。


 昔はこんな触れ合いでも簡単に押し退けられたりしたものだ。

 それも今では耐えられるくらいに強くなって、笑い合えて。


 だからまた笑いを零して止まらない。

 仕草の一つ一つから思い出が滲み出て来るから。


 嬉しくて楽しくて、笑顔が収まらない。


「だがもう深く考える必要はねぇ。 後は俺達が何とかしてやらぁ」


「剣聖さん……」


 ただ、世界にはまだ問題が幾つも残っている。

 それに根本的な問題が一つだけ。


 だけどそれは本来、この世界には関係の無い事だ。

 『あちら側』の人間が片を付けるべき問題なのだから。


 だからこそ剣聖は敢えて言う。

 「後は俺達に任せろ」と。


 いつだか去る時に残してくれたメッセージとは真逆だけど。

 でも、世界を救うという役割を勇が果たしたからこそ立場を変えてみせる。


 元の世界の行く末を、今度はちゃんと自分達で何とかしてみせるのだと。


「それでもどうにもなんねぇ事になったら呼ぶかもしれねぇがな。 出来ればそんな情けねぇ事はしたかねぇ! だからお前等はお前等らしい生き方を過ごせ。 おめぇも茶奈を幸せにしてやれ、いいな?」


「……わかりました。 俺達はらしく生きていきます。 いつか、そっちの世界と正しい形で繋がれる事を願って!」


「おう、そんときゃ俺達の方がおめぇらを追い越すくらいに発展しててやらぁ!!」


 その意気込みは現代人と比べてもずっと強い。

 剣聖だけでなく、この世界にやって来た殆どの者達が。

 リッダが若年で国連議員と成れた程に。


 だからもしかしたら、『あちら側』が発展すれば現代にすぐ追い付くかもしれない。

 それどころか簡単に追い越される事だってありそうだ。

 その意気込みと、今の生活水準に近づけたいという意欲があり続ける限り。


 そんな可能性からのワクワクが勇の心を更に躍らせる。

 今度は親友との剣の道じゃなく、世界と世界の発展し合いだから。


 だったらもう、立ち止まれる訳がない。


「なら俺はそれを見届けたい。 人としての人生が終わった後も」


「じゃあ俺も生き続けてやらぁ、おめぇが吠え面かく所を拝む為にな」


 時がやってくる。

 別れを惜しむ間も無く。


 だけどもう、勇にも剣聖にも何の憂いも無い。

 互いに立ち止まらない、そう約束出来たから。


 場に光がちらつき始め、空へと閃光筋となって昇っていく。

 分断の前準備が終わったのだ。


 ならもう後は、勇が扉を開くだけ。

 十二全ての門を開放し、世界の理を分かつだけで全てが終わるだろう。


 だからこそ最後に交わす。

 勇という世界を守った天士からの手向けを。


「剣聖さん、皆、どうかお達者で……!!」

 

 仲間達が涙を浮かべ、その時を待つ中で。

 人々が悲しみながらも笑顔で送るその中で。


 輝きが包み強くなる中で―――勇が【創世剣】を高く高く掲げよう。




「ウルテオ=クラトパ=ルオ=デッデラ、それが俺の名だ」

「―――えっ……?」




 そんな、光が鳴音をも奏でたその時だった。

 剣聖がその鳴音に掻き消される程の小さな声で呟いていて。


 それでも勇だけにはその声が聴こえていた。

 命力の介在出来ない今なのに、何故か不思議と。


 けど、それだけでもう良かったのだろう。

 最後の最後での粋な計らいだったから。


 これ程の手向けはきっと無いのだと。






 故に今、世界が光に包まれる。

 人が、土地が、その心が―――果てしない先、双つ世界への橋を渡る事で。

 



 


 あっという間の出来事だった。

 ものの数秒で、世界は元の形を取り戻したのだ。


 既に勇や仲間達の視界に『あちら側』の者達はおらず。

 大量に積まれていた物資ごと、広場から影も形も消え去って。


 その視線は自然と、そっと空へと向けられる事に。


 それは勇も例外では無かった。

 まるで今こそ別れを惜しむかの様に、口元をきゅっと引き締めて。


「行っちゃいましたね」


 するとそんな折、勇の下に茶奈がテトテトと歩み寄る。

 そして傍へ訪れるなり、降ろされた勇の腕をそっと抱き込んでいて。

 勇の気持ちを汲んだのか、頭を大きな肩へと寄り添わせる姿が。


「うん、でも寂しくは無いよ。 皆、元気にやってくれるだろうから」


「そうですね。 私も、そう思う―――あっ!」


「ん? どうしたの?」


 でもその早々に何かを思いついたのか、茶奈がその頭を上げていて。

 ふと勇が振り向けば、互いの視線が向き合う事に。


 茶奈がキョトンとした眼を向けながら。


「私、今思ったんです。 フララジカって、本当は〝平和〟って意味、じゃないかなって」


「あ……」


「共世界って、二つの世界で一緒になろう、って事じゃないかなって、思った」


 きっとその答えを導けたのが嬉しかったのだろう。

 その間も無くに、再び視線を逸らしては頭をまた肩へと擦り付けていて。


 勇もそれが何だか嬉しかったのか、揺れる茶奈の頭をそっと撫で上げる。

 彼女の腰にも腕を回しながら。


 共に視線を空へと向け直して。


「そうだな、きっとそんな意味なんだろう。 だから無いと思っていて、本当は有ったんだろうね。 彼等にとってはそれくらい〝平和〟は特別だったのかもしれないな―――」


 今はただただ仰ごう。

 空に未だ瞬く輝きをその目でしっかりと追い掛けながら。

 かつてより共に歩んで来た友達を最後まで見送る為に。




 明日の平和、フララジカ。

 かの地にてその言葉がいつか、正しい形で寄り添う事を願って。






 ()()()幻想フララジカ―――

 こうして世界は緩やかに、混ざり合う事を()めた。


 そして分かたれ、新しい時代を迎えよう。




 希望に満ちた明日へと継ぎ繋げる為に。







 時き継幻想フララジカ 完




 ―――However(だが)


 ...To be Re(双世界は)world(まだ)ed from(救済を) over earth(終えてはいない)...




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